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第11話

「いや、北村さん。俺は討伐隊ギルドに入りたいなんて一言も言ってませんよ!?」


「いや、君が良いなら別にこのまま帰ってくれても構わないが……当然この結果は上に報告しないわけにはいかない。そうすると君は国の研究機関に箱詰めだろうな」


「は? 研究機関? なんでそんな大事に?」


「なんでって……これほどスキルを持った人間が他にいないからだ。君の戦闘を見たところ、ただ者じゃないのは俺にも分かる。ただ、如何せん君には常識が備わっていないように見える。その力をモンスターでなく我々人類に向けられるわけにはいかないからな」


 北村さんは先ほどまでのかしこまった姿勢が嘘のように、鋭い眼光を俺に向けた。


「要は監視ってことですか?」


「簡単に言えばな。ただ、ウチの支部に所属するっていうなら鑑定結果も誤魔化して上に報告してやる。討伐隊としての業務も岩瀬の補助って扱いで良いし、もちろんお前の要望も多少は飲む」


「さっきから黙って聞いてたらずいぶん好き勝手なこと言ってくれるじゃない?」


 北村さんが鑑定結果の隠ぺいの条件などを話していると、今まで黙っていたセリーヌが口を開いた。


「そんな条件を受けなくてもこいつなら力づくでなんとでも出来るとは思わないわけ?」


「まあ、な。それに女性陣二人も相当なスキル持ちだろう? なんとなくだが一般人が放つプレッシャーとは比べ物にはならない。現状パワーバランスは圧倒的にそっちに傾いてるだろうな」


「それじゃあなんで交渉なんて持ち掛けたんです? 意味がないというのは分かっているでしょう?」


「さっきも言ったが君には常識が無いし、それにつけ込もうと悪い虫が寄ってくる可能性があるからな。力だけあってもどうしようも出来ないことが世の中にはあるんだよ」


「なるほど。まあ、北村さんの言いたいことは良く分かりました。良いでしょう、討伐隊に入りますよ」


 俺はすぐに入隊の意思を表明した。

 その様子にマリーとセリーヌも怪訝そうな表情を浮かべたが、俺にも考えがある。


「ただ、条件がいくつかあります。基本的に俺は討伐依頼を受けません。他の隊員で対応できない場合のみ依頼をうけましょう。そして報酬ですが最低でも二級隊員と同程度を用意してもらいたい」


「……まあ、いいだろう」


 北村さんは多少考えるそぶりを見せたがすぐに承諾した。


「ちょっと支部長!? なんでそんな簡単に決めちゃうんですか!? 私、五級隊員からめちゃめちゃ頑張って昇級してきたのにあっという間に梶谷さんに並ばれちゃうんですか!?」


「今回は特殊なケースし仕方ないだろう? ゴブリンキングをソロで討伐できるならすぐにでも一級隊員に推薦してやるけどお前に出来るのか? 出来るわけないよな?」


 北村さんのその言葉に岩瀬さんは唇を噛んで悔しそうにしていた。


「あ、あと質問なんですけど、この支部に食堂とかって併設されていないんですか?」


「食堂? いやここには無いが、近くにある討伐隊ギルド用の寮にはある」


「じゃあ、そこを俺に貸してもらいたいです」


 俺がそう言うと北村さんは首を傾げた。


「食堂なんか借りて何するんだ?」


「俺、酒には目が無くてですね……自分のバーを持つことが夢だったんですよ」


 バーの店員っていつでも酒が飲み放題じゃないか、と昔考えたことがある。酒に囲まれて生活したい俺からすると天国だ。


「……始まったです」


「……こうなったら手が付けられないわよ、こいつ」


 俺が目を輝かせて夢を語る横でマリーとセリーヌは頭を抱えているが気にしないことにする。


「支部長、この人ずっとお酒を飲むつもりですよ? それで私と同じ報酬がもらえるんですか? おかしくないですか?」


「ったく、お前は少し黙ってくれ。で、条件はそれだけか?」


「ええ、それが叶うならぜひ討伐隊ギルドに入隊しましょう」


 俺のその言葉を聞いた北村さんはおもむろに立ち上がると右手を俺に向けて差し出した。


「決まりだな。ようこそ討伐隊ギルドに」

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