序盤でヒロイン
(つ、疲れた····なんだか、くらくらする)
緊張していたのもあったし、変なことを言って疑われるのも怖かった。参加する前に
言葉に詰まったりした時、すかさず
(····手、放してくれない。どうしよう······手も、顔も、あつい)
あの時。
『俺は、俺以外の誰かが君に触れるのは嫌だ。微笑むのも嫌だ』
手を握られたまま、あんな風にまっすぐ想いを告げられて。
『なによりも君が大事なんだって、伝わらない?』
でもそれは、
でも、あの言葉は、同じだった。
『俺のことだけ、見て?』
昔、幼稚園の頃に
「
「はあ⁉ ハクちゃんはあたしたちといっしょに遊ぶんだから、男子はあっちいって!」
「カイくんも、他の男の子たちみたいにあたしたちのハクちゃんをイジメるんでしょ! そんなのゆるさないんだからね!」
「カイリはダメ。ハクは私たちといっしょの方が、あんぜんなんだから」
女の子たちはなぜか俺のことを守ってくれて、すごく心強かったんだけど、男子はみんな敵! みたいな雰囲気がちょっと怖くて、俺はこういう時にいつも泣きそうになっていた気がする。女の子たち、集まると男子より強いんだよね。
三人の女の子たち対
「俺のことだけ見て!」
そこには、俺だけをまっすぐに見つめている
「俺、
あの時から、俺は
(まさか、ゲームのセカイで同じことを言われるなんて思わなかった)
急に強く抱きしめられて、すごくびっくりしてしまったけど。
『······あなたが、それを本当に望むなら、』
俺の気持ち、伝わったよね?
動揺しすぎてぎこちなかったかもしれないけど。
また
(ちゃんと、本当のこと言わないと。俺が男で、しかも
それに、俺が転生者だってことも言ってしまった方がいいんじゃないかな?
理解してもらえないかもしれないけど。嘘を嘘で塗り固めるより、ぜんぶ本当のことを話して、それでも俺のことをちゃんと好きでいてくれるのか。
(せっかく回避した死亡フラグを自分でまた立てるのもあれだけど、これ以上····嘘、つきたくないよ)
俺は繋がれた手を見つめ、決心する。考えて考えて、出した答えが『真実を話す』こと。それが、俺が今できる
「もう少し、付き合ってもらってもいいかな?」
「
「はい、わかっています。なにかあれば呼んでください」
後ろから黙ってついて来ていた
「疲れただろう? ここ、座って?」
ここ、と
「あ、あの!」
「ごめん!」
ほぼ同時に俺と
「あ、えっと····?」
「ごめん、ハク。俺、君に酷いことをした」
俺は自分の言おうとした言葉を呑み込み、
「お茶会に参加する前、君にしたこと。あれは最低だった」
え? と俺は表情が強張る。
あれのどこか最低なことなのか。
もしかして、あの言葉はぜんぶ嘘だった、とか?
「君の気持ちも考えないで、俺は····本当にごめん。謝っても許してもらえないかもしれないけど、」
うん? ちょっと待って。
なんだか誤解がありそうな····。
俺の気持ちって?
どうして
「ちょ、ちょっと待ってください····なにか、話が噛み合ってないっていうか」
俺、ちゃんと気持ち伝えたのに。
なんで
それに余裕がないのか、また一人称が「俺」になってる。あの時と同じだ。
「あの····えっと、
「え、何にって····君の気持ちも考えないで、気持ちを押し付けた。皇子の権限を利用して、君に色々と
(うん? えーっと····なんだろう。色々と誤解されてる、気がする)
別に気持ちを押し付けられたとは思っていないし、強いられたとも思っていない。なんならその気持ちが嬉しかったし、ものすごくドキドキした。
それをまさか誤解されていたなんて、なんだか寂しい。
俺はずきずきと痛む胸と、くらくらする頭でそれ以上なにか考えることができなかった。上手く言葉が出て来ない。どうしたら
それは結局、彼自身を見ていないのと同じことだ。だから、もう。
嘘は付かない。
気持ちも隠さない。
「
「え····? 嬉しかったって······だって、あんなに怯えてたのに?」
「怯えてなんかいません。びっくりしただけです」
これはもう、本当のことをはっきりと言うしかないと思った俺は、淡々と
「この際だから言わせてもらいますけど。私····いえ、俺は、男です。花嫁探しの儀式であなたを殺すために送り込まれた、暗殺者なんです!」
もう、どうにでもなれ! そんな気持ちで俺は告白する。これでもう、
「理解してもらえないと思いますが、ここはあるひとが作ったゲームのセカイで、俺は元々普通の高校生で、事故でたぶん死んじゃって、神サマの手違いでこのモブ暗殺者に転生しちゃったんです。ホントはあなたを殺そうとして逆に殺されちゃう、捨てキャラなんです。だから、あなたは俺なんかに謝る必要もなければ、恩義を感じる必要もないんです!」
言った····言ってしまった。
頭おかしいと思われるか、信じてくれるかは、
でもこれで、俺は本当にお終いかも。
笑うしかないが上手く笑えず、不自然な苦笑いになってしまう。
「······じゃあ、好きなひとって、誰?」
ぽつりと
(え? なんで今、そこが気になるの? っていうか、めちゃくちゃ怒ってない?)
混乱している俺のことなど露知らず、
(俺、このまま
頭が痛い。
右肩があつい。
ちくちくと胸が痛む。
視界がぐるぐる、する。
気持ち、悪い。
俺は急に酷い眩暈に襲われて意識が遠くなり、そのまま視界が真っ暗になった。