しかし今一番わかりやすく動揺しているのは、横にいる
「な、な、な、なに言って····るん、ですか? あい······は? ええっ⁉」
やばい、可愛い。
あわあわと挙動不審になっている
どう考えても、さっきまでかなり険悪なモードだったはず。この反応はどういう風に受け取ればいいんだ?
あの時。
無理矢理抱きしめた時、その肩がびくりと揺れたのも無視して。もう完全に嫌われたんだろうと思っていた。それでもいいと思った。
このイベントで
そんな俺のエゴと焦りと嫉妬がごちゃまぜになって、あんなことになったというのに。今のこの反応はやっぱり変だよな?
普通なら冷めた瞳で見上げてくるだろう場面で、真っ赤になって動揺しているんだから。
その意味を確かめるべく、俺はもう一度、なにかそれっぽい台詞を言って試してみることにした。
「私の花嫁は、君だけでいい」
「だ、だ、だ、だ、駄目ですっ! 無理ですっ」
「どうして? ····私のことが、嫌いだから?」
「そ、そうじゃなくてっ! そもそも····私は、」
うーん? なんだろう。本当にわらかない。とりあえず、嫌いじゃないってことで合ってる? じゃあなにが無理? 生理的に無理ってやつ? 嫌い以上に無理ってこと?
つまり生理的に無理で嫌いってこと?
あ、これ、終わった····かも。
「こほん! そこまでです。
「ほら、座って座って。兄上もぼけっとしてないで座りなよ。ふたりはいつからそんなに仲良しなの? もしかして昔からの知り合いだったとか? これじゃあ、俺が入り込む隙間なんてないじゃん」
「 ハク様、甘いものはお好きです?
この展開は全く想像していなかった。
「よく見たら綺麗な白銀髪なのね? まるで月のような美しさだわ。宝玉のような大きな瞳も魅力的。その衣は皇子の趣味かしら? よく似合っているわ」
まさか全員、
「遠慮しないで、たくさん食べるといい。甘い物、好きだろう?」
「····あ、えっと····その、どれもおいしそうで、迷ってしまって」
食べてもいいのか迷っているんじゃなくて、どれを食べたらいいかで迷っていたようだ。全部好きなだけ食べていいのに。
そんな可愛い顔で可愛いことを言うから、それを見せられている目の前の三人の頭に、ほわほわとピンクの花が飛んでいるように思えてならない。
それは周りの者たちも同じで、微笑ましくこちらを見守っているのがわかる。
「ほら、食べてみて?」
俺はとりあえず
「あ、ありがとう、ございます」
おずおずと俺の指先にあるひと粒の
(やばい····なんか雛に手ずから餌をあげてる気分)
瞳をぎゅっと閉じて、あーんと小さな口を開けた
飴と一緒に俺の指が唇に触れたことに気付いたようで、口に入った飴の甘酸っぱさと恥ずかしさで頬が染まってく。柔らかいその唇の感触に、俺もなんともいえない気持ちになった。
「甘くて······ほんのり酸っぱくて、でもすごく美味しい、です」
台詞と共に満面の笑みがそこに生まれ、皆がほわほわと癒されている中、俺はその破壊的な可愛さに見惚れていた。もっと優しくしたい。あんな風に強制的に従わせるんじゃなくて。もっと甘やかしたい。泣き顔じゃなくて、笑顔がみたい。
「あ····ごめんなさい、私····今、」
「君は謝らなくて、いい」
「······あ····えっと、」
「私が大馬鹿者だったんだ。君は笑った方がいつもの数百倍可愛い。だから、もっと笑って?」
その笑顔が他の誰かに向けられるものでも、あんな顔をさせるよりずっといい。それでもいいと思える余裕が欲しい。安心して笑ってもらえる場所でありたい。
「······はい、」
もっと、俺を好きになって欲しい。
今みたいに、たくさん笑いかけて欲しい。それくらい、俺の中で
「ほらほら、こちらもお食べなさい。揚げ菓子はお好きかしら?」
「甘い物が好きなら、苦くないお茶の方がいいんじゃない? 花茶は用意できる?」
「どうしましょう! ずっと飽きずに見ていられます! 可愛いですわっ」
「か、可愛い? 私なんかより、
「まあ!? ご自分の可愛さに気付いていないんですの!
それ、
にしても、キャラ変しすぎだろ。
これは許されるのか?
『やはり色々と改変されちゃってますね。まあ終わりよければなんとやら、です。イレギュラー中のイレギュラーでしたが、このメインイベントは無事に終わりました。ヒロインのあなたへの好感度が急上昇しています。良かったですね、
ナビが明るい音声で話しかけてくる。おかしい。色々とおかしい。
そもそも、
『次のイベントは五日後、お忍び
それに関しては、物語通りであれば確かに色々と起こる。エンディングに関わる大事な恋愛イベントと同時に、
「
「あ、ああ········って、あっまっ⁉」
「す、すみません! 甘い物、お嫌いでしたか?」
俺の反応にびっくりした
「兄上、昔からあんまり甘い物食べないと思ったら、そもそも得意じゃなかったんだね。人生損してるよ」
「······そういうところも、一緒なんですね」
ぽつり、と囁くように優しい声音で
(また、その顔····君が好きなひとって、忘れられないひとって、いったい誰なんだ? そんな設定、ないはずなのに。これも
今ここで抱きしめたら、その想いはどこかへ飛んで行ってくれるだろうか?
好きだよって囁いたら、頭の中は俺でいっぱいになる?
(そんな軽々しく言っていい言葉じゃないよな····伝わらなきゃ意味ないし)
あとでちゃんと謝らないと。
あんなこと言ってごめんって。
乱暴にして、ごめんって。
わいわいと明るい会話が目の前で交わされる中、俺はひとり、そんなことばかり考えていた。