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第7話

駅前のファストフード店。店内はがらがらで雨芽あめはレジで注文品を受け取ると店を出た。

日曜日の朝はこの辺りは人が少ない。袋からバーガーを取り出してかじるとゆっくり歩き出す。

駅へ向かう学生服はクラブ活動か何かだろう。雨芽はそれを横目に姉の日向を思い出した。

早朝からお弁当を作る日向ひなたはキッチンで冷凍食品を温めている。レンジをフル活用しながら、お湯を沸かして水筒にお茶を作っていた。それを目を擦りながら見ていると日向が笑った。

『おはよう、雨芽。早いね?でも今日は日曜日だから寝ててもいいんだよ?』

『うん、目が覚めちゃった。お姉ちゃんは部活?』

弁当箱にご飯を詰めながら日向は頷く。

『そう、今日は遅くなるよ。七時くらいかな。ご飯遅くなるけどいい?』

『うん、いいよ。カレーライスがいいな。』

『うん、わかった。じゃあ帰りに買い物して帰るから一緒に作って食べよう。』

そう言って玄関のドアをくぐったきり日向は帰ってこなかった。

三年前だ。あまり帰らない両親が何故か家に帰り、暗い顔をしてリビングに座っていた。

『あれ?お父さん、お母さん?』

雨芽は靴を脱ぐとリビングにいる二人に声をかけた。電気もつけずに外からの灯りだけが照っている。パチンと電気がつくと母親は泣いていた。

『ああ、雨芽、お姉ちゃんが…。』

『うん?あ、お姉ちゃんいないね。』

きょろきょろする雨芽に父親が呟く。

『お姉ちゃんが事故に会って死んだ。もういない。』

『はあ?意味わかんない。お姉ちゃん?お姉ちゃん?』

耳を貸さず雨芽はキッチンを覗き込む。調理台には買い物袋が置かれ、中にはカレーの食材が入っていた。

『ほら、いるんじゃん。お姉ちゃん、どこ?』

『雨芽…。』

不安そうな顔をした父親をよそに雨芽は袋から食材を出す。

『もう…お姉ちゃん、買い忘れかな?先に作ればいいよね?ええと…お鍋は。』

棚を開きしゃがんだ雨芽に父親が怒鳴った。

『やめなさい!雨芽!聞きなさい。お姉ちゃんはもういない、死んだんだ。』

鍋に手をかけて動きを止めた。

『やめてよ、お父さん…本当に意味分かんない。』

指先が震えて目の前が滲んでいく。

『やめてよ。なんでそんな意地悪言うの?嘘つきじゃん!』

その時の父親の顔をよく覚えている。

バーガーを食べ追えると包み紙をくしゃくしゃにして入っていた袋に突っ込んだ。

あの日、日向が買っていた食材を持ち帰ったのは父親だった。彼女の事故を知り病院に駆け込んだ時にはもう遅く、その後自宅で母親と合流し雨芽を待っていたのだ。

袋からしなびたポテトを取り出し口に放りこむ。味気ないそれを噛んでは飲み込んだ。

日向がいなくなってから母は完全に寄り付かなくなり、父は時々帰っては月々のお金を置いていくだけだ。あの家がまだあるのは父が必要経費を支払っているからであるが、雨芽がいなくなったらもう用済みだろう。

ポテトが空になるとくしゃりと潰して袋に突っ込んだ。

『ああ…先生のご飯…美味しかったなあ。』

そういえば先生、家にいるからって言ってた。雨芽は踵を返して歩き出そうとしたが立ち止まり家路についた。


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