台所では鍋の上で蓋が踊っている。
奥の
喜治の後ろにふわりと爺がやってくる。それに気付いて喜治は振り返る。
『なあ、親父。
『そうなのか?』
消え入りそうな声で爺が言うと喜治は頷いた。
『ああ、相当な。あの家も溜め込んでる…お姉ちゃんどころじゃない。』
『うーん、ここに連れてくるのもいいんじゃないの?』
『いいわけねえだろ。未成年で女の子で、親がいないってだけで問題なのに知らん男の家に連れてきたら犯罪だろ。』
『もう入れたじゃない?』
『あれは不可抗力だ。それにあんな深夜に一人でほっとけるわけないだろ。』
『まあ、そりゃあそうだけど。』
爺はふわりと浮かぶと炊き立てのご飯の入った鍋の蓋を摘んだ。
『おい、まだ蒸らしてる。開けたらてめえの飯は冷えたカチカチのにしてやるからな。』
喜治の言葉に爺はしょんぼりすると指を離す。
『親父さあ、死んでんだから遠慮しろ?それから家に猫は入れんじゃねえよ。掃除大変だろ。』
先日からこの家には野良猫が入り込んでいる。もう我が物顔で家を闊歩するため、喜治は掃除に難儀していた。今も足元でニャアニャア鳴いている。黒と白のブチで緑の目をした猫だ。
『お前の飯はもうちょっと待ってろ、用意してっから。』
猫はニャアーと鳴くとおとなしくその場に丸くなった。
『で、親父は雨芽ちゃんのお姉ちゃんとやらを見たのか?』
喜治は煮物を器に盛り付けて盆に乗せると、漬物、箸を置く。それを食卓に置き、炊いた白米を満遍なく混ぜると茶碗に盛り付けた。
『お姉ちゃんは見てない…お前が言うとおりあの辺をウロウロしてたならお姉ちゃんではなくなってるはずだ。』
『うむ…そうだよな。』
もう一つ椀をとり白米を盛り付けるとそれを仏間にもっていき、そっと置く。
すぐに台所へ戻るとグリルで焼いた魚を取り出してほぐし小さな皿に乗せ、猫の前に出した。
『熱いから…冷めたら食べな。』
喜治は食卓に着き箸を持つと食事を始める。
爺は目の前でふわふわしながら幸せそうな顔をしてかみ締めている。
『美味いだろ、俺が作ったからな。』
『ああ、喜治の飯は美味い、しかし…生きてるうちに食べたかったなあ。』
『ポクっと死ぬからだ。で、雨芽ちゃんは親父的にはどうなんだ?』
『ううーん、そうねえ。あの子自体が危ない…お前も気付いているだろうけど薄いのよ。』
『ああ…魂が?』
箸で煮物を摘むと口に放りこむ。
『あのくらいの子はもっと光が強い、けどあの子は全然光ってなくてね…生きてないっていうのかねえ…変なものに好かれやすいんだ。あれじゃあね。』
爺は腕を組むと視線を上げた。
『喜治はどうするんだ?』
箸をとめて、喜治は眉を寄せた。
『どうにもこうにもならんだろ。でも知った以上はなんとかしないと…。』