全て終わったと思い踵を返して
雨芽は傍に落ちていたコンクリートの塊を持つと白い手に投げつけた。
『やめろよ、猫ちゃんがかわいそうだろ!』
喜治はそれを聞いて笑うと頷いた。
『そうだ、もっと言ってやれ。』
雨芽は威嚇する猫を上からかばうと白い手をにらみつけた。電柱の裏から白いのっぺりした顔がのぞきこむ。
『怖くなんかないぞ!なんだよ!』
手当たり次第に投げつけていたものがなくなって雨芽は視線を落とす。猫は威嚇をやめずに雨芽の膝の上でシャアシャア鳴いている。
それを雨芽の傍に転がすとにっこり笑っていった。
『雨芽ちゃん!そいつでぶったたけ!』
雨芽はすぐ傍に転がってきたビニール傘をひっつかみ、膝を立てて立ち上がると両手で傘を持ってフルスイングした。丁度白い何かの顔が電柱から出ており、傘の柄とクリティカルヒットする。ゴッ!という音と共に白い何かは電柱の前から傘が流れていく方向へ飛んでいった。
『ナイスショット!』
喜治の掛け声とともに白い何かは道路にべしゃっと落ちるとふにゃふにゃとしぼんで消えた。
ほっとしてゴホッと咳き込んで傘を落とし、その場に座り込む。雨芽の顔を心配そうに猫が見つめている。雨芽が撫でてやるとホッとしたのかゴロゴロと喉を鳴らした。
『もう、大丈夫でしょ。多分ね、あとは雨芽ちゃんの家かな?』
喜治の声に雨芽は顔を上げたが、電池が切れたようにその場に倒れこんだ。