翌日、
『あ、雨芽!どうしたんだ?一体。』
雨芽の姿に父親は喜治を睨む。どうみてもサイズの合わないダボダボのジャージを着て、顔は傷だらけの娘に驚かない親はいない。
『ああ、どうも。僕はこういった者です。』
喜治は着物の袖から名刺を差し出すと愛想よく笑う。
『・・・区の清掃業者さん?』
父親は名刺と喜治の顔を交互に見た。
『はい、色々とゴミがいましてね。それを綺麗にするのが僕の仕事です。それで雨芽さんのお宅にもゴミが少しありまして掃除しに来ました。』
『ゴミって?』
雨芽が鍵を開けると父親の顔を見上げた。
『お化けだよ。』
信じがたい顔をして雨芽に続き父親、喜治が家に入る。喜治は草履を脱ぐとスタスタとリビングの暗がりを覗き込む。もそもそ動く黒い影に舌打ちしてからカーテンを開いて窓を開けた。差し込む陽気にもそもそ動いていた黒い影がギャッと音を立てて消滅する。
『うん、これでいいかな。締め切っておかないでくださいね?空気の入れ替えは必要です。』
父親は驚いたように雨芽を見る。
『これは一体・・・。』
『お姉ちゃんを探してたんだ。そしたら先生に会った。今みたいなのが家にいてね・・・怖い思いをしたんだ。』
雨芽は指で顔を触る。ぴりっと痛んだがどこか誇らしかった。
『もう大丈夫なのか?』
『うん、もう大丈夫。でも・・・さ、お父さん、私ここで暮らしたい。お父さんと。』
父親は膝を着くと雨芽の手を握った。
『しかし・・・二人では食事も追いつかないだろうし、ここは日向のこともある。寂しい思いをさせてしまう。』
『けど・・・ここがいいよ。お姉ちゃんのこと、寂しいけど・・・やっぱり忘れたくないんだ。』
雨芽の言葉を聞いて父親は頷いた。
『・・・そうか、わかった。お爺ちゃんやお婆ちゃんにはそう話そう。』
『うん。あと・・・。』
話を切りくるりと玄関のほうを振り向いた。開かれたドアから猫が入ってくる。
黒と白のブチで緑の目をした猫は雨芽の足元にするりと体を寄せるとニャアンと可愛らしく鳴いた。
『この子、命の恩人なんだ。家でお世話していいかな?』
父親はそれを聞いて笑うと雨芽も笑った。
それを横目に喜治は玄関に向かい猫のほうを振り返る。猫は二人の足元で嬉しそうに尻尾を振っていたが喜治に気付くとじっと見つめている。
喜治は苦笑すると呟いた。
『じゃあな、おねえちゃん。』
小さな喜治の声に反応するように猫はニャアンと鳴いた。