随分と森を走ってきたから足がクタクタでもう休みたかった。
もう走るのはうんざりだったし、少し何か口にしたかった。けれど手持ちはないし着たきりで人前に出るのも難しい。
それに…喉が焼けるように痛い。
カイルは仕方なく大通りの道に出て周りを見渡した。まだ夜明け前だからか人はまばらだが、カイルを見た人はギョッとした顔をしている。
すれ違いざまにカイルの顔を覗き込むも、ボサボサの髪が顔を隠しているせいで殆どの人は辛気臭いと言う顔をして行ってしまう。
小さく溜息をついて歩き出した。とりあえずこの格好なら声をかけられずにいられそうだ。
ただその期待もすぐに打ち破られた。
『ねえ、君どうしたの?いい仕事紹介してあげようか?男の子も大歓迎だ。』
カイルが顔を上げると目の前に男が立っている。傍に店があるポン引きの男だ。
断ろうにも声が出ずに唸るしか出来ない。片手を掴まれてぐっと引かれた時、大きな声がしてカイルの肩に大きな手が触れた。
『私の連れだ。』
後ろを振り返ると男がポン引きの男と話している。ポン引きはすぐにカイルの手を離して立ち去ったが、今度は追い払ってくれた男がカイルに叱りつけた。
『こんな所で何してる?君はここがどういう場所かわかっているのか?』
ただ男は一通り言い終えた後でカイルを上から下まで見るとボサボサの髪が顔にかかっているのを確認して大きく瞬きをした。
『君は…家出か?』
カイルは首を横に振ると男は頷き、ここでは人目に付くとカイルを連れ出した。
車に押し込みどこかへ走りだす。少し走った後で辿りついた場所は小さなホテルだった。
ホテルはいわゆるB&Bだ。彼はフロントに行くとカイルをそこに待たせて、数分ほどで戻り手を引き部屋に入った。
『何か食べたのか?注文はしておいたが普通のものなら食べられるのか?』
彼は上着を脱ぐとそれをポンとベットに投げた。
カイルが頷いたので彼は風呂の用意をしてまたカイルの前に立つ。
『どれくらい外にいたのかは知らんが、まずは風呂だ。使い方はわかるか?』
カイルを連れて浴室へ行く。浴室を確認してカイルが小さく頷いた。
『なら、入れ。それから食事にしよう。着替えは私の服で我慢しろ。そこに用意しておくから。私はそっちの部屋にいる。ここには入らないから心配するな。』
カイルが頷くとドアが閉まった。
突然の出来事にまだ頭が追いついていない。カイルはとりあえず着たきりの服を脱ぐと浴室に入る。暖かいバスタブに体をつけて頭から湯をかぶった。手や足は引っかき傷だらけで多分顔もそうだろう。ざぶざぶと体を洗い長い髪を洗った。一通り終わり体も温まったところで浴室を出ると着替えとタオルが置いてある。タオルで拭き服を着ると目の前にある鏡に気が付いた。
大きなシャツは糊付けされていてジーンズもくたびれてはいるが綺麗だった。
カイルが彼のいる部屋のドアを開けると、食事の用意がしてあった。
『出たか、うん。とりあえず見られるようになったな。ここに座って食え。』
彼はぽんと椅子を叩きカイルを呼んだ。それに答えて席につく。