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第34話 期末テストの乱



「ふんふん」


 期末テストの結果表を見下ろして、隼人はにっこり笑った。

 目標にはまだまだ達していない。今の自分じゃなかったら、きっとこの結果に打ちのめされて、立ち直れなかったかもしれない。


「でも、これも悪くないんだよ」


 落ち着いて見てみれば、全体的に平均で五点はアップしているのだ。龍堂がよく見てくれた数学に至っては、十点である。


「少しずつだけど、でも、ちゃんと前には進んでるんだよね」


 結果表をファイルに挟もうとして、後ろからひったくられる。


「うっわー! ぜーんぜん駄目じゃん!」

「一ノ瀬くん」


 振り返らなくてもわかる。ユーヤだった。ユーヤは結果表をいろんな角度から見ながら、ハンドルを切るみたいに上体をうねうねさせた。


「ダッセー! いいやつ一個もねーじゃんっ」


 と、大笑いする。そうして後ろからやってきたケンたちにそれをパスした。ケンやマオがしげしげと眺める。


「うわー悲惨。勉強してたっぽいのにこれ?」

「地頭じゃね? おいアンナ、お前のゴミ古典より下いんぞ」

「うっっせ! 流石にこれに勝っても嬉しくないわ!」


 隼人は、唇を噛みしめたが、そこで下は向かなかった。ぐっとお腹に力をこめた。そしてにゅっと手を差し出す。


「勝手に見ないでほしい。返してください」

「はー?」

「なんか、久しぶりにイキってるけど、どしたのぉ?」


 しかし、ケンたちは意に介さず、にやにやと愉しげに隼人を見た。隼人はぎゅっと見つめ返す。負けるもんか。

 しかしその視線を遮って、ユーヤが、斜めから躍り出てきた。ぬっと突き出してきた中指で、隼人の額をごんと突いた。硬い指先に、隼人は思わず目をつむりよろけた。


「うるせーブタ! バカがどんだけ努力しても無駄なんだから、これにこりたらリュードーに迷惑かけんなよなっ!?」


 ぎっ、と目をむいて隼人を威嚇した。隼人は、これにはムッとして言い返そうと口を開いた――


「ユーヤ、また龍堂〜?」


 しかし、その言葉にひっかかったのは、隼人だけじゃないらしい。ヒロイさんが呆れたようにユーヤを見ていた。マオも、ケンも同様である。マオも成績表を隼人につっかえしながら、続ける。


「そーだよユーヤ。龍堂とかどうでもいいじゃん」


 ユーヤはマオをきっと睨みつける。薄情なやつを見る目だった。


「よくないっ! こいつがつきまとってるせいで、リュードー困ってんだぞ!? 勉強の邪魔してるしっ……俺、そういうの許せねえんだよっ!」


 ユーヤが、隼人の手にある結果表を、上に打ち上げる。結果表は、ひらひらと舞っていった。隼人は慌てて追いかける。その間も、言い合いは続いていた。


「いや、邪魔っていうか……」

「ユーヤの正義感が強いのはわかるけどー、なんでそんな龍堂なん? 俺らのグループじゃないしさ」

「そーそ、うちらはフジタカ派じゃん」

「いや、きのこたけのこみたいに言うなし」


 ヒロイさんの言葉にマオが突っ込み、笑った。張り詰めた空気が一瞬ほどけた。


「かんけーねえっ! グルとかグルじゃないとかなんだよ!? そんな打算みてーなの、俺きらいだっ!」


 しかしそれを一喝するように、ユーヤがまた怒鳴った。これにはヒロイさんもムッとして、「打算て。友達ってだけじゃん」と声を尖らせた。


「友達ってそーゆーんじゃねえだろっ」

「もーもーもー。わかったって、ゴメンて」

「どっちにしろ俺、龍堂はどーかと思うよ。からあげなんかとつるむし、案外陰キャなのかもね〜」

「ね〜ガッカリ」

「つるんでねえってんだるぉ!?」


 ――ダァアンッ! と、ユーヤは振りかぶって隼人の机を叩いた。くわん、くわん……と、金属の部分が反響する。これにはさすがにクラス全体がしんとなり、注目が一気に集まった。結果表を拾い、戻ってきた隼人もぽかんとして、成り行きを見守るしかない。あそこ、俺の机だけれども。

 オージが、マリヤさんを連れて、こちらにやってきた。


「いい加減にしろ。見苦しい」




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