「とりあえず探してみるか」
タカマサは帰りたいという思いと、ゲート見つければ測定器を落としたことをチャラにできるかもしれないという思いを天秤にかけた。
ゲートを見つけたことを報告すれば、測定器を落としたことはきっとうやむやになる。
結局は打算的な考えでタカマサもゲートの捜索に同意した。
測定器の反応が強い方に進んでいく。
「おっ、あれじゃないか?」
森の奥に少し入ったところでゲートが見えた。
「ブルー……等級の低いゲートだな」
青い魔力が渦巻いて空中に浮いている。
異世界やダンジョンへの入り口とも出口ともなる。
ゲートには色があって青は比較的安全で、赤くなっていくにつれて危険になる。
過去一度だけブラックゲートと呼ばれる黒いゲートが出現したことがあって、中に入った人は誰も帰ってこなかった。
ブラックゲートはそのまま自然消滅してしまったので、結局どのようなゲートだったのかという情報も少ない。
ただ赤いゲートの上の危険度が、ブラックというのは今の常識である。
「周りにモンスターは?」
「いません」
リッカに何の反応もない。
ややゲートを警戒している感じはあるが、モンスターが近いようなリアクションではない。
「じゃあゲート等級の測定もしてしまおう」
「よかったな。それ無駄にならなくて」
「一応規則だからな」
トシは手に持っていたアタッシュケースを地面に置いて開く。
中身はゲートの魔力を測定する機械となっていた。
トシは測定器を受け取るとアタッシュケースの機械と繋いだ。
タカマサが落とした測定器は持ち運びを重視した簡易的なものであり、トシが持っていたアタッシュケース型の測定器はもう少し精度が高いものである。
トシが測定器を起動させる。
「あとはトシに任せとけばいいな。……おっと」
ゲートの測定はトシに任せてタカマサはタバコを取り出した。
しかしキズクと目があってタバコを箱の中に戻した。
一応キズクは未成年である。
リッカも嫌がるのでキズクの前で吸わないぐらいの配慮は持っている。
「……中学はどうだ? 恋人はいんのか?」
スマホを見て圏外なことを確認したタカマサはキズクに話しかけた。
恋人という言葉にリッカはしっかりとキズクの方に耳を向けている。
「中学校は楽しくやってますよ。恋人はいませんけど」
「そうなのか? お前結構良い顔してると思うんだけどな。俺ほどじゃないけどな!」
タカマサは腰に手を当てて笑う。
キズクの顔が悪くないというのは本当の話だ。
絶世の美少年とはいかないけれど、もう少し整えてやれば目を引かれる女子はいるだろう。
「何で俺睨まれてんだ?」
「……俺にもわかりません」
リッカは冷たい目をしてタカマサのことを見ている。
「余計なこと吹き込むな、と思っておるのさ」
タカマサに聞こえないようにノアがリッカの言葉を代弁してやる。
「なんだ? 余計なことって?」
「さあな」
「何と話してんだ?」
「いえ、独り言です」
ノアもプイッとそっぽを向いてしまう。
追及したいところだけど、モンスターが話せるだなんてキズクにも初めてのことだった。
今のところ他の人にも知られないようにしなければ、どんなことが起こるか分からない。
せめて自分の身を守れるぐらいにならなきゃ、色々なことは秘密にしておいたほうが都合が良かった。
「高校はどうすんだ?」
「多分行かないと思います」
「あー……そうなのか」
どこに行くのか、というつもりで聞いたのに予想外の答えだったタカマサは気まずそうに笑った。
「俺みたいなボンクラが行くよりお前みたいな真面目なやつが行くべき何だけどな」
キズクの経済状況を思い出してタカマサは肩をすくめる。
「そのままウチで働くのか?」
「できるなら……そのつもりですけど」
多分そうはならないだろうなと思いながらキズクは答える。
「まあお前がいてくれるとありがたいからな」
「測定終わったぞ」
「おっ、どうだった?」
「この数値なら……F級ゲートだな。そんなに危険なこともない。すぐに攻略されるだろうな」
「ふーん、F級ねぇ……」
トシが測定器を片付ける間にタカマサはゲートに近づいて眺める。
「なあ、俺たちでちょっと入らないか?」
「何言ってるんだ?」
「別に攻略しようってわけじゃない。ちょっと入ってみて……魔晶石でも近くにあったら少しいただこうってことだよ」
「お前……それは違法だぞ?」
タカマサの言葉にトシは怪訝そうな顔をする。
「そりゃ分かってるけど……ゲートの中で起きたことを外のやつがどうやって知る? 誰も言わなきゃ分かんないさ」
「だが……」
「サトリちゃんだっけ? 誕生日近いんだったよな?」
「それが……なんだ?」
「ブランド物のバッグ、ねだられてるって言ってただろ? 万年貧乏なF級覚醒者じゃ結構キツイんじゃないか?」
「う……」
トシも覚醒者であり、一番下のG級の上のF級というランクである。
覚醒者の中での力としてはとても弱い。
強くなる可能性はあるけれども、金も力もないので可能性に賭けて命を危険に晒す人はいない。
F級覚醒者の稼ぎは少なく、泉ギルドのように安定して給料がもらえるのは珍しい方である。
だが決して高い給料ではなくて、貧しいぐらいになってしまう。