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出来ることから5

「……お前を一人で行かせるわけには……いかないしな」


「へへっ、そうこなくちゃ」


 色々な考えがトシの頭を駆け巡った。

 しかし結局誘惑には勝てなかった。


「だけどキズク君は……」


「俺も行きます」


「キズク君?」


 流石に未成年のキズクを巻き込むわけにはいかない。

 トシはキズクには離れて待っていてもらおうと思ったのだが、キズクもゲートに入るつもりであった。


「ふふ、男はちょっと悪いぐらいがいい」


 意外なキズクの言葉にタカマサも驚いたようだった。

 だがすぐにニヤリと笑って親指を立てる。


「俺がいればモンスターの接近にも気づけますし、逃げ足も速いですよ」


「……危なくなったらさっさと逃げるんだぞ?」


「もちろんです」


 キズクの緊張もしていないような笑顔を見て、トシは逆に不安になってしまうのだった。


 ーーーーー


「前はどうだったのだ?」


 タカマサとトシは装備を取りに行き、キズクは疲れたなんて言い訳をして森近くの広場のベンチに座っていた。

 肩に止まったノアがジトッとした目でキズクを見る。


 状況の整理もしないままにやらなきゃいけないことがあるとここまで来ていた。

 これがやりたいことなのだとしたら、回帰前はきっと良い結末ではなかったのだろうとノアは考えた。


「前は……二人とも死んだよ」


 キズクは晴れた空を見上げながら答えた。


「同じようにタカマサさんがゲートに入ることを提案して、トシさんが断りきれずに一緒に入った」


「お主は?」


「入らなかった。ダメなことだって分かってたし、ゲートに入るのも怖かったから」


 回帰前に同じくゲートに入る流れになった時、キズクは入らないという選択をした。


「俺は車で待ってたんだ。けどいつまで経っても戻ってこなくて……そのうちレンジさんから電話が来た。俺は二人がゲートに入ったことを話して……慌てたようにレンジさんが飛んできたよ」


「それで?」


「俺が涙目で二人が戻ってこないことを話すと、レンジさんは俺のせいじゃないって言って、覚醒者協会に連絡した。俺はその場にいなかったことになって、覚醒者のチームが捜索に入った」


 かなり昔の記憶だけど、キズクの中でも衝撃的な出来事だったのでよく覚えている。


「装備の一部だけが見つかって二人は死体も見つからなかったんだ。あんなんでもレンジさんはタカマサさんのこと可愛がってたからだいぶショック受けてた。しかも覚醒者協会に連絡しちゃったからな」


 ゲートを探す役割だけを与えられた泉ギルドにゲートに入る権利はない。

 タカマサとトシを捜索してもらうために覚醒者協会に連絡したので、二人がゲートに入ったことがバレて罰則を課された。


 加えて捜索のために動員された覚醒者の費用を請求されたりと、踏んだり蹴ったりであった。

 その時期のレンジは荒れていた。


 酒に溺れ、でも失った分のお金は稼がなきゃいけないのでフラフラになりながら仕事をしていたのである。


「俺はそのあとクビになったけど……レンジさんはゲートに挑んで帰らぬ人となったよ」


「そうなのか……あの二人を助ければレンジも助けられるというわけだな。だが……それだけではないな?」


 ノアは肩から膝に移動すると、目を細めてキズクを見上げる。


「勘のいいノアは好きだよ」


「おおおぅぅぅ〜」


 キズクが指でノアの頭を撫でてやるとノアは気持ちよさそうな声を上げる。


「はいはい、リッカもな」


 ハッとした顔をしてリッカがキズクの手の下に鼻を捩じ込む。

 キズクは笑ってリッカの頭も撫でる。


 リッカはフンスと鼻息を立てると嬉しそうに目を細めた。


「おっと、二人が戻ってくる前にっと」


 キズクはポケットからスマホを取り出す。


「えーと……」


 スマホの電波は圏外となっている。

 キズクはベンチから立ち上がるとスマホを手に広場をウロウロする。


「おっ!」


 ベンチの真逆の位置でスマホの電話が弱いながら入った。

 キズクはそのままレンジに電話をかける。


「キズクか? 遅いけど何かあったのか?」


 なんとか電話はレンジに繋がった。


「どうも、レンジさん。ちょっとした問題がありまして」


「問題? 測定器見つからないのか? ……あんにゃろう……どうしてくれようか……」


「あ、いえ、測定器は見つかりました」


 キズクから連絡がきて問題があると言われれば、測定器のことだろうと誰しもが思う。

 しかし今の問題は測定器ではない。


「見つかったのか? ならよかったが……問題ってなんだ?」


「ゲートが見つかったんです」


「なんだと? 二人から連絡はないぞ……何をしてるんだ? …………まさか」


「二人ともゲートに入ろうとしてるんです」


「…………何してるんだアイツら」


 深いため息混ざりの声。

 レンジが頭を抱えているのが目に浮かぶようだ。


「キズク、お前は……」


「俺も一緒に行くつもりです」


「なんだって!? タカマサに誘われたならやめとけ!」


 誰が提案したのかレンジにはお見通しであった。


「二人だけじゃ危ないので。できるだけ早くきてください」


「変なところで責任感あるもんだ……分かった! すぐそっち向かう! 危ないと思ったら二人置いて逃げんだぞ!」


 電話口からバタバタとした音が聞こえて通話が切れてしまう。

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