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出来ることから6

「まあこれで万が一ダメそうでも助けは来るかな」


「それで何が目的なんだ?」


「目的はな……」


「おーい!」


「おっと、来ちゃったみたいだな」


 測定器を探している時のダラダラ感じはどこへやら、荷物を背負ってタカマサは小走りで戻ってきていた。

 そりゃ戻ってくるのも早い。


「もう一個確かめておきたかったことあったけど、まあいいか」


「何ぼーっとしてんだ? いくぞ」


 本当ならこれからタカマサは死ぬことになる。

 タカマサはそんなことも知らないで、さっさと森の中に入っていく。


「俺が一番初めに入る。言い出しっぺだしな」


 魔晶石とはゲートの中に現れる魔力を多く含んだ鉱石のことである。

 多くの場合青白く光った岩が地面から生えていて、それを砕いて採掘して持って帰ってくるのだ。


 だからタカマサは採掘道具を車に取りに行っていた。

 今は採掘道具を自ら背負って、責任を感じているのか先に入ることを志願した。


「キズク君は最後がいいだろうな」


 基本的にゲート周りにモンスターは出てこないし近寄らない。

 だからただちょっと入る分には危ないことは少ない。


 それでも絶対にモンスターがいないとか、近づいてこないというわけではないのでキズクは最後に入ることになった。


「それじゃあ俺があああああっ!」


「タ、タカマサ!?」


「トシさん! ダメです!」


 ゲートに入ろうとしたタカマサが消えた。

 まるでゲートの中に引き込まれたり、あるいは転んで突っ込んでいってしまったように見えた。


 トシが慌てて助けに行こうとしたけれど、キズクはトシを止める。


「だが……」


「こんな時に慌てて入ればタカマサさんの二の舞になりますよ!」


 何があったのかも把握できていない。

 すぐに顔を出さないということは何かが起きている。


 タカマサに何が起きたのか慎重に動かないと、タカマサと同じように何かが起こってしまうかもしれない。


「……そうだな」


 キズクの言うことは正しく、トシも一度立ち止まって冷静さを取り戻す。


「顔だけ出してゲート中を確認してみましょう」


 こうなった原因はなんとなく察しがついている。

 いくつかこんな風になる原因はある。


 モンスターの仕業という可能性もあるけれど、ゲート周りにモンスターが出にくい以上はその可能性は低い。

 となると中の環境が原因だろうとキズクは考えていた。


 不用心に飛び込まなきゃ大丈夫なはずである。


「分かった……」


 トシは慎重にゲートに近づく。

 もしキズクの予想が間違っていてトシに危険が及ぶなら、無理にでも引っ張り戻すつもりですぐ後ろをついていく。


 トシは前屈みになってゲートに頭を突っ込む。

 一度頭を出して懐中電灯を取り出し、今度は懐中電灯を持った手も突っ込む。


「……なるほどな」


 頭をゲートから戻してトシはため息をつく。


「モンスターはいない。だけど中に入るならちょっとずつ足を出すんだ。出てすぐ崖になってる。慌てて足を出さなきゃ少し足場はある。左の方が足場があるから左寄りで入った方がいいな」


 やっぱりとキズクは思った。


「俺が先に入るから。合図したら入ってこい。絶対、合図するまで入るなよ?」


 フリじゃないからなと言って、トシは慎重にゲートに入っていく。

 すり足のようにちょっとずつ足を出して地面があるかを確かめながら進んでいって、入るまでに意外と時間を使った。


 手だけをゲートから出して入ってこいと合図したのでキズクもゲートの中に入る。

 ゲートの中は洞窟のようだった。


 暗くて、トシが持っている明かりがなきゃ周りは見えない。

 入ってすぐのところは地面が抜けて崖のようになっていた。


 手前に少しの足場があるので、キズクは慎重に足を出して中に入り、落ちないように横に歩いて明かりを持っているトシの方に移動する。

 ゲートの正面が崖になっているだけで裏や横は十分なスペースがあった。


「リッカ、気をつけろよ」


 ノアはキズクの肩に乗っているから一緒に入ってきている。

 ただリッカはそうはいかない。


 リッカもそーっと入ってくるけれど、四足歩行の都合上ちょっとだけ大変である。


「よくできました」


 リッカは足場の状態を見て、体を上手く横にして入ってキズクにやったよとアピールする。

 キズクが笑顔で頭を撫でてやるとリッカは尻尾を振る。


「おおい……」


「この声は……」


 キズクたちは崖下を覗き込む。

 トシが懐中時計で照らしてみるとそこにはタカマサがいた。


「タカマサさん、大丈夫ですか?」


「いや、大丈夫じゃねぇ……」


 タカマサは青い顔をして地面に座り込んでいる。

 どこか悪そうだと顔色を見れば分かる。


 入ってすぐが崖になっていると気づかず、大きく踏み込んで足を外して落ちたのだろう。

 落ちた時にどこか怪我をしたようだ。


「座ってるところ見ると、足ですかね?」


「そうみたいだな……この高さ、飛び降りるのは辛いな」


 強い覚醒者なら何ともない高さだが、トシは弱い覚醒者である能力だけで考えると一般人の方が近いのである。

 タカマサがいる位置は結構下の方で、トシが飛び降りるには少しキツいぐらいであったのだ。

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