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出来ることから12

「行ってくるぞ!」


 ノアがサイリウムを持って飛んでいく。

 するとボスアリはノアのことを追いかけていく。


 キズクはボスアリが十分に離れたことを確認して、懐中電灯をつけて先ほどグレイプニルを巻きつけたつらら岩を照らす。

 グレイプニルを伸ばして再び岩に巻きつける。


「よっ!」


 キズクは穴から飛び出す。

 掴んだグレイプニルを縮めながら体をスイングさせて勢いをつける。


 勢いが乗ったところでグレイプニルを解除して出来るだけ飛んでいく。


「ほっ! ……えっと」


 膝を柔らかく使って着地したキズクは懐中電灯でリッカがいる道を探す。

 大体の方向は分かっているが、ボスがいる空間に繋がる道はいくつもある。


「いたいた」


 すねたような顔をしてキズクのことを覗いているリッカの姿が見えた。


「ノア、いいぞ!」


 ノアはサイリウムの光を利用してボスアリを引きつけている。

 ボスアリは飛び回るノアしか見えていない。


 動いたら来るかなと思ったけどボスアリはキズクに気づかなかった。

 あまり目は良くないのかもしれない。


 ノアは一度さらに奥側に飛んでいくと、サイリウムを投げ捨ててキズクの方に向かう。


「どうだ! 僕もやるものだろう!」


 ボスアリはそのままサイリウムの方に走っていき、ノアはキズクとの胸に飛び込んだ。


「よくやった! このまま逃げるぞ!」


 キズクはノアとリッカと一緒に逃げる。

 後ろからボスアリの怒りの声が響いてくるけれど、残されたのはボンヤリと光るサイリウムだけであった。


「おっ、これって……」


 アリを避けながらダンジョンの中を進んでいくとゲートの前に出てきた。

 なんだか上手くゲート近くの横穴に出てきたようである。


「二人とも無事ですかー?」


 キズクは崖の下を覗き込む。


「キズク君! よかった……」


 崖下にはタカマサとトシがいた。

 アリにバレないようにと明かりを消して気配を殺していたところ、上から照らされて眩しそうに見上げている。


 流石にボスのところまで行って帰ってきたので多少の時間は経っている。

 二人がモンスターに襲われていないかキズクは心配していたが、二人もまたキズクのことを心配していた。


「これならこのまま引き上げられるかな」


 横穴まで歩かせなくてもグレイプニルがあればタカマサを引き上げられるかもしれない。


「タカマサ、トシ……」


「えっ?」


「なっ……」


「危ない!」


 試してみようとグレイプニルを出した瞬間、ゲートから誰かが入ってきた。

 勢いよく入ってきたのはレイジであり、入ってすぐが崖になっているなんて知らないレイジはタカマサと同じように足を踏み外した。


 落ちかけたレイジにキズクはグレイプニルを伸ばした。

 タカマサを持ち上げようと出していたことが幸いして、レイジの体を素早く支えることができた。


「キ、キズクか?」


 グレイプニルにぐるぐる巻きにされているレイジは驚いたようにキズクを見ている。


「よいしょ」


 キズクはレイジのことを崖上に戻す。


「ともかく助かった。どういう状況だ?」


「ええと……」


 キズクはサッとブラックアントアギトを後ろに隠しつつ何があったのか説明する。

 もちろんボスアリのところに行って剣を持って帰ってきたことは秘密である。


「なるほどな……何やってるんだか……」


 レイジは深いため息をついて首を振る。


「おーい、キズク?」


 上の状況は暗くて、下の二人は何が起きているのか分かっていない。


「おいっ、このバカども!」


「げっ……兄さん!?」


「げっ、じゃない! 何してんだ、お前!」


 レイジがいると気づいてタカマサが青い顔をより青くする。


「なんでここに?」


「お前らが遅いから心配してきたんだ!」


 レイジはキズクのことをチラリと見てウインクする。

 キズクが連絡したと言わないのは、裏切り者にしないためのレイジなりの配慮である。


「みんな、気をつけて入ってくれ」


 ゲートがあるとキズクが報告したので、レイジは今すぐ来られる人を何人か連れてきていた。

 ロープを使って降り、みんなで協力してタカマサをゲートまで引き上げる。


「タカマサ……」


「悪かったよ……余計な欲出した」


「……無事でよかったよ」


「兄さん……」


 どうせなら怒ってくれればいいのにとすらタカマサは思った。

 剣がバレちゃいけないキズクは気配を消し、グレイプニルで抜き身の剣をぐるぐる巻きにしてリッカのお腹に巻きつけて隠した。


 グレイプニルが繋がっていることがバレないように不自然にリッカのそばにいることになったけれど、タカマサのことにみんな集中していたおかげでバレることはなく駐車場まで来られた。


「俺たちはこいつを病院に連れていく。トシ、お前はキズクを家まで送ってやれ。話は後だ」


「わ、分かりました……」


 タカマサはレイジたちが乗ってきた車に乗せられて病院に向かった。


「行こうか……」


 落ち込んだようなトシが運転する車にキズクたちも乗り込む。

 剣はバレないようにリッカのお腹から運転席の後ろに移動させておく。


「……助けられたな」


 しばらく無言だったけれど、ふとトシが口を開いた。

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