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封じられしもの3

「ただどうやって入るかな……」


 道は封鎖されている。

 単に柵が置かれて入れないようになっているだけじゃなくて、興味半分で入る人なんかが出ないように見張りの警官もいる。


 入りたいですと言って入れてもらえる雰囲気ではない。


「何も堂々となさればいいのです」


 サカモトは軽く笑みを浮かべると封鎖の柵に近づいていく。


「失礼ですがこの先は通行禁止となっております」


 見張りの警官がサカモトを止めようとする。


「私は北形ギルドのものです」


 サカモトは覚醒者としての所属などが記載された覚醒者証を取り出して警官に見せる。


「北形ギルドの方ですか!」


「入らせていただきますよ。こちらの方も一緒に」


「子供……」


「何かおっしゃりたいことでもありますか?」


「……いえ、ありません」


 警官はサカモトの後ろにいるキズクを見て顔をしかめた。

 サカモトはともかく、キズクは見た目に子供である。


 通していいものかと悩んだようだけど、サカモトに押し切られて警官は柵をわずかに開く。


「北形家って、すごいんだな……」


 北形家がそれなりに名の通った家であることは認識していた。

 しかしこんな風に通れるとまでは思ってなかった。


「彼らは非覚醒者ですからね。覚醒者がどういったものかも分かっていないでしょう。もちろん北形家がこの辺りでも幅をきかせているということはありますが」


 覚醒者でない人にとって覚醒者という存在は大きい。

 わがままが通るほどに関係は極端ではないが、その地域を守ってくれている大きなギルド相手では警察でも頭が上がらないことがある。


 特に今回はゲートが発生しているという。

 事態に当たってくれるかもしれない大型ギルドの覚醒者なら通さないわけにもいかないのである。


「どの道、北形家が動く可能性は大きいでしょう。こうした事態に対処するのは、この辺りでしたら北形か、王親、水瓶座ギルドぐらいでしょうからね」


 最終的に北形家が動くなら関係者だと押し入っても後々問題にはならない。

 もし動かなくとも近くにいたから協力しようと思ったなどと言っておけばいいのである。


「……キズク様、隠れましょう」


 地面が揺れた。

 キズクとサカモトは建物の影に隠れて様子を窺う。


「単眼の巨人モンスター……」


「サイクロプスですね」


 キズクの身長の倍はありそうな巨大な人型モンスターが歩いている。

 ただ巨人の目は真ん中に一つである。


 サイクロプスと呼ばれるモンスターであった。

 知能的にはあまり賢くなく粗暴だが、力が強く頑丈なモンスターである。


 今のキズクでは到底敵うような相手ではない。

 息をひそめて隠れているとサイクロプスが近づいてくる。


 サイクロプスが一歩踏み出すことに地面が揺れる。

 同時にキズクの心臓も緊張感で速く鼓動する。


 早く通り過ぎてくれと思うほどに、サイクロプスの緩慢な動きが焦ったく感じられてしまう。

 ゆっくりとサイクロプスがキズクたちのそばを通り過ぎていく。


 体は頑丈だが一つ目の分視野が狭くて、他の気配に対しても疎い。


「ふぅ……」


 サイクロプスが十分に離れていってキズクはほっと胸を撫で下ろす。


「まだ先に進まれますか?」


 サカモトは冷静な目をしてキズクのことを見つめる。

 サイクロプスがキズクには勝てない相手だとサカモトにも分かっている。


 勇気を持って撤退することも人生には大事である。


「……サカモトさんは帰ってもいいですよ。俺は一人でも行きます。リッカがいるなら俺も行くんです」


 リッカの気配を感じる。

 どこか来てほしい思っているような、そんな感じもある気がする。


「……では私も行きましょう」


「ありがとうございます」


「キズク様はレイカ様よりも無茶なさるお方のようです」


「ほんとですか?」


「……まだレイカ様の方が無茶なさっていたかもしれません」


「ふふ、行きましょう」


 キズクはリッカの気配を強く感じる方に向かう。


「どうやらゲートの方に向かっているようですね」


 閑静な住宅街を進んでいくと、破壊された家々が目につく。

 ゲートに近づいているようだった。


 ただモンスターの姿は見えない。

 ゲートから漏れ出たモンスターは少ないのかもしれないとキズクは思った。


「こちら……ですか?」


 住宅街のど真ん中、突如として自然に囲まれた土地がある。

 リッカの気配はその土地の方から感じられていた。


「神社のようですね」


 公園かとも思ったけれど、赤い鳥居が見えて神社だろうと分かった。


「なんだ!?」


 地面を揺るがすような雄叫びが神社の方から響き渡る。


「リッカ!」


「キズク様!」


 リッカに何かあったのかもしれない。

 キズクは神社の方に走っていく。


 三段ほどの短い階段を一気に飛び越えて境内に入っていく。


「なんなのだ、あれは!」


「リッカ……とモンスターと…………グレイプニル?」


 元々神社の建物があっただろうところにゲートが出現して、今は建物の土台しか残されていない。

 そしてゲートの前にはリッカがいて、ゲートからはモンスターが出てきていた。


 ゲートから体半分ほど出しているのは一つ目の巨人モンスターであるサイクロプスだが、先ほど町中で見たものよりも一回り大きい。

 加えてゲートから出てきているサイクロプスの体には、キズクが使うグレイプニルにもよく似た紐状のものが絡みついている。


 まるでサイクロプスをゲートから出さないようにしているみたいだ。

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