「バラバラに動いて注意を分散させるぞ!」
リッカに乗ってひたすら逃げ回るという作戦もある。
しかしリッカは舌を出して荒い呼吸をしている。
雷や木を回避しながらゲートまで全速力で走り抜けた。
当然リッカの体力もかなり消耗している。
このままリッカに乗って逃げ続けても体力が尽きて捕まってしまうかもしれない。
キズクの負担とリスクは高いけれど、長く持たせるためには多少のリスクも負わねばならない。
キズクとリッカは別れて走り出す。
「はあっ!」
引っ張られるような力を感じてキズクはグレイプニルを伸ばす。
木に巻きつけて体を引きつけるように縮める。
急加速したキズクの後ろに雷が落ちた。
肌にピリピリとしたものを感じながらキズクは大きくスイングして地面に降り立つ。
「キズク、僕もやるぞ!」
「いけるか?」
「ふふふ……回帰したばかりの時は安定していなくて上手く飛べなかったが、飛べないフクロウなんてただ可愛いだけだからな! 見ておれ! 僕も役に立てるのだよぅ!」
ノアがキズクの肩から飛び立つ。
回帰した最初の頃、ノアは上手く飛べなかった。
力を失ったことや小さくなった体に慣れなかったためである。
そのためよくキズクの肩にとまっていたり、リッカの背中で移動していたが、いつまでも飛べないフクロウでいるつもりはない。
せめていざという時飛べなきゃいけないと飛行の練習もしていて、今ではちゃんと飛べるようになっていた。
「どりゃ!」
ノアがサイクロプスに向かって飛んでいく。
人と比べても小さいノアは、サイクロプスと比べると虫のようなものである。
飛んできても全く意識していなかったのだが、ノアはそのまま飛んでいくとサイクロプスの大きな目玉をクチバシでつついた。
「ぬはははーっ! どうだぁー!」
「ありゃ痛そうだな……」
サイクロプスは眼を押さえて、尻もちをついて倒れた。
目玉を突かれれば相当痛いはずだとキズクも顔をしかめる。
「キズク! 僕の活躍はどーかなぁ!」
意気揚々とキズクの肩に戻ってきたノアは胸を張る。
「うん、いい感じだな」
サイクロプス越しで向こう側に見えるリッカは私もあれぐらいできますけど? みたいな顔をしてノアのことを睨みつけている。
「わっはっはっは……あれ?」
サイクロプスの周りでバチバチと音が聞こえ始めた。
強い痛みはあろうが実質的なダメージはほとんどない。
痛みが治ればサイクロプスの中に湧き起こるのは怒りだった。
「離れるぞ!」
全身の毛が逆立ってしまうような妙な感覚にキズクは危険を覚えた。
サイクロプスに背中を向け、近くにあった木にサイクロプスにグレイプニルを伸ばす。
「おわわわっ!?」
サイクロプスが怒りで咆哮する。
その瞬間、大量の雷がサイクロプスの周辺に降り注いだ。
ノアには轟音と閃光で世界がひっくり返ってしまったようにすら感じられる中、キズクは間一髪のところで雷が降り注ぐ範囲内から抜け出す。
「こりゃ……ひどいな」
ゆっくりと立ち上がるサイクロプスの周辺は黒焦げになっている。
「あまり離れたくないけど……しょうがないな」
サイクロプスの周りの木々も雷によって無くなってしまった。
グレイプニルを使って木から木へと移動してなんとか逃げていたのに、木がないところでは逃げることすらできやしない。
また木があるところにサイクロプスを誘導しようと思った。
「キズク! 何か危なそうだ!」
「何かって……」
木の多そうなところを探すキズクが視線を戻すと、立ち上がったサイクロプスは腕を大きく振り上げていた。
上半身をややねじるようにして腕を引き絞り、手には細長く圧縮された雷が握られている。
「そんなこともできんのかよ!」
「な……キ、キズクゥー!?」
これはマズイ。
そう思ったキズクは肩のノアを引っ掴んで遠くに投げた。
回避できるならいい。
しかし怒り狂ったように血走ったサイクロプスの目はキズクのことを見ていて、回避するのも難しそうだった。
キズクと一緒にいては危険なので投げ飛ばした。
「はっ!」
キズクは左手を突き出し、グレイプニルを木に巻きつけて自らの体を引き寄せて移動する。
サイクロプスはキズクの動きを目で追い、どう動くのかを予想して雷を槍投げの如く投擲した。
「キズクー!」
「ご主人様ー!」
「まだだ!」
このままでは雷の塊がキズクに直撃する。
けれどキズクもきっとサイクロプスがキズクの動きを読んで、身動きの取れない空中で攻撃してくるだろうことは予想していた。
キズクは右手を伸ばした。
「今はもう一本あるんだよ!」
右手からグレイプニルが飛び出して別の木に巻きつく。
「うわっと!」
少し前までならきっとやられていただろう。
だが今のキズクには二本目のグレイプニルがある。
二本目のグレイプニルを使って空中で軌道を変える。
「うぐっ!」
「キズク、大丈夫か!」
雷はなんとか回避したが、爆発した衝撃でキズクは空中に投げ出される。
木に巻きつけたグレイプニルをさらに引っ張るか、もう一本のグレイプニルを伸ばすか。
そんなことを考えているうちに地面に落ちてしまって転がる。
心配したノアが慌てて飛んでくる。