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命懸けの戦い1

「逃げるぞ!」


 勝てない戦いをするほどキズクもバカじゃない。

 キズクはリッカに飛び乗る。


 ただのサイクロプスだって難しいのに、雷を操るデカいサイクロプスなんて相手にしていられない。

 リッカが地面を蹴って走り出す。


 サイクロプスは怒ったような声を上げてキズクたちのことを追いかけ始める。


「ちょ……はやっ!」


 追いかけてくるサイクロプスの速さにキズクは驚愕する。

 動きとしては鈍い方の印象だったのに、サイクロプスはリッカに負けない速度で追ってくる。


 腕を振りしっかりと走るサイクロプスは、一歩が大きくてかなりの速さであった。


「こ、こわっ!?」


 あんなまともに走るという行為ができるということに驚きがあるけれど、それよりも人のように走るサイクロプスに底知れぬ恐怖を感じる。


「リッカ、避けろ!」


 髪の毛が引っ張られるような感覚に危険を感じた。

 リッカが横に飛ぶ。


 次の瞬間、キズクたちがいたところに雷が落ちて地面が黒く焦げる。


「おお……こわいのぅ」


「げっ! リッカァ!」


 油断する暇もない。

 今度はデカい木が飛んできた。


 真っ直ぐにゲートからの脱出を狙っていたけれど、仕方なく軌道を変えて木を避けた。

 通りがけに木を掴んで引き抜いて投げてきているのだ。


「アイツ……!」


 木や雷が飛んでくる。

 逃げる方向をわかっていて邪魔するかのようで、なかなかゲートの方に行くことができない。


 変にグネグネと逃げているとサイクロプスに追いつかれてしまう。


「どうにかしなきゃ……!」


 木も雷も当たれば致命的で、かわさないという選択肢はない。


「グレイプニル! ……ええっ!?」


 なんとかしなきゃ逃げられない。

 キズクは左手からグレイプニルを出す。


 グレイプニルを出してキズクは驚いた。

 なぜならグレイプニルが二本出ていたからだった。


 これまで一本しか出ていなかったグレイプニルが二本に増えている。


「ま、まあいいや。今はそんなこと考えている暇じゃない」


 リッカの変化と関係があるのだろう。

 そう思うものの、今はグレイプニルの考察をしている時間なんてない。


「とりあえず一本で……コントロールはできるな」


 そもそも一本でどうにかするつもりだった。

 いきなり二本に増えても操作しきれる自信はない。


 一本だけ動かそうと思ったら一本消すことができた。


「はっ!」


 キズクはグレイプニルを伸ばす。

 グレイプニルは木に巻き付きながら、さらに伸びていく。


「……今だ!」


 二本の木に渡すようにグレイプニルを巻きつけた。

 タイミングを見計らい、木の間に渡したグレイプニルをピンと張る。


「うっ……」


「おおっ! すごいではないか!」


 サイクロプスの足がグレイプニルに引っかかる。

 これまでにないほどの強い力がグレイプニルにかかって、キズクは思わず顔をしかめる。


 一瞬グレイプニルが切れるかもしれないと思ったが、その前にサイクロプスが木を薙ぎ倒しながら前のめりに転倒した。

 左手に反動によるわずかな痛みを感じるけれど、作戦は上手くいった。


「今のうちに駆け抜けろ!」


「任せてーーーー!」


 キズクに期待されている。

 リッカはやる気を燃やして一気に加速する。


「うひょお……」


「ノア、大丈夫か!」


 肩から飛んでいきかけたノアをキズクは掴んで懐に入れる。


「た、助かった……」


 急加速の風圧はすごい。

 キズクもリッカに抱きつくように上半身を倒して風に耐える。


「ゲートが見えてきたぞ!」


 胸元から顔を出したノアが翼で先に見えるゲートを指す。


「このまま駆ける……うわっ!」


 もうゲートが発生してからだいぶ時間も経っている。

 サカモトも無事でいるなら助けを呼んでいるはずだし、出られればきっと後を任せられる覚醒者たちがいるはずだ。


 走り抜ければゲートに届く。

 そう思った瞬間また引っ張られるような力を感じた。


 静電気なんかで髪がなんかが立つもののすごい強いバージョンで、雷が発生する前の予兆である。


「リッカ止まれ!」


 痛いかもしれないが仕方ない。

 キズクはリッカを止めようと毛を思い切り引っ張った。


「ギャン!」


 リッカは痛みに悲鳴を上げながら急ブレーキをかける。

 キズクはとっさにグレイプニルでリッカと体を結んで飛んでいかないように支えた。


「あ、危なかった……」


 ゲートを囲むように雷が落ちた。

 バリバリと音を立てて雷は落ち続けていて、キズクたちの脱出を阻む。


「くそッ……そんなに俺たちを逃したくないのかよ」


 振り返るとサイクロプスが血走った目をして走ってきている。


「どうするのだ?」


 ノアが焦ったようにキズクを見上げる。


「どうするも何もやるしかないだろ」


 もっと強い状態なら無理にでも雷を突破したかもしれない。

 しかし今の状態でそんなことしたらゲートを抜ける前に感電死してしまう。


 こうなったらサイクロプスと戦うしかない。


「死なないように戦って、少しでも時間を稼ごう」


 他に選択肢はない。

 倒そうなんて思わず助けが来るまで持ち堪えればいいのだとキズクは考えた。


「やるさ……こんなところで死んでたまるか」


 せっかく人生やり直せるのだ。

 カナトにも立ち向かう勇気を出してリッカを守り、前に進むと決意をした。


 今日だってリッカと話すことができた。

 まだまだリッカと話したいことがある。


 これからも一緒にいたいと思う。


「リッカ、ノア、手伝ってくれ。戦うぞ」


「僕にできることならなんでもやるよ」


「ご主人様を死なせはしない。私も戦う!」


 キズクはリッカから降りる。

 ブラックアントアギトを抜いて、息を大きく吐き出してサイクロプスを睨む。


「怖いな……」


 手が震える。

 戦うと決めたけれど怖い。


「ご主人様、私がいるよ」


「僕もいる」


 リッカがキズクの手をペロッと舐めた。

 ノアも服の中から飛び出してキズクの頭の上に着地する。


「……そうだな」


 リッカとノアがいればなんとか時間ぐらいは稼げるはずだ。

 心強い仲間がいる。


 そう思えば手の震えは、止まった。

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