「うふふ〜! ご主人様ぁ〜!」
嬉しそうな顔をしてリッカがキズクに抱きつく。
「う……リッカ……その……」
リッカはキズクの頬をペロペロと舐める。
いつものようにしているだけかもしれないが、ちょっとした人間っぽさがあるので舐められることに照れ臭さを感じてしまう。
「ん……スゥー!」
リッカは首元に鼻を近づけて一気に息を吸い込む。
犬吸いならぬ、人吸いだ。
「グヘヘ……」
リッカは舌を横から出してヘラリと笑う。
「なんでまた急に人化……しかもちょっと中途半端……」
水晶の中から出てきた光が関わっているだろうことは分かる。
人化するほどのポテンシャルがあることは分かっている。
しかし急に半端に人化した理由がいまいち分からない。
あの光の玉はなんだったのだろうか。
「ご主人様ぁ〜」
「おっ?」
キズクの胸に顔を擦り付けるリッカからポフンと気の抜けた音が聞こえた。
「な、なんでぇー!」
リッカの体がググッと変化して、いつもの大きなオオカミの姿に戻ってしまう。
リッカは情けなく遠吠えするように嘆く。
しかしリッカも人の言葉が話せているなとキズクは思った。
「ご主人様とあんなことやこんなことするつもりだったのに」
「あんなことやこんなことって何するつもりだ……」
「そんなこと言わせるつもりなんて……ご主人様の変態」
リッカは恥ずかしそうに前足で顔を隠す。
「まあこうしてリッカと話せて嬉しいよ」
何が起きたのかともなくリッカと話せるようになった。
それはすごく嬉しい。
凛とした女性の声で、良い声をしている。
リッカが嬉しそうなので、キズクもより嬉しい。
「なぁリッカ。さっきの光の玉は……リッカ?」
「悠長に話しておる暇はなさそうだな」
「……そのようだね」
分からないなら本人に聞いてみればいい。
リッカに何だったのかと聞こうとした瞬間、リッカが顔を上げてじっと何もないところを見つめる。
ミミもキズクではなく見つめている方を向いていた。
すると程なくしてドスドスとした音と振動が、キズクとノアにも感じられ始めた。
「サカモトさん……無事かな」
「人の心配しておるべきか?」
「そうだな……どうしようか……ひとまず隠れてみよう」
音の正体が何なのか、予想はついている。
キズクたちは近くにあった大きな木の影に隠れて様子を窺う。
やってきたのはゲート前で暴れていた大きなサイクロプスであった。
「……笑った?」
サイクロプスは砕けた水晶をじっと見下ろし、ニタリと笑った。
「うわっ!?」
サイクロプスが雄叫びを上げ、続いて起こった轟音と閃光にキズクは思わず驚く。
「雷……? サイクロプスにそんな力が?」
轟音と閃光の正体は雷だった。
キズクたちにそんな力はない。
サイクロプスの他にモンスターもいないので、やったのはサイクロプスだということになる。
魔法を使うモンスターもいる。
しかしサイクロプスは魔法を使うモンスターではない。
「特殊な能力持ちのモンスターか……」
時に同じモンスターの中でも、能力が高かったり他のモンスターが持っていない能力を持つモンスターが存在する。
ゲートの中にボスなどにその傾向は強いが、大きなサイクロプスも体がデカいという時点で特殊なのに、雷を操るという能力まで兼ね備えているようだった。
「……ああしたモンスターは契約できる可能性もあるんだけどな」
能力持ちのモンスターはなぜなのかテイムできる可能性が他のモンスターよりもちょっと高い。
しかしサイクロプスはキズクよりもかなり強くて制圧するのは難しい。
契約できれば大きな力になりそうだけど、よほど相性が良くなきゃ契約を試みるのは自殺行為である。
「うっ! ……ヤバっ!」
サイクロプスがもう一度雄叫びを上げるとまた雷が落ちる。
近くにあった木々に雷が落ちた。
キズクが隠れていた木にも雷が落ちて、一瞬にして火に包まれながら根本から倒れる。
木が倒れてサイクロプスの大きな瞳がキズクたちの姿を捉えた。
サイクロプスが吠える。
雷が落ちて地面が揺れる。
「チッ……これは厳しそうだな……」