吾輩はぼっちである。名前はジニス。
元は高校生であった俺は、事故に巻き込まれて死んだ。
そしたら知らない世界で目を覚ましていた。赤ん坊となって。
所謂、異世界転生と言うやつだ。
まさか異世界転生が実在するのかと驚きを隠せなかったが、兎にも角にも俺は第二の人生を得ることとなったのである。
「明日でジニス君も五歳です。どんなスキルが貰えるのでしょうかね?」
「........楽しみ」
金髪で美しい顔をしたシスターが、俺を抱き抱えながら笑顔で話しかけてくる。
彼女はこの孤児院兼教会を管理するシスターマリー。
俺の命の恩人であり、村の前に捨てられていた俺を拾ってくれたシスターでもある。
俺は孤児だ。親の顔は覚えてないし、なんで捨てられたのかも分からない。
もしかしたら、神様が俺をこの村に赤ん坊して放り投げたのかもしれないが、どちらにせよ親はいない。
保護者のいない赤ん坊が生きていける訳もなく、俺は孤児院に引き取られた。
そうしてスクスクと育った訳だが、俺にはある悩みがある。
「本当にお誕生日会を開かなくて良いのですか?」
「うん」
それは、高校生として生きてきた経験と知識が備わってしまっているという事だ。
さて突然ですが問題です。高校生だった頃の貴方がいきなり5歳児未満に戻り、その知識の経験を持った中で同年代(5歳児未満)の子供達と仲良くできますか?
普通は無理だ。
少なくとも俺は無理だった。
5歳児なんて自分の話したいことだけを話して会話なんてものは成立しないし、基本的にワガママ。
一緒に遊ぶにしても直ぐに飽きて次から次へと遊びが変わるし、ルールを守っていても喧嘩になる。
俺が高校生の体を持っていたならまだしも、同じ体格の子供同士となれば向こうも喧嘩を吹っかけてくるのだ。
勝てないことは無いから。
そんな訳で、俺は子供達の輪に上手く溶け込むことが出来ず、結果として孤立してしまう。
では、大人や少し上の子供達ならどうか?
もちろん、最初は遊んでくれたし話し相手にもなってくれた。
しかし、5歳児未満の子供にしてはあまりにも賢く、徐々に気味悪がられているのを感じた。
地球の頃ならば“神童”とか“頭のいい子”と言われただろうが、ここは異世界な上に俺がいる場所は村という閉鎖的な空間。
しかも、ぱっと見た感じコテコテの異世界で、“普通”とはかけ離れた存在は異端として見なされる。
大人達の中には俺が悪魔に取りつかれているのではないか?と言う者まで出始めたと知った時、俺は大人との会話も辞めることにした。
こうして、コミュニケーションと言う努力を放棄した俺は見事ぼっちになり、話し相手はシスターマリーぐらいしか居なくなってしまったのだ。
シスターマリーだけは、俺に構ってくれるし俺を不気味に思わない。真の聖人とはこのような人のことを言うのか。
そして、異世界生活、辛い。
転生してきた時は“剣と魔法の世界!!”と勝手に盛りあがっていたが、これが現実である。
現実は非情だよ。
明日は俺の誕生日。捨てられた子なので正確な誕生日は分からないが、俺が拾われた日を誕生日としている。
「ジニス君はどんなスキルが欲しいですか?」
「........なんか、こう、すごいスキルがいい」
「ふふっ、たしかに凄いスキルがいいですね。きっと神は、素晴らしいスキルをジニス君に授けてくれると思いますよ」
シスターマリーは、そう微笑みながら俺の頭を優しく撫でる。
シスターマリーが言った“スキル”。
それは、そこの世界において人生の大半が決定する重要な要素だ。
5歳になったその瞬間、人はスキルというものを得て特殊な力が使えるようになる。
例えば“剣士”と言うスキルを授かれば、剣の扱いが上手になる。
スキルの熟練度によってその扱いの上手さは変わるが、少なくともスキルの無いものよりは圧倒的に剣の扱いが得意になるのだ。
その他にも“聖職者”というスキルを授かれば、神の声が聞こえるようになったり、人の心を安らげる力が使えたりするらしい。
実際にシスターマリーはこのスキルを持っているらしく、村では人々の懺悔や救いの声を聞いて彼らの心に寄り添ってあげているのだ。
と、こんな感じでスキルはある種の才能である。
自分の才能が分かるというのは便利だが、その才能が自分の人生の殆どを左右する。
兵士になりたい者は、戦闘系のスキルを所持していないとそもそも書類審査の段階で弾かれる。
当然だ。スキルがあるものよりも圧倒的に弱いから。
シスターになりたくても、スキルがあるものより断然劣る。
その者は神の声も聞けなければ、人々の心を癒す事など出来ないだろう。
このような事から、スキルはその人の人生を大きく左右する。
そして俺は明日、その人生を左右するスキルを手に入れる事となるのだ。
「ジニス君は賢いですから“学者”さんとかもいいかもしれませんね。他にも、頭を使う職業は沢山あります。望んだスキルを得ることを祈るのではなく、その得たスキルで何を成すのかが大切なんですよ」
「勇者が罪のない人を殺したら、それはただの人殺しだもんね」
「えぇ、そうです。やはりジニス君は賢いですね。他の子達は元気が良すぎて、私は少し疲れてしまいますよ」
「そっか。大変だね」
「ふふっ、それが楽しくもありますがね。さて、そろそろ寝る時間です。スキルは明日の朝になれば自然の何ができるようになるのか分かると思います。そして、スキルは自分の命とも言えるものです。言いふらしてはダメですよ?」
「はい」
スキルとはその人の人生。その生き方で分かってしまうとは言えど、言いふらすものでは無い。
ある種の個人情報だからな。言いふらすメリットがない。
もちろん、必要な時は開示するだろうが。
「毎回、誰かが五歳になるとこの忠告をするのですが、誰も守ってくれません。仕方がないんですけどね」
「勇者だったら言いふらすかもね」
「ふふっ、ジニス君は優しいですから。もしかしたら、勇者の可能性もあるかもしれません」
俺の冗談を真に受けたのか、それとも冗談だと分かってその言葉に乗ったのか。
シスターマリーは静かに笑うと、俺が寝る部屋に連れていきベットに寝かせる。
そして俺の頭を優しく撫でる。
「おやすみなさいジニス君」
「おやすみなさいシスターマリー」
俺はそう言うと静かに眠りにつくのであった。
願わくば、この状況を変えられるようなスキルが欲しい。
神がいるのであれば、その願いが聞き届けられるといいな。
【スキル】
一種の特殊能力。そのスキルによって人生の9割が決まるとすら言われており、人々はスキルにしたがって生きている。中には夢を追い続ける者もいるが、基本的に大成しない。
翌朝。
俺は目を覚ますと同時に自分の体に変化が訪れていたことを察した。
明らかに昨日とは体の感覚が違う。
今日で5歳。俺はスキルを得たのだ。
「どんなスキルなんだろう?........え?」
どのようなスキルを得たのか。もしかしたら、本当に伝説に謳われる“勇者”のスキルを得て、俺の異世界生活が一変するかもしれない。
そう少しばかり期待してしまった。
しかし、現実は甘くない。俺は、この世界の主人公では無いのだ。
そのスキルを自覚した時、俺はどのような反応をしたらいいのか困ってしまう。
いいのか悪いのかすら分からない。
これは当たりの部類なのか?
「魔物........合成........?」
“魔物合成”
それがこの世界から与えられた俺のスキルであった。