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四天王の一人目がやられる度に「奴は四天王の中で最弱」とか言ってたら皆も同じこと言っていて全員最弱認定された件について
四天王の一人目がやられる度に「奴は四天王の中で最弱」とか言ってたら皆も同じこと言っていて全員最弱認定された件について
三田華雄
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年03月07日
公開日
4,891字
完結済
さあ、決めようじゃないか、誰が四天王で最弱なのかを!

第1話

 陽の光など一切届かない暗黒の世界、魔界。

 常に暗雲に覆われ、雷鳴が響くその世界の中心部には魔界の全てを統べる魔王が住む城、魔王城がそびえ建っている。


 絶え間なく続く人間と魔族との争いで時折勇者なる者が仲間を率いて魔王の首を狙いにこの魔王城へと挑むがその勇者達が魔王のいる玉座まで辿り着くのはごく稀である。


 何故なら魔王の前には四天王と呼ばれる強大な力を持つ四人の幹部達が立ちはだかっているからだ。


 ――吸血鬼たちの王にして不死の体を持つ魔人、ヴァンパイアロードの『ヴェイグ』


 ――その美しい見た目とは裏腹に、目を合わせた者を石へと変えてしまう魔眼と蛇の髪を持つ妖女、メドゥーサの『カルナ』


 ――八つの首を持ちそれぞれが一つの属性を極めている異国のドラゴン『オロチ』


 ――オーガとトロールという力に特化した種族の血が混ざりあい、覚醒を起こした魔物、ギカントオーガの『ボータ』


 魔王の元へとたどり着くにはこの四人が待ち構える部屋を続けて攻略しなければならない。

 まさに魔王が誇る最強で最高の守護者達、そしてそんな彼らが今、城にある会議室に集まり神妙な顔つきで見合わさっていた。

 静寂が続き、ピリピリとした空気が張り詰める中、その空気を切り裂くようにヴァンパイアロードのヴェイグが口を開いた。


「では、そろそろ決めるとしようか……誰が四天王最弱かをなぁ!」


――


 事の発端はは少し前に遡る。


 それは四天王の一人であるわれ、ヴェイグがいつものように魔王城に乗り込んできた勇者を迎撃しようとしたときの事である。

 我ら四天王の部屋は魔王様が控える玉座の間の手前にあり、それぞれの部屋で侵入者を待ち構えている。


 玉座の間にいくには我々四人を倒さなければならないが、挑む順番は特に決まっていなくこの日はカルナの次に勇者たちが我の部屋へとやってきた。


「ほう、カルナを破ってここに来たか。だがあ奴は四天王の中で最弱――」


 と、いつものようにお決まりともいえる台詞を言おうとしたところで勇者一行の一人である聖女が手を挙げた。


「あのー、一つ聞いていいですか?」

「ん?なんだ?」

「その台詞、毎回色んな方に言われるんですけど、結局のところ誰が最弱なんですか?」

「なに⁉︎」


 聖女からの衝撃発言に思わず声を荒げる。


「お、おい、それは聞いてはいけないお約束だろ?」

「え?でも気になりませんか?だって皆さん出会うたびに言うんですよ?あいつは四天王の中でも最弱だって」

「それは俺も気になってはいたけど……」

「ちょ、ちょっと待て!その話、もう少し詳しく――」


 勇者達の話はこうだった。

 我々四天王に挑む際、先程のセリフを毎回二人目の相手に言われるらしいが、毎回一人目の相手をランダムに決めているため、毎回別々の四天王が最弱呼ばわりされ、気がつけば全員が最弱呼ばわりされた事になっていた。


 その日の勇者達はなんとか撃退したものの後日、他の三人に問い合わせてみれば勇者達の話と概ね合っていて、このままでは不味いと、こうして誰が本当の最弱かを決める会議が四人で行われる事となったのだ。


 しかしこの話。初め聞いた時は動揺してしまったが話し合ってしまえば大した問題ではない、特に我ににとってはな。

 なぜなら我は自分が最弱じゃないと言う確信があるからだ。


 ハイスペックでバランスの取れたステータスに加え最強の能力とも言える不死の体を持っている。

 初めて勇者達が挑んできた頃はチートだなんだのとよく言われたものだ。

……最近は言われなくなったが。


 最弱なのは恐らく致命的な弱点を持つだろう。

 この会議、思ったよりも早く終わるな。


 おっと、思い耽っている間に三人の方でも結論を出始めていたようだ。


「……では協議の結果、四天王最弱はヴェイグという事で」

「異議なし。」

「オナジク」

「待てい!」


 思わず大声で止める。


「なにか問題あるのか?」

「大アリだ馬鹿野郎!我こそはヴァンパイアの王にして不死の身体を持つ男、ヴァンパイアロードのヴェイグだぞ!何故我が四天王最弱なのだ!」


 全く持って意味が分からぬ!これはきっと我の強さを妬んだ三人の謀略に違いない。


「そうだな、確かに貴様のステータスはどれも高く、不死というのも脅威ではある、しかし……貴様は弱点が多すぎるんじゃあ!」

「なぁ⁉︎」


 脳筋ハーフのボーダがピシッとこちらを指さして言ってくる。


「そ、そんな事は――」

「これは俺がとある勇者から聞いた話だが、ヴェイグよ、それによれば貴様、ニンニクの匂いで泡を吹いて倒れたそうだな」


⁉︎


「あと十字架の形をした物を見て動かなくなったとか?」


⁉︎⁉︎


「太陽光モ苦手トキイタ」


⁉︎⁉︎⁉︎


「他にも聖水で弱ったりとか序盤の装備として知られる鉄の武器が弱点とも聞く、いくら不死の身といえどこうも弱点だらけではな、まさに四天王最弱と言っていいだろう。」

「そもそも、好き嫌いが弱点っていうのもおかしな話だわ」

「下手ヲスレバ子供ニダッテ負ケル」


 お、おのれ、こやつら、言いたい放題いいやがって!

 確かに、少し他の奴らよりは弱点が多い気はしていたがどれも仕方がないものではないか。


 そもそも周りの奴らが可笑しいのではないか?

 なぜあれほどの強烈な臭いを放つニンニクを口にして平然としていられるのだ、十字架だってあの神々しい形をに前に体が動かなくなるのも魔族として仕方がないと言えよう、太陽だって暑くて眩しいではないか!


 おかしい、こんなことは許されない……

 弁論の余地は山ほどあるが、今はともかく決まりつつあるこの結論を覆すことが先決だ。


「ふむ、確かに我は他の者よりも少ーし弱点が多いかもしれん。」

「いや、少しどころじゃないんだが――」

「しかーし!だからといって我が四天王最弱とは少し早計ではないだろうか?……なあカルナ?」

「え、私?」


 自分の名を出されたカルナが少し驚いた様子を見せるが、すぐにフッと微笑を浮かべる。


「なに?私が四天王最弱とでも言いたいのかしら?確かに私は三人と比べてステータスが劣るかもしれないわね、でも私には眼を合わせたものを石に変えるという魔眼があるのをお忘れかしら?」


 カルナが余裕を笑みを浮かべている。

 その笑みは魔性とも呼ばれており、その笑みに見惚れて目を合わせてしまう人間も少なくはない。

だが……


「そうだな、確かにどんな相手でも石に変えると言う貴様のその魔眼は強力ではある……自分さえも石に変えてしまう魔眼はなぁ!」

「⁉︎」

「とある勇者達から聞いたの話によれば、カルナの魔眼は鏡に映った自分でさえ石に変えてしまうという話だ。しかも鏡だけではない、磨き抜かれた武具や、水魔法で出来た水溜まり、しかも以前勇者たちが部屋に入った時は、何故か部屋の隅に置かれていたドレッサーの前で既にカルナが石化していたという話も聞く。」

「そ、それは化粧中につい……」

「どれだけ強力な魔眼を持っていようと、自分の技で石化するような間抜けは、四天王最弱に相応しいのではないだろうか?」

「た、確かに……」

「くっ……」


 フハハハハハ、どうだカルナよ?反論できまい!自分の持つその力が仇となったなぁ!


「では、四天王最弱はメドゥーサのカルナという事で――」

「ちょっと待ちなさい!」


 結論が出かけたところで今度はカルナが大きな声で待ったをかける。


「確かに、私は自分の力で石になってしまうお茶目な一面があることは認めるはわ」


 お茶目で片づけるには致命的ではないだろうか?


「しかーし!だからと言って私が四天王最弱と言うのは少し結論が早いのではなくて?……ねぇ、オロチ?」

「ナヌ?」


 名前を出されたオロチの八つの頭が同時に驚きを見せる。

……が、直ぐにキリッとした顔つきに変わる。


「ククク、ナラバ我ガ四天王最弱ト言ウノカ?笑止!我ノ首ハソレゾレガひとツノ属性ヲ極メ、弱点ヲ補ッテイル、正ニ我ニ死角ナシ!」


 ふむ、確かにな。

 オロチは八つの首それぞれが火、水、雷、土、風、光、闇、物理のスペシャリストであり、本人の言葉の通り死角はないと言えるだろう。


「ええ、確かにあなたの属性を極めた八つの首はそれぞれで意思を持っており、その八つの首を同時に相手をさせられるのは非常に厄介ではあるわ……皆の仲が良ければね?」

「⁉︎」


 オロチが再び驚いた表情を見せると、その顔を見たカルナがニヤリと笑う。


「とある勇者達から聞いた情報では、貴方達の連携は非常に悪く、反属性同士の首が互いの攻撃を相殺してしまうこともあれば、首同士が絡まることもあり、酷い時は勇者達をそっちのけで喧嘩をして、相討ちになることもあると聞いたわ。」


 なんと、普段から口数少なくクールな姿を見せていたオロチにまさかこんな情けない一面があったとは……

 しかし、我の時もそうだが、勇者達も情報提供に中々協力的だな。

 とある勇者達などと言って濁してはいるが、現在魔王城に挑んでいる勇者パーティーは一つしかいないので恐らく全員同一人物であろう。


「強い首がいくつあろうと足を引っ張り合って自滅するようではねえ?それこそまさに最弱でしょう」

「確かにな。」


 危機を乗り越えたであろうカルナが勝利を確信して笑みを浮かべている。


「では、四天王最弱はオロチという事で。」

「待テ!」

「待て」

「待てい!」

「待って!」

「待った!」

「待たんか!」

「お待ちください!」

「Wait!」


 普段は代表して中央の首だけが言葉を発する中、八つの首が一斉にこの結論に待ったをかける。

……しかし、真ん中より他の首の方が流暢に話すではないか。


「確カニ、コノ首ノ中デ、ドノ首ガ最弱カヲ問ウ論争デ、長キニ渡リ仲違イヲシテイルコトハ認メヨウ」

「まさか、そんな理由で――」

「やれやれ全く、情けない話だな。」

「シカシ、ソレデ我ヲ四天王最弱トスルノハ結論ガ早イト思ウゾ、ナァ?ボーダ?」

「なに?」


 八つの首が一斉にボーダの方を見る。


「ほう?俺が最弱と言いたいのか?この中の誰よりも古くから四天王に君臨するこの俺が?」


 確かに、ボーダはオーガとトロールという脳筋ハーフでありながら知能も高く素早さもある。

 この四天王の中でも最古参であり、今まで幾多の勇者との戦いを経験しているため自然と四天王のリーダー的ポジションを担っている。


「確カニ貴様ハちからノミナラズ知識モアル、シカシ貴様ハ魔法に弱すぎる。」

「ふむ、確かに俺は魔法に弱い、それは認めよう。だがその程度で最弱扱いされるのは少し説得力が欠けるんじゃないか?」

「そうね、どんな生物にも弱点というものはあるわ、ニンニクで泡吹いたり首が絡まってたりなんかして自滅するというのとは少し違う気がするわね。」


 自分の顔を見て石化するお前も大概だけどな。


 だが、ボーダの言う通り、今回のオロチの言い分は少し弱いな。

 魔法に弱いと言う短所は別に珍しくもないし、ボーダはそれを補えるほどの体力と経験もある。


「シカシ、イクラ弱イニモ限度ガアルダロウ、我ガトアル勇者カラ聞イタ話ニヨレバ、ボーダハ凡ソ九割ノ確率デ即死魔法ガ通ルトカ」

「⁉︎」

「九割……」

「えぇ……」


 即死魔法といえばボスクラスの魔物ならまず通用せず、どんなに魔法に弱いモンスターでも六割程度の確率でしか通用しない、それが九割となればほぼ確実ではないか

 しかし、勇者よ、これだけ我らの弱点を知り尽くしていながら何故毎度我らに負けるのだ?


ドレダケちからガアロウガ体力たいりょくガアロウガ、即死魔法ガ通用スルヨウナ奴ニコソ四天王最弱ハ相応シイ。


「そうね」

「ああ、これで決まりだな、四天王でありながら即死魔法が通るボーダこそ四天王最弱――」

「待て!そんなこと言ったら弱点だらけのヴェイグこそ四天王最弱に相応しいだろう!」

「な、なにおう!それなら自分の力で石化する阿呆のカルナの方がよっぽど酷いだろ!」

「何ですって⁉︎それなら勇者そっちのけで自滅するオロチの方がよっぽどじゃないの!」

「ナンダト!ソレナラバ――」



――その後も数時間に渡る協議が続けられたが決着はつかず、後日魔王様に話を聞いて決めてもらうこととなった。

 それぞれが互いの足を引っ張ろうと魔王様に他の者達の短所を必死で熱弁をした結果……


 四天王の再編成が検討されることとなった。

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