「あ、すいません。もう閉店してるんですけど……どちらさんですか?」
閉店したはずの店内のドアが開き、男性が入ってくる。
ただ、見た目からしてどう見ても堅気では無い雰囲気の男。
「はあ? 客じゃない! てか、あんたが
「は、はい」
いきなり名前を呼ばれた想は、驚きと同時に恐怖を覚える。
そんな時、ふと最近聞き覚えのある声が強面の男の後方から聞こえてきた。
「想? ごめんね急に」
「た、た、
「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ? 今日はちょっとお話があって来たんだ」
「なんで? 多部ちゃんが……えっ?」
強面の男の後ろからひょこっと顔を出したのは最近この店にほぼ毎日訪れる多部という男だった。
さっきよりは知った顔を見て幾分ホッとした想だったが、一体なにが起こっているのかさっぱり分からず、多部におそるおそる話しかけた。
「は、話って?」
「簡単に言うと想は借金の保証人になってるんだ? 俺達はそのお金を貸した会社の社員みたいなものかな〜まあ法外な会社だけどね。ふふふっ……びっくりさせてごめんね? あ、警察とか弁護士とかも相手にならないので、逃げられないと思ってね」
多部はそう言うと、いつものような美しい笑顔を向ける。
「借金の? ほ、保証人? いや、そんな、借金なんてした記憶ない……です」
想は勇気を振り絞って身の潔白を訴えるけれど、強面の男が被せるように畳みかける。
「いやいや、あんたに無くてもこっちにはこれがあるの!」
そう言って男が見せたのは……借用書だった。
想は身に覚えが無い借用書に事実無根を訴えたかったが、借主の名前には夢を追っていた時に所属していた芸能事務所の社長の名前があった。
ー そして保証人の欄には自筆で朝日向想の名前が記入されていた。
そんなはずはないと、想は昔の記憶を辿ってみると記憶の片隅にあの書類を見たようにも感じていた。
芸能事務所に所属してから契約書の
「ふふふ、記憶の中にあったかな?」
多部が笑顔で想に話しかけるが、想の耳に多部の声は入っていなかった。
「……い、いくらあるんですか? その借金って!」
「んとね~五億かな。約二か月ほど前から借主が行方不明になって、俺達もいろいろと手は尽くしたんだけど見つからなくて、想のところに来たんだ。騙しててごめんね? でも、想の淹れてくれるコーヒーに惚れて通ったのも本当だよ」
「まあ、今日はとりあえずこのお知らせを伝えにきただけだから……あ、ちょっと失礼するね?」
五億という桁違いの額を聞いて放心状態の想に微笑みながら、多部はポケットからスマホを取り出すと、誰かと電話をし始める。
そして、徐々に顔色が悪くなっていく。
「いや、今から? 嘘、明日って言ってた……はいはい、とりあえずわかりましたよ。連れて行きます」
くるりと振り返り、神妙な面持ちで電話を切り想に話しかける。
「はぁ……ごめんね。想には今から俺達と来てもらうことになった……(本当は隠したかったのに)だから一緒に来てね?」
「っ……マジっすか……ボスが」
そう言うと多部も強面の男も急に深刻な表情になり、二人の態度が変わり口数が減った。
「社長の決定に拒否権は誰にも無いからね? ……じゃあ行こうか」
「……わかりました」
こうして抵抗することも許されず、想は黒塗りの高級車に放り込まれ、そのまま店から連れ出された。