想の店に来ている客の事は職業、住所、家族構成から好きな食べ物まで、ありとあらゆる内容を全て知っている。
想に不埒な感情を抱く奴がいてもおかしくないからな?
あの可愛さを皆に振りまいてるわけだしなぁ……正直ちょっとは自覚して欲しい。
身体を重ねてからより色っぽくなった想は、以前より艶が増しているように感じる。
(もう閉じ込めておきたい)
幾度となく浮かんでくるその思想に苦笑いが出る。
少し落ちつこうとは思うけれど、結局暇さえあればモニターをチェックしていた。
あ、想はもちろん知らないが、店内には沢山の監視カメラがあり、持ち物には気付かれないように小型のGPSや盗聴器を仕込んでいる。
(犯罪? まあ、そうかもね)
だから、想が今どこにいて誰と何を話しているのかは全て知っていた。
そして、夏目さんや多部ちゃんにも内緒にしている部下に毎日店内を見張らせている。
あの二人を決して信用していないわけではないが、念には念を入れておきたかった。
ーーーー
「九条様、報告は以上になります」
「わかった。下がっていい」
「はい」
「やはり、動いたか……」
金髪の佐倉という男を調べれど、特におかしい様子は無かったと夏目さんから報告を受けていたが……何もなさすぎて逆に不思議だった。
「でも、やっぱりな」
金髪を敢えて野放しにしていたが、あまりの想との距離の近さに何度殺ろうと思った事だろう。
しかし、想も気を許しているので目をつぶっていたが、何故か本能がこいつをもっと調べろと言っているような気がしていた。
そんなある日金髪が想に話をしていた猫カフェの事を耳にした。想にだけの秘密と言って猫の写真を見せたり、店の事を話し始めた。
(調べてみるか)
こうして俺は日本中の猫カフェを調べたが、この男がオーナーの猫カフェなんて無かった。
(おかしい……)
しかし、やたら信憑性がある……まるで以前本当に猫カフェをやっていたかのように。
ーーーー
「なるほどな、これは上手く隠せたはずだ」
俺は部下からの報告資料を見ながら、口元が緩むのを隠せなかった。
「さて、想も彰太も迎えに行くか。夏目さん……長い間待たせてごめん」
想を攫うのは許せないが、これでようやく叔父との決着を付けられる。
俺は呟きながら、準備に取り掛かった。
ーーーー
あの後すぐに叔父から想を返して欲しければ、九条グループを退き自分に全てを譲れという連絡がきた。
予想通りの流れすぎて笑いを堪えるのに必死だ。
「お久しぶりですね、いいですよ? では権利書を持って伺います」
「っ……あ、ああ」
俺があまりにも素直に応じるので、電話口の叔父は少し驚いているように感じた。
(悪いが、俺は一度自分のモノになったものを手放す気はない。九条の権利も想も……)
叔父の浅はかな考えに失笑しながら、夏目さんと多部ちゃんにこの件の真相を伝え、指定された屋敷へと急いだ。
しかし、さっきから聞こえてくる盗聴器の内容から察するに、どうやら想も彰太も金髪も殴られボロボロになっているようで、想が身を呈してあの二人を守ったようだ。
自分を傷付けたら想を愛している俺が怒るだなんて……当然だろ?
本当は今すぐにでも駆け寄りたいが、まずは叔父を潰してからだ。
「はははは、怒りで震える事ってあるんだな?」
「俺もだよ」
「……」
(こんなに冷静じゃない自分は、何時以来だろう)
深い深呼吸をすると、震えが和らぐ。
叔父が俺のモノに手を出した事への後悔をする頃には、この世に叔父は居ないだろうと思うと怒りも少しはマシになった。
◇◇◇◇
「連夜、大きくなったな? はるばる来てもらってすまないね」
「ふ、当然だろ? で?」
「ふんっ、相変わらずムカつく男だな兄さんに似て」
「なんとでも、さっさと要件を言え」
「生意気なっ! 持ってきた権利書を見せてもらおうか!」
「ああ、その前に想と彰太は無事か?」
「当然だ」
「手出しもしていないな?」
「ああ」
「そうか……ははははははは、茶番はよせ!」
「ッ……」
叔父にもその側近たちにも緊張が走ったことが分かる。
「さて、ここに一枚の契約書がある、これからお前を地獄に落とすためのな?」
俺は内心笑いが止まらなった。