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29 気持ち【想side】

 あの日連夜さんに助けてもらってから数日たつけど、日に日に連夜さんに対する思いが強くなっている。


 この気持ちは気付きたく無かった……だけど、俺は連夜さんに惹かれてるんやと思う。


 とにかくあのイケメンの顔面がタイプなのはもちろんやけど、優しい笑顔で見つめてきたり、エ、エッチの時の甘々な感じやったり。


 それに、たまに見せてくる年下の甘えた感じも何か可愛くて……しんどい。


 佐倉君の事だって、ちゃんと考えてくれてホントは怖い人じゃ無いんかな? って思えてくる。


 あ~もう! 気になる所をあげたらキリがない!


 でもな、俺は所詮しょせん連夜さんにしたら今は気に入ってるだけのおもちゃやし、借金が無くなればこの関係も終わるんやろうなって最近は思っている。


(だからこそ、こんな気持ちは知りたくなかった)


 俺はこの気持ちにそっと蓋をしようとしたけれど、毎日会うたびにどんどん惹かれてしまう。


 もう、そのうち隠そうにも隠せんくなるんじゃないかな。


「はぁ……」

「想? どうしたの?」

「な、なんも、ないで? 気にせんといて佐倉くん」

 佐倉君がカウンターで甘いコーヒーを飲みながら心配そうに尋ねて来たから、俺は慌てて返事を返す。


 危ない危ない余計な心配をかけるとこやった。


 ただでさえ佐倉君は新しい環境になって、多部ちゃんと暮らして俺のこと毎日送り迎えしてくれたりで、大変そうな感じやのに……


「せや、佐倉君は生活なれた?」

「あ、うん。多部ちゃんにもよくしてもらっているよ」

「そっか~ほなよっかた」

「う、うん……」

 あれ? なんかそんな嬉しそうじゃないように見えるけど気のせいかな? 佐倉君と多部ちゃんならうまく生活していそうと思ったんやけど。 


「そういう想は、連夜さんとうまく生活しているの?」

「う! うんっ、まあ、その、うまくいってる」


 またしても危ない危ない。


 佐倉君とこんなに一緒に居る時間長いんやけど、連夜さんと俺の契約の事をまだ言えてないねん。

 ちょっと特殊な関係過ぎるし、その……引かれたりせーへんか心配で、なかなか言い出せずにいる。


「はぁ……」

「また、ため息だけど、想、もしかして恋煩こいわずらい?」

「え、ちゃうでっ! ちゃう、ちゃう」

「ええ~? だって自分じゃ気付いてないけど、さっきから悩んでいるように見えるし、ため息ばっかりだもん」

「マジ?」

「うん」


(うわぁ……知らず知らずのうちにため息ばっかついてたみたいや~どうやって誤魔化そか?)


「ふふふ~佐倉さんは想が誰を好きでも応援するよ?」

「はっ? なななに言ってんねん! もう! ちゃうて」


 ~ カラン ~


(助かった!お客さん来たわ)


「あ、いらっしゃいませ~ほな佐倉くんまたな」

「も~もっと聞きたかったのに……仕方ない、想また後で来るね」

 佐倉君はそう言うと、コーヒーのお代を置いて出ていった。


 何か勘違いしてたように思うけど、俺の気持ちバレてないよな?


「はぁ……」

 本日何度目かのため息を付きながら、俺は気分の上がらないままコーヒーを淹れ続けていた。



◇◇◇◇


「あ、もう閉店なんです~」

「迎えに来たよ」

「れ、連夜さん」

「お疲れさま」

 佐倉君が迎えに来るはずやったのに俺の目の前に居るのは、今は一番会いたくなかった人やった。


 とは言っても、毎日帰ったら朝まで顔を合わすことも多いんやけど……


 って、なに考えてんねん!


「想? 変な顔してどうした?」

「っ、何でもない!」

「ふふふ、まあそれも可愛いけどな」

「っ、もう! すぐからかうんやから」

 つくづく連夜さんの声は甘すぎる。

 にやりと笑う顔があまりにも恰好よくて、必死で目を背ける。


「あ、佐倉君は?」

「……家」

「そっか~」

 佐倉君も忙しいもんな~

 そんな的外れな事を考えていた俺は、連夜さんがどんな表情で俺を見つめていたのか知らないまま、急いで店内の片付けに勤しんだ。


「あ、そういえば今日辰巳さんと輝久さんが家に来るから、想を紹介しなきゃね」

 そういえば今朝そんなことを言われたように思う。


「……辰巳さん達って櫂の親御さん達やんな? だ、大丈夫やろか? すでに緊張してきたわ」

「ふふふ、ニ人共良い人達だし大丈夫だよ」

「うん、そうやろね」


 実はこの間こっそり櫂が教えてくれたんやけど……

 想はモノじゃない! って連夜さんにめちゃくちゃ怒って反省させたぐらいの人達だから、きっといい人達に違いない。


ーーーー


 こうして俺は連夜さんに見つめられながら足早に閉店後の片付けをして、車に乗り込んだ。

 俺が少し不安そうにしている様に見えたのか、連夜さんは後部座席でずっと手を握ってくれた。


(余計心臓が早くなるんやけど……)



 でも、その連夜さんが、俺の借金がだいぶ減ったから、今後も関係を縛りつけれるようにさっき閃いた事を実行しようと頭の中で画策していたなんて、思ってもいなかった。





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