想達が囚われている屋敷に来て、連夜が九条大河と対面してからは、あっという間の出来事だった。
九条大河は彰太を人質として飼いならした時のように、想を人質にして連夜を脅し、九条の権利を自分のものにするはずだった。
しかし、それは叶わなかった。
夏目も多部も知らなかったが、あの時想に書かせた契約書で、想は連夜の所有物になっていた。
つまり、連夜の所有物に手を出したのであれば、彰太を縛り付け結ばされていたような協定は当然無効。お互いに所有物には手を出さないという約束の元、手出しはしないという事になっていたので当然の結果である。
え? 後から想を所有物にしたって? 協定の後に所有したものに対して手を出した場合は無効なんてどこにもそんなことは書いていない。
これは連夜にとっても、彰太を取り返すまたとないチャンスだった。
こうして叔父に素直に従うような素振りをして、契約書と権利書を持って颯爽と現われたのである。
「ひ、卑怯な……」
「なんとでも」
「っ、お前たち、やれ!」
「ふははは、話が早くていい」
全てに気付いた九条大河が、取り返しのつかないことをした事に気付いた時にはもう手遅れであった。
たった三人の男に十人以上の屈強な男がバタバタと倒されていく様は実に見事だった。
連夜はもちろん夏目も多部も、普段の姿からは想像できない程荒々しく、そして華麗に敵をなぎ倒していく。いつもなら少し抑えも効くが、想に付けられた機械の中から聞こえてきた三人の声や傷だらけの様子に歯止めが効かなかった。
「ふぅ……終わったな」
「ああ、早く彰太に会いたい」
「ほんと、二人とも相変わらず強いね」
「それはお互い様だろ?」
「早く迎えに行こう」
「ああ」
床に寝ている多数の男達の上で、三人は息も乱さず平然とした表情で語り合う。
足元にいるモノが生きてるのかなんてどうでもいいが、とりあえず片付けをさせるため多部は部下に電話をかけ手配をした。
「連夜、それどうするの?」
「あ? ゴミだし、捨てる」
「ふふ、こいつは腕……ってか命いらないよね?」
「当然だろ」
「そうだね、その腕で殴ったんだから」
叔父だった物体と、想達に手を上げた男だった物体を足で踏みつけながら、連夜と夏目が笑っていない笑顔で話していた。
「た、助けて……」
「? 吠えるなよ、これで親父と一緒のとこにいけるだろ?」
「たしかに」
「それでも、お前は血の通った……にんげんか」
「はあ?」
おかしなことを言う男に連夜は笑いながら声をかける。
「これで親父の
「っ……な、なにを」
「俺が知らないとでも?」
「……」
「せいぜいあっちで親父に謝るんだな」
「連夜、後はやっておくよ?」
「ありがとう、多部ちゃん」
「夏目さんも」
「ありがとう」
ーーーー
連夜と夏目が去った後、大勢の部下がやってくる。
「さて、命乞いしたい人はいるかな?」
床一面血だまりの中、必死の懇願が聞こえてくるのを多部は至極嬉しそうに笑いながら見ていた。
(ほんと、どーでもいいんだよね。それより佐倉は大丈夫かな? ふふ、まさか自分が誰かを心配する日がくるなんて)
多部はそんなことを考えながら、金髪のふわふわを思い浮かべ、とりあえず佐倉の顔を見に行くため、靴に付いた血をその辺りにいる
◇◇◇◇
多部が処理を終えて想たちが囚われていた部屋の前に向かった瞬間、想の宣言が聞こえてきた。
「そんなん関係ない! 嫌やで! もし佐倉くんに何かする気なんやったら……俺……連夜さんの事……」
「大キライになるから!」
これには連夜も驚き、流石に困った顔をしている。
「それはダメ」
「ほんなら、佐倉君のこと許してくれるん?」
「いや、それは無理だ」
「俺こんなに元気やし、それにしょう君も無事やし……しょう君!」
彰太は急に自分に話が振られ、じっとりと冷や汗をかきながら連夜の方を見て答える。
「佐倉は、俺が囚われて希望を失っていた時に支えてくれた。……情状酌量の余地はあるんじゃないかな」
「彰太……」
「なんなら、お、俺が……面倒見るから」
「それはダメだよ? 俺が許さない」
「亮? な、何言ってるんだよ」
夏目の言葉に、今度は意味が分から無いという表情で焦る彰太だったが、想はそんな彰太を見て自身も連夜に頼み込む。
「連夜さん! お、俺が佐倉君の面倒を見る!」
「……お前は馬鹿なのか?」
「っ、もう連夜さんの事なんて嫌いにな……」
「あ゛ーもう! わかったわかった! じゃあ多部ちゃんの所で面倒見てもらえ、金髪!」
「佐倉君やで? 連夜さん」
「チッ、じゃあ佐倉! 多部ちゃんに迷惑かけないようにしろ! そして今日からお前も俺の部下になれ、いいな?」
多部の気持ちが想から離れてくれるのは良いことだと安心したのと同時に、多部にも幸せを掴んで欲しいとひっそりと願っていたので、佐倉という男が何かを変えるかもしれないと直感的に思っていた。
「え……」
「拒否権は無い。今日から多部ちゃんの家で一緒に生活しろ……佐倉」
「っ、は、はい」
「ウチに……一緒に……」
「た、多部ちゃん……ごめんね」
「いや、いいよ! うん、大丈夫……」
うわの空でぶつぶつ何かを唱えている多部と、大層申し訳なさそうにしている佐倉だったが、その状態に気付かず佐倉と一緒にこれからも過ごせることに想と彰太はホッと胸を撫でおろしていた。
そしてその様子を何故かニヤニヤ笑いながら連夜と夏目は見ていた。