「湯山くん、私あれが飲みたいんだけどいいかな?」
なんだ?人間社会に人の血は売ってないぞ……だが……まさか。
ドキドキしながら指をさした先を見るとカップル用のバカでかいイチゴジュースのポスターが貼ってあった。やけに長いストローが刺さっていてハートの形になるやつだ。
とりあえず胸をなでおろす。良かった、まだ僕が住んでいる社会はチュパカブラに侵略されていないようだ……いや、当たり前だ。だってついこの間までチュパカブラとか頭にさっぱりなかったもん。
「いいよ」
「えっ?いいの!?照れるかと思ったんだけど」
照れる?このUMAは何を言ってるのだろう。こちとらずっと死の恐怖を感じているのだ。そんな健全なる高校生男子が感じるような甘っちょろい感情が湧いてくるわけないだろう。
そして僕たちはカフェに入り、店員さんにカップル用イチゴジュースを頼んだ。妙に生暖かい目をされていたような気がするが、きっと彼女も恐怖によって正常な思考回路でなかったのだろう。
「ふふふーーん、男の子とこんなことするの初めて」
「そうなの?」
「うんっ」
ニコリと笑って頷いた。ワクワクしているようだが、魂胆は分かっているぞ。これは僕の血を吸う予行練習なのだ。通の愛飲家は飲み方にも気を使うという…僕の血を直接吸うだけでなく、ありとあらゆる方法で吸い込んでどれが最も美味しいか試す腹づもりなのだろう…そしてそれと同時に僕に対する宣言だ。貴方の血をこんな風に吸うから覚悟しておいてね……そう言うことなのだろう。
そう……なんだよね。
「うわぁ、大きいなぁ」
ちゅるるると勢いよくジュースを吸い込む。ストローのハート模様が綺麗に浮かびカブちゃんの顔が嬉しそうに微笑む。
「美味しいぃ!!人間がこんなに美味しいものを作れるんだから不思議だよね。食に関してだけは下等生物にしておくにはもったいないよ!!」
「ははは、そいつはどうも」
不思議だな、人間を見下しているUMAのくせに……なんだか……ちょっと可愛「こーいちーーー」
「雄一郎!!??おまっ、なんでテーブルの下から出てきたんだ!!??」
「貴様ぁぁ許さんぞ……許さん……ゆる………」
雄一郎は僕とカブちゃんを交互に見た後に涙を流しながらカフェを飛び出していった。
「うえぇぇぇ~~~ん!!!!カップルしか飲めないもの飲みやがって!!バーカ!!バーカ!!!」
あいつ……何をしたかったんだ?
この後飲んだイチゴジュースはなんだかちょっと塩辛かった。