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第十話  もう何も怖くない

 そんな昭平の姿をリサはすぐ傍でみていた。

 魔力はすでに尽きており、ほとんど消えかかっているリサの姿を見る事は出来ない。

 旅客機の脇のドアが開き、中から乗客達がでてきた。美弥は外にいた昭平に泣きながら抱き着いた。昭平もそんな美弥を慰めるように頭をなでている。

 ・・・よかった・・

 幸せそうな、ほっとしている二人を見て、リサは心の底からそう思った。

 リサの体から光の粒子が立ち上っていく。

 最後に、たくさんの人の運命を変える事ができた。王族として、例え異世界であっても人々を救う手助けができた・・命の使い所としてこれ以上の事はないだろう。

 ありがとう・・・。

 昭平の頬に口をつける。

 その瞬間、光の粒子となってリサの姿は消えていった。




「・・・私は・・・もぅ・・」

 力のなくなった手が、パタンと下に落ちた。背中に生暖かいなにかヌメっとしたものを感じる。それは刺された傷から出た血なのだろう。

「・・・戻って・・・きたんだ・・・」

 静かに紅色の目を閉じる。これで終わり・・・のはずだった。

 =エクストラヒール!=

 何処からか声がして、リサの体が金色に輝いた。

「・・・・・?!」

 刺された痛みが消え、リサはハっとして目を開く。

「・・な・・・何?」

 =これが有名な回復魔法の力!=

「・・・・・・」

 体を起こした。何処かで聞いた事のある声だった。

 大神官や、周りの兵士達がざわめき始める。

「何者だ!、ここを王家の神聖なる場所と知っての不法侵入か?」

「その神聖なる場所であんた達は何をしてるんだ?」

 濡れたままの服を着た青年がゆっくりと歩いてくる。

「凄いな、この世界、知ってる小説の設定が全部、実現できるってのは」

 リサの近くまできて青年・・・昭平は立ち止った。

「どうやら向こうの世界の人間は、こっちだと強力な魔法の力を得るみたいだ。逆にこっちの世界から向こうに行ったら弱体化する‥‥なるほど、だからか」

「ショ・・・」

「こんな緊迫したシーンから、世界を越えて行ってたのか・・・ごめん・・何も知らなくて」

 昭平はすまなそうな顔をした。手を翳すと血だらけだったリサの服が。元の純白に戻り、破れていた所もなくなった。そのままリサを起こす。

「ショウヘイ・・どうして?」

「・・・これがあるからな」

 昭平は体に巻き付いている光の輪を指さした。光の鎖はリサへと続いていた。

「・・あ・・・」

「・・・そういう事・・・・」

 背後から近寄ってきた兵士の気配を感じながら、昭平は眼鏡を上にあげて戻す。

「はあああ!」

 二人の兵士が同時に切りかかってきた。

「・・・時間制御・・・」

 ボソ・・・と呟いた瞬間、昭平は尋常ではない速さで兵士の達の攻撃をかわした。

「なに!」

「複製!」

 何も持っていなかったはずの手に反り刃の刀が握られた。その刀で兵士達は光の速さで剣を弾き飛ばされる。

「悪く思うなよ、でもそっちが先に手を出してきたんだからな」

「・・・な・・・なんだ、お前は?」

 周りの兵士たちが一斉に取り囲む。

「・・・何人いようが・・・」

 眼鏡を二本の指で戻す。

「異世界ものを極めた俺の敵じゃない!」

 一斉に向かってきたが、

「うりゃああああ!」

 刀の一振りは、巨大な光の柱となって周囲の兵士達を飲み込んでいった。

 金色の光の余韻が消えた頃、辺りは静寂に包まれる。

「あ・・・あああああ・・・」

 大神官が近くで腰を抜かしていた。昭平は切っ先を神官の顔に向ける。

「誰がリサを殺せと言ったんだ?」

「そ、それは・・」

「こういう時の台詞は何がいいかな‥‥いっぺん死んでみる?・・・アナザーディ・・・」

「わ。分かった!、言う、言うからやめてくれ!全部、陛下の命令だ!、ただ陛下の命に従っただけなんだっ!」

 使う前に、大神官の老人は喋りだす。

「お父様が!」

 リサはよろめいてしゃがみ込んだ。

「で、なんでそんな事を?」

「それは‥‥」

「‥‥‥‥」

「言う! だからやめてくれ!」

 昭平が睨むと大神官は顔を青ざめさせた。

「陛下はレナルス様を次の王につけたいと・・だが継承の儀をレナルス様より先に乗り越えてしまう。リサ様が王位継承権一位になってしまう。だから誅さなければならないと」

「レナルス・・というのはリサの兄さんか・・しかし国ぐるみの犯行か・・・」

「だ‥‥だから‥‥」

「分かった。消えろ!」

「ひぃ!」

 昭平はショックを受けてうつむいているリサを見てから、大きな声を上げた。神官は悲鳴をあげながら逃げて行った。

 神殿に静寂が訪れる。夜空の星の光だけが二人を照らしている。

 沈黙の時間だけが流れる。風にそよぐ草の音だけが聞こえていた。

「ショウヘイ・・・私はもう・・・・国には戻れない・・」

 最初に口を開いたのはリサだった。

「そうだな」

 落ち込んでるリサを見て溜息をつく。

「だけど、王位継承権一位っていうのは確かな事だよ」

 リサの足元にかしずく。

「国がリサを捨てたんじゃない。リサが国を捨てたんだ。次期王はリサなんだから」

「・・・・・・」

 リサは泣きそうになっていた顔をあげる。昭平は笑顔を向けた。

「そうだな、まずは二人で国を始めよう。そこから広げていけばいいじゃないか」

 手を取ってその手に口をつける。

「ショウヘイ・・・・」

 リサは再び目が潤んでくる。

「・・・あなたを、私の騎士に任命します・・。いついかなる時も私を・・・」

 少し言いにくそうにしていたが、

「私の傍から離れないでください・・・エンゲージ!」

 昭平の体を囲む輪が砕け、代わりに薬指に小さな光のリングがはまる。

「え? 今の魔法?」

「・・んー・・ただの任命式だから・・・気にしないで」

 リサは同じ光のリングのはまっている指を見つめながら悪戯っぽい笑顔を浮かべ、昭平は眼鏡を戻しながら笑顔を向けた。


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