「もう、星矢くんったら、楽譜落とすんだから」
翔子は昇降口前にいたが、風に吹かれて地面に落ちてきた星矢の楽譜を拾って、音楽室に行く。
「翔子、頼んだぞ」
翔太は1人花壇に座って、待っていた。
「あ、残っていたのか」
翔子は音楽室に着いて、体が固まった。顧問兼彼氏である佐々木先生が教壇に立っていた。
「な、なんでこんなところに」
「先輩、先生がさっき来てたんですよ。教えるタイミングがなかったです。
一瞬だったので……」
「お、おう。ごめんな。邪魔したかな。なぁ、翔子」
「ちょ、ちょっと先生。その呼び方やめて」
「……」
星矢は動揺する翔子を眺めていたくて静かに見ていた。
「ちょっと黙ってみてないで」
「随分仲がいいようだなぁ。工藤と」
「……仲良いって一緒にお昼食べたりする仲だよ。てか、やめて、何も言わないで!」
星矢はニヤニヤしながら、翔子と先生を見つめる。
「あ、どうぞ。お気にせず続けてください。僕はフルートを吹いているんで……」
「……翔子、工藤は何か知ってるの?」
「ううん。何も全然知らないわよ」
翔子の目がものすごく泳いでいる。それさえも気にせずに星矢はフルートを吹き始めた。思い出し笑いして、吹き出した。笑いがとまらない。笑いを必死で止めるために震えが小刻みになる。
「星矢くん、普通に普通に笑って……ちょっとその動きは良くないと思う」
翔子までもが笑いそうになる。
「そろそろ、帰らないのか?」
「あ、ごめん、亮ちゃん。今から星矢くんの演奏会だから聴いてあげて」
無意識に名前で呼んでしまっていた。その言葉に星矢はさらに笑いがとまらない。震え続けている。
「あーーー、もう。翔太も待ってるから。星矢くん、私たちも下に行くから
しっかり演奏してね」
翔子は、佐々木先生の腕をつかんで、翔太が待つ昇降口前の花壇に向かった。
「お、先生。お疲れ様です。先生も演奏会参加ですか?」
「うん、なんかそうみたい。強制的に連れてこられた。」
「そう言う言い方良くないよ。ほら、星矢くん。演奏始めてください!」
翔子は、星矢に手を振って合図した。星矢は深呼吸して、フルートを吹き始めた。いつも吹き慣れているモーツァルトの『フィガロの結婚』を吹いた。何度も吹いてるせいか慣れてきて聴き心地も良くなっていた。観客は3人。みんな星矢のフルートの音色に
夢中になっていた。
真っ暗になってきた夜空には
煌めく星と満月があった。