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第39話 颯人と外出

街中の喧騒に星矢は、天を仰ぐ。ビルとビルの間から空が見えた。

飛行機が雲を作って飛んでいる。明日は雨が降るのだろうか。


歩行者用信号が青に切り替わると、星矢と颯人は、横断歩道を渡った。

たくさんの人混みの中を行き交うのは慣れていない。人疲れしてしまう。

どこに行けばいいかと右か左かとぶつかりそうな人もいる。


自転車は歩道だというのに急いで走っていく。危ない目に遭いそうな時もあった。足元ばかり見て、前をよく見ていない。


街中は本当に苦手だった。


「星矢、大丈夫?」


颯人は星矢の腕をつかんで、ぶつかりそうになるのを回避してくれた。


「あ、うん。ごめん。僕、あまり、前見てなくて、ぶつかりそうになるんだ」


「前見て。危ないよ」


「だよね。わかっているんだけどさ」


こんな時、翔太はどんな対応をしただろうか。こんなに混む日中の街中を未だ一緒に歩ったことは無い。颯人の隣にいながら、翔太のことを考えたが、今はそれどころじゃないと首を振った。


腕をしっかり掴まれて、ようやく閑散とした通路に着いた。

牛丼屋の目の前だった。


「ほら、ここだから」


「あ、着いた。早かったね」


「だよね。近いよね」


「うん」



 お店の自動ドアが開いた。


 颯人と一緒に来るのは初めてだった。なんだか新鮮で嬉しかった。

 何を食べようかと迷ったが、結局颯人と同じものにしてみた。

 星矢自身そこまで嫌いものはそんなになかった。

 同じものを一緒に食べるのが嬉しかったからだ。


「別に真似しなくてもいいだよ」

「気にしないで。僕が食べたいんだから」

「そう? わかった」


 期間限定の牛すき焼き定食だ。小さな鍋が付いている。


「颯人は、すき焼き好きだったんだね」

「そう。期間限定だからね。このたまごで絡ませるのがおいしいんだよ」

「ごめん、僕生たまご、ダメなんだ」

「いや、謝らなくてもいいけど。好きに食べればいいじゃない?」


「たまごかけご飯はいけるんだけど、このすき焼きに関しては、つゆで食べるんだ」


「へぇ、そうなんか。珍しい。まぁ、いいじゃないの? 美味しければいいんだから。あー美味しい」


 颯人は頬いっぱいに詰め込んで幸せそうな顔をした。その顔を見てるだけで星矢はお腹いっぱいになりそうだ。


「星矢、食べないの?」

「食べるよ」


 星矢は箸でお肉を持ち上げて、舌鼓を打った。


「あのさ、これ、食べ終わったら、すぐ近くの服屋見てもいい?」

「うん、いいよ。颯人、服買うの?」

「そう、ちょっと見てみたくてさ」


 颯人の服はどんなものを選ぶのか楽しみになってきた。


 星矢は、一緒に食べることができる上、一緒に買い物もできるなんてと笑顔が溢れた。



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