街中の喧騒に星矢は、天を仰ぐ。ビルとビルの間から空が見えた。
飛行機が雲を作って飛んでいる。明日は雨が降るのだろうか。
歩行者用信号が青に切り替わると、星矢と颯人は、横断歩道を渡った。
たくさんの人混みの中を行き交うのは慣れていない。人疲れしてしまう。
どこに行けばいいかと右か左かとぶつかりそうな人もいる。
自転車は歩道だというのに急いで走っていく。危ない目に遭いそうな時もあった。足元ばかり見て、前をよく見ていない。
街中は本当に苦手だった。
「星矢、大丈夫?」
颯人は星矢の腕をつかんで、ぶつかりそうになるのを回避してくれた。
「あ、うん。ごめん。僕、あまり、前見てなくて、ぶつかりそうになるんだ」
「前見て。危ないよ」
「だよね。わかっているんだけどさ」
こんな時、翔太はどんな対応をしただろうか。こんなに混む日中の街中を未だ一緒に歩ったことは無い。颯人の隣にいながら、翔太のことを考えたが、今はそれどころじゃないと首を振った。
腕をしっかり掴まれて、ようやく閑散とした通路に着いた。
牛丼屋の目の前だった。
「ほら、ここだから」
「あ、着いた。早かったね」
「だよね。近いよね」
「うん」
お店の自動ドアが開いた。
颯人と一緒に来るのは初めてだった。なんだか新鮮で嬉しかった。
何を食べようかと迷ったが、結局颯人と同じものにしてみた。
星矢自身そこまで嫌いものはそんなになかった。
同じものを一緒に食べるのが嬉しかったからだ。
「別に真似しなくてもいいだよ」
「気にしないで。僕が食べたいんだから」
「そう? わかった」
期間限定の牛すき焼き定食だ。小さな鍋が付いている。
「颯人は、すき焼き好きだったんだね」
「そう。期間限定だからね。このたまごで絡ませるのがおいしいんだよ」
「ごめん、僕生たまご、ダメなんだ」
「いや、謝らなくてもいいけど。好きに食べればいいじゃない?」
「たまごかけご飯はいけるんだけど、このすき焼きに関しては、つゆで食べるんだ」
「へぇ、そうなんか。珍しい。まぁ、いいじゃないの? 美味しければいいんだから。あー美味しい」
颯人は頬いっぱいに詰め込んで幸せそうな顔をした。その顔を見てるだけで星矢はお腹いっぱいになりそうだ。
「星矢、食べないの?」
「食べるよ」
星矢は箸でお肉を持ち上げて、舌鼓を打った。
「あのさ、これ、食べ終わったら、すぐ近くの服屋見てもいい?」
「うん、いいよ。颯人、服買うの?」
「そう、ちょっと見てみたくてさ」
颯人の服はどんなものを選ぶのか楽しみになってきた。
星矢は、一緒に食べることができる上、一緒に買い物もできるなんてと笑顔が溢れた。