まだ朝日がのぼらない頃、ふと目が覚めた翌朝の午前4時。
いつの間にか、颯人の家で一夜を過ごしていた。
星矢自身も相当疲れていたようで、ソファの下のラグマットに熟睡していた。
飲み残していたお酒の缶や空き缶が3本テーブルに置いてあった。
ソファの上で見たことのない颯人がぐっすりと眠っていた。眠っているにも関わらず、まつ毛が長く、肌が白い。猫みたいなくしゃっとした茶色の髪。昔バスケとしていたって言っていた。手が大きくて骨ががっちりして綺麗だった。
こんなに近くで颯人のことを見たことがない。
自分が普通じゃないことをバレたらガッカリするんだろうなと落ち込んでいた。
寝返りを打つ颯人が無意識に星矢の腕をつかんだ。
「美咲……」
颯人は誰かと勘違いしている。星矢の心臓はこれまでにないくらいの最速で
動いていた。
ぐいっと腕を引っ張られ、頬に颯人の唇が触れた。
(僕は美咲じゃない!!)
現実にびっくりした星矢はとっさに大きな音を立てて、台所の方まで四つん這いで体を滑らせた。物音にびっくりした颯人は目をこすりながら、じっと台所を見た。床にべったりと座る星矢がいる。
「あ、あれ、星矢。そんなところでどしたん?床冷たいだろ。ごめん、ベッド貸せばよかったな」
さっきの言葉を疑った。颯人はいつも通りの対応だった。寝癖のついた頭をボリボリとかきながら、あくびをしている。
「颯人……記憶ない?」
「ん? なんのこと?」
「ううん。なんでもない。それより、ごめんね。翌朝までずっと寝てたみたいで。一泊しちゃったね」
冷蔵庫の中からペットボトルのミネラルウォーターを出して、グビグビと飲む
颯人はこれでもかの笑顔で星矢を見た。
「星矢、朝帰りだな」
「……うん。そうだね」
「おもしろ」
「え、何が」
「ううん。ただ、言ってみただけ。朝ごはんどうする? 冷蔵庫空っぽ。どっか食いに行く? 牛丼行くか」
颯人はいつにも増してハイテンションになっていた。1人暮らしに隣に誰かがいることが嬉しかったのだろう。顔が緩くなっていた。
「あー、うん。牛丼。久しぶりかもしれない」
「星矢、牛丼行かないの? 俺、しょっちゅう行くよ。3食牛丼でもあり。でもさすがに毎日は無理だけどな」
「なかなか行く機会がないかな。誘われれば行くんだよ」
「よし、行こうぜ」
肩をポンと叩かれた。 颯人はクローゼットの方に向かい、星矢のことを気にせずに次々着替え始めた。
「あ、星矢、ごめん。俺、風呂入ってなかった。シャワーもしてない。星矢も入る?」
「あ、そういえばそうだった。一緒は遠慮するよ」
「誰が、一緒って言ったんだよ。ウケるんな。俺先に入るから。次、シャワーしなよ」
「あ、だよね。ごめん。んじゃ、待ってる」
「おう」
颯人は上半身裸のまま、お風呂場に向かう。その様子を見るだけで、後ろめたい。気恥ずかしくなる星矢だ。
スマホを確認すると、着信履歴とラインメッセージの通知がたまっていた。
昨日のことがあって、返事をするのを躊躇した。既読にならないようにそのままスマホをテーブルの上に置いた。