星矢はいつの間にか颯人の流れに乗っかって、上から下までのトータルコーディネートをすることになり、ファッションショーのごとく、楽しんでいた。
颯人は、星矢が自分色に染まることに優越感を味わっている。
すべて揃えると紙袋いっぱいに荷物が入った。両手が塞がった颯人。星矢は申し訳ないと荷物を受け取ろうとするが、いいからと遠慮する。
「荷物は俺に任せなさい! 星矢の家まで持って行くから」
「いや、もう。自分で持てるし」
「細い体でもやしくんなんだから。それに俺が無理やり買ったみたいだし。
俺のおごりだけど」
「いやいやいや、尚更だよ。買ってもらって、手ぶらっておかしいし。
颯人、僕持つから」
そんなやりとりを、星矢の家の前外階段でやっていると、翔太がこちらを見ていた。玄関の前でずっと待っていたようだった。
「あ……翔太先輩」
「星矢、知り合い?」
颯人が翔太を見て気になった。ガッチリした体型の男性だった。グレーのパーカーにデニムジーンズを着ていた。じゃれ合っていたノリが一瞬にして冷めてしまった。楽しくしていたのは颯人だけだったが。
星矢はそっと翔太に近づいた。
「先輩、ずっとここで待っていたんですか?」
「あ、ああ。ごめん。突然に来たのは俺だから。邪魔したよな……」
立ち去ろうとする翔太を追いかける星矢。砂利の音がやけに響く。
「あ、星矢。これ、忘れ物」
ふと、振り返る翔太が星矢に渡す。ブランド物のネクタイピンだった。受け取った星矢はそれを見て、一瞬固まった。
「あ……」
「んじゃぁ。また」
「……」
星矢は立ち去る翔太を追いかけられなかった。隣に颯人がいることもある。状況説明を長くしなくてはいけないことと、翔太に彼女がいたことを聞きたくても聞けない。
「追いかけなくていいの?」
「……う、うん。大丈夫」
アパートの鍵を開けて、颯人を中に誘導した。たくさんのお店の紙袋を床に置いた。
星矢は、翔太が近くに来てくれて嬉しいはずのなのに素直に対応できないと
悔やんだ。颯人と一緒にいる時間を今は1番に考えないとという思いを優先した。
「コーヒー淹れるね」
「あ、いいよ。もう少ししたら、実家に行かなくちゃいけないから」
「あ、そう? ごめん、何もおもてなしできなくて……」
「気にしないで。突然の母親からの呼び出しでさ。逆にごめん、さっき電話入ってたんだよ」
「そっか。今日はありがとう。買い物、楽しかった。大事に着るね」
「そっか。それはよかった。それじゃぁ、また」
颯人は、そう言って、アパートを去って行った。ふと、1人になって考える。ものすごく、孤独感が大きくなった気がした。星矢は一体どうしたいのかわからなくなる。颯人と一緒にいたのに、翔太と一瞬会って、翔太のことも気になった。
まだ遠くに行ってないだろうか。スマホで確認しようか迷った。でも、今更遅いのか。彼女のいる翔太に連絡をとって、自分の出る幕なんてないだろうとマイナスに考えてしまう。
メッセージを送ろうとしてすぐに画面を消した。
ベッドに仰向けになり、腕で目を隠す。こんなもやもやした自分が嫌いになる。優柔不断な自分なんてどこかに行って欲しいと願ってしまった。