頭の中に真っ白な空間が広がった。
人間は本当に幸せを感じると白いものを想像するのだろうか。真っ黒ではないことは確かだろう。
翔太が結婚してしまったかも思ったと考えただけで心も真っ黒になりそうだったが、今は全然そんなことはない。それはなぜか。
隣に翔太がいるからだろうか。
夢のようなふわふわとした柔らかい気持ちになった。
心配していたことが嘘のようだ。
仕事帰りに居酒屋で過ごしてから酔いが深かったのだろう。記憶が曖昧だ。
いろんなことがあって、翔太はフラフラになりながら星矢の家に来ていた。
翌日、普通に仕事があるって知っていたのに、お互いいてもたってもいられなかった。
モヤモヤした気持ちを晴したかった。
指先でお互いを触れ合うだけで安心した。何も言わなくても感じる心ってあるんだと確信する。
恥ずかしさを酔いのせいにして、夢中だったのだけは覚えている。
星矢は、翔太に身を預けて、一つになることをこの上ない幸せさえ感じた。
◇◇◇
窓の外からすずめの鳴き声が聞こえてくる。スマホのアラームが鳴った。顔を大きな枕に埋めた。大きなため息をつく。窓から太陽の日差しが部屋の中に差し込んでいる。
隣に翔太が寝ていた。ハッと昨日のことを思い出し、恥ずかしさが頂点を増す。耳まで赤くして、ふとんで顔を隠した。
がさこそとふとんの擦れる音で目を覚ます翔太。
「……星矢?」
どこに隠れたかふとんをめくって、 星矢の顔をのぞく。
かくれんぼしたみたいに見つかった。
「みーつけた」
「めくらないでくださいよ!」
「だって、見たかったんだもん」
「……」
「寝起きどっきり星矢くん」
「……」
頬を大きく膨らます。その仕草が可愛くて、翔太は額にキスをした。
「わぁーーー!」
恥ずかしくなって、わたわたと暴れ出す。
「お、お。暴れるなって」
「……というか、今日、普通に会社ありますって」
突然、現実に戻り始める。
星矢は、あわてて、スーツに着替え始めた。
「えーーー、今日くらい休もう?」
「ダメっすよ。たまっている仕事があるんですから」
「かたいかたい。風邪ひいたとか言っておけば休めるだろ」
「先輩、そんなズル休みしてるんですか?」
「しょちゅうじゃないよ。今じゃ,熱出たら、出勤できないだろ。結局休むんだから。今日くらい、休もう?」
「……」
ネクタイに手をかけた星矢は、ふと手を止めた。全身鏡を眺めて、ため息をつく。
「それも、そうですね。たまには……」
「やったぁ」
翔太は星矢の体をガッチリとつかんで、ベッドの中にズルズルと引きずり込んだ。
「ちょ、何すんですか。スーツがしわできちゃいますよ!!」
「どーせ、脱がすからー」
「……???」
翔太は次々と星矢のジャケット、ワイシャツの順を服をポイポイと脱がしていった。白い半袖シャツとパンツの2枚だけになる。
「これでOK」
「どこが!?」
そう言って、役目は終わったと1人納得して翔太は、星矢をそのままにリビングに行ってしまった。
「服脱がして放置プレイ?!」
「星矢、一体、何を期待していたんだ?」
ドアの隙間からじーと星矢を見る翔太。
「……な、な、なぁ〜〜〜?!」
ケタケタと翔太は笑っている。星矢は騙されたと思い、ぶつぶつ文句を言いながら私服に着替えた。
ベランダに飛んできたすずめの2羽は星矢の声に反応して、空に飛び立っていった。