部屋中に目覚まし時計のアラームが鳴り響いた。
ハッと目が覚めると、真っ白い天井が見えた。
高熱と戦った颯人の体は汗だらけになっていた。
びしょびしょになったシャツを洗面所に向かいながら脱いだ。
フラフラだった体はすっかり良くなっていた。
そのままシャワーでも浴びようかと思ったら、リビングのソファに毛布にくるまって寝ている星矢がいた。
「……なんだ、泊まっていたんだ」
長いまつ毛が綺麗に見えた。寝息の音が心地よく聞こえる。
颯人は、じっと星矢の顔を見つめた。 肌の色が白くて、天使のようだ。
華奢な体が女子みたいで可愛く見えた。
思わず、額に口付けた。
腕を動かして、 額に手を乗せる星矢だったが、それでも起きなかった。 起こすつもりはなかった。颯人は慌てて、シャワーを浴びにお風呂場に移動した。
水の流れる音に星矢は反応した。
ハッと気づいて、ソファでうたた寝をしてしまった。朝になってしまってる。これで、仕事のサボり癖がついた。風邪で休んだと昨日は言っていた。
今日も風邪が治ってないってことにしようとよしと決意したが、くしゃみを一つした。
「これは、本当に風邪ひいたってことか」
テーブルにあったティッシュで鼻水を拭った。
トイレに用を足してから颯人のいる洗面所に様子を見た。
「ごめん、颯人。大丈夫になった?」
シャワーの途中だった颯人は水の流れを止めて、ドアを開けた。
「あ、起こした?」
「ううん。大丈夫。ちょうど起きたところだから」
「昨日からごめん。いろいろ買って来てくれて……
ありがとうな」
「いいよ、シャワーの途中でしょう」
頬を少し赤らめて星矢は言う。
「あ、そうだった」
慌てて、バタンとドアを閉める。
星矢は恥ずかしさを切り替えて、台所に行った。
昨日買ってきたおかゆパウチを温めた。
お風呂から上がった颯人からタオルを頭に乗せてやってきた。
「ごはん? 俺が準備すればいいんだけど、やってもらってたね」
「ううん。気にしないで。僕が買ってたものだったから準備しようと思っただけ」
「ありがとう。助かるよ」
星矢はニコッとはにかんだ。颯人は素直に嬉しかった。
「体調はどう?」
「うん。おかげさまですっかり熱引いたみたい」
元気な様子を見せつけた。星矢はクスッと笑う。
「なら、良かった。心配したよ。咳しながら電話してくるから」
「あ、別に咳アピールのために電話したわけじゃなくて、忘れ物……これこれ。忘れないうちにやっておくよ」
ガシャポンで買ったキーホルダーを棚から取り出して、星矢に渡した。
「いつでも良かったのに……でも、受け取っておくけど。ありがとう」
「言っておかないと俺も忘れちゃうと思って。せっかくの取ったものが、無くしたら大変だろ」
「まぁ、颯人と行った思い出でもあるからね。大切だね、そこは」
「だろ? 俺との時間はあの時しかなかったからな。ガシャポンを買うという時間な。仕事も忙しくなるし……あ、あれ、今日平日、星矢、仕事大丈夫なの?」
「……うん。風邪で休んでることにしたから平気だよ」
「え? 星矢ってズル休みするタイプだったっけ?」
「えー、そうやって攻めてくるタイプ?」
「嘘だよ。ごめんな、迷惑かけたみたいで」
「いいよ、颯人のこと気になったし。体調良くなったみたいで安心した。でも、そろそろ、帰ろうかな」
星矢は、台所で朝食準備を終えると帰り支度をした。
「……おう。いろいろ本当に助かった。ありがとうな」
「ううん。大丈夫。何かあったら、遠慮なく呼んでよ。できる限りのことはするから」
「そんな、申し訳ないって。星矢もゆっくり休んで。俺の風邪うつってないといいけど」
「うん。大丈夫。むしろ会社休みたかったし。んじゃ。また」
「う、うん。んじゃ、また」
颯人は手を振って別れを告げる。星矢は、靴を履いて、玄関のドアを開けた。
どうして、颯人のこと気になったんだろうと事が済んでから思い返す。
翔太からの連絡が全くないことも心配だった。優柔不断な自分に苛立ちを覚える。本当は翔太との時間大事にしたかったはず。でも、颯人との関係も大事にしたいと少しは思っていたかもしれない。
心のどこかで颯人は、キープとして思っているのかもしれないと考えてしまった。
星矢は道端に落ちている石ころを蹴飛ばして、家路に向かった。
電線ではカラスがカァと鳴いていた。