星矢は自分はずるいとかんがえはじめた。2人を天秤にかけている。
この時は翔太。この時は颯人。
都合の良いように考えている。
形式的に結婚とか婚姻届とかなっていない。
ましてや、性別も同じだから未だ法律的に手続きできない。
できる地区もあるようだが、2人の住む場所はパートナー制度は男女のみとなっている。
できるのならやりたいと翔太は嘆いていたが、星矢にとっては好都合だ。
未だ揺れ動く気持ちに納得できていない。
翔太を嫌いになったわけじゃない。
いつの間にか一緒に住むようになってそばに感じられるようになって
マンネリ化し始めたのか外の世界に行きたいのか颯人から連絡が来るとどこか刺激を求めてしまう。
まだ星矢は公表してない。
恋愛対象は男性だということを。
それでも一瞬でも会っただけで癒されている。
まるで、結婚に慣れてきた3年目の浮気みたいな感覚だろうか。
一緒に住んでからまだ3ヶ月しか経っていない。
洗面台の鏡の前、いつものように寝起きのまま、歯磨きをする。
今日の仕事は全体会議で資料をまとめる役割を与えられていたはずと
現実を思い出す。
衣食住、何不自由なく暮らしてはずなのに
求める人はその時に寄って違うのかと
ため息をつく。
トントンとドアをノックした。
「星矢、ごめんな。今日、俺、職場の人と飲む約束してるから夕食自由にしていいぞ」
「ああ、そうなんですね。わかりました。楽しんできてください」
「怒ってる?」
「え、いえ別にそんなことないですよ。会社の付き合いありますよね。せっかく転職して、心機一転すっきりしたんですから新しい人間関係築くのに飲み会は必須でしょう。営業職はなおさらっすよ」
「ま、まぁな。寂しい思いさせちゃうけど……」
翔太は星矢の後ろに周り、肩をぎゅっとハグをした。
「ほら、朝は時間ないんですから行きますよ」
星矢は磨いていた口の中を水でゆすいだ。
「星矢、最近そっけなくない? 俺のこと構ってくれてないじゃん」
「そんなことないですよ。話し相手してるじゃないですか! 先輩、ごめんなさい。そろそろ時間だ」
腕時計を指差して、ソファの上にかけておいたジャケットを着る。
靴べらを使って靴を履くと逃げるように玄関のドアを開けた。
「あー、もう。いってらっしゃいも言わせてくれないのかよ」
星矢はため息をついて、歩きながら、スマホを触る。ラインを開いて、
颯人の文字をタップした。翔太が飲み会だとわかるとすぐに颯人に連絡する癖がついた。いつも行くのは居酒屋。流れで颯人の家に行くこともある。
星矢も翔太のいない時間が1人になることに不安を覚えた。
颯人と一緒にいることで心満たされていた。
どっちが好きか誰といるのがいいかなんて考えていない。
その瞬間に一緒にいたい人と一緒にいる。
翔太と一緒に暮らし始めてからそんな生活が続いていた。
宙ぶらりんの気持ちのままこれでいいのかと過ごしていると颯人から衝撃的な発言があった。