「颯人、どうかした?」
まったりした時間だった。星矢のスマホには颯人の文字が表示された。
嫉妬されて大変なことが起こりそうだと洗面所に行き、扉を閉めて、翔太に聞こえないように話を聞く。
「星矢、ごめん。今、電話大丈夫だった?」
「う、うん。今、大丈夫」
「ちょっと星矢のこと思い出して電話してみた」
星矢は心なしかどきっとして頬を赤らめた。
自分が頼りにしてくれる1人なのかと素直に嬉しかった。
洗面所のドアの向こう、トントントンとたたく音がする。
これは電話が長すぎると感じている翔太の行動だ。
急がないとと星矢は用件を聞こうとした。
「星矢、今さ、星矢の家の近くにいるんだけど、行ってもいい?」
颯人の言葉に驚いて言葉にならない声を出した。
「うげぇ、え? あ? ん? 近くに来てんたんだね。ごめん、今から行かなきゃいけないところあって……」
別にそんなものない。適当にごまかした。嘘も方便だ。翔太のドアのたたく音が早くなる。
「あー、そっか。そうだよな。でも突然に電話したからな。わかった。んじゃ、今度近いうちに飲みに行こう」
「あ、うん。そうだね。また連絡するよ」
星矢は通話終了ボタンをスワイプする。待ちぼうけをしていた翔太に顔を見せた。
「先輩、急かさないでくださいよぉ。焦る焦る」
「だって、俺のこと忘れてずっと電話してるから」
「……忘れてなんか……いないですから」
星矢は翔太の右腕をパシッとたたくとぐいっとつかまれてハグをされた。
こうやって嫉妬されるのも悪くないかなと感じてしまう。
窓の外、近所の曲がり角から星矢の家をのぞく颯人がいた。
窓の中を見ることはできなかったが星矢の家に行けなかったことが
悲しかった。
こんなにも近くにいるのになと悔やんだ。