翔太は莉華から逃げるように星矢の家に入り浸りだった。莉華は星矢の家は知らない。
その分、べったり星矢といられるんだから本望だと、すずめが鳴く朝、ベッドには華奢な星矢の体を包むようにぐっすりと眠る翔太がいた。寝返りと打とうとして、ごつんとお互いの頭が当たる。
「いたたたた。すいません、先輩、大丈夫ですか? 僕、よく石頭って言われるんですけど……」
「あ、ああ。今ので、かなり頭良くなったかもしんないな」
「そ、それは良かったです」
「おう、記憶力が蘇って、星矢が俺のこと忘れて新しいやつとデートしてたことがな!」
その翔太の言葉を聞いて、星矢はかなり不機嫌になった。
「あの、今、それ言うんですか?!」
「ああ、頭をぶつけてきたからな。お返しに攻撃したまでだ。因果応報って知ってるか?」
「いやいや、それとこれとは別でしょう。そもそも、先輩だって、莉華さんと一緒にいたじゃないですか!ずるい。僕だって会いたかったのに全然連絡しても既読スルーだった……」
星矢は翔太にメッセージの既読スルーをされていたことを思い出す。まだかまだかと待つ気持ちはすごく寂しい。颯人と一緒にいたことはあったが、全然恋人同士じゃなくて友達だった。勘違いされていることになんだかモヤモヤする。
「あ、それは悪かったよ。莉華のことは……俺にとって目の上のたんこぶなんだよ。職場変えようかなってくらい迷惑しているんだ。寂しい思いさせてたんだったらごめんな」
翔太は星矢の前髪をゴシゴシと撫でて、額に口づけた。泣きそうになった顔が緩んだ。
「今日って、仕事ですよね。休まないんですか?」
「え?? いきなり切り替えはやいな。仕事だけど……。遅番出勤だからまだ間に合うけど。休み?」
「僕、行きたくないなって思ったら有給使おうかなって思ってて。独身者って相当な理由ないと休めないって言いますけど、全然そんなことないじゃないですか。休みたいって思った時、休んじゃおって思って」
「あ、まぁ,有給は休み理由は本来いらないんだけどな。会社の人間関係の手前、話さないといけないっていうかね。星矢のところはわりかし休み取りやすいんだな」
「いやいや、もう、お休みの攻略方法見つけたんです」
「へ?」
「同僚の人が好きな菓子折りを持って出勤するとみんなご機嫌になることがわかりました」
「な、なるほどね。そういうことか。俺もしてみるかな」
「ね?だから、今日は休みましょう。バッティングセンター一緒にいこうって
言ってましたよね。約束していたから!」
「あ、そうか。そうだったな」
翔太は星矢に背中をおされながら、リビングに移動する。朝ごはんを食べる支度を始めた。
「会社に連絡しておいてくださいね。僕も電話しようかな」
星矢はご機嫌にスマホ画面を見つめ、会社に有給使用のお休み連絡を入れた。
嬉しすぎて、鼻歌がとまらない。翔太も星矢に言われなければ、休むってことにはならなかった。莉華のこともあるし、そろそろ転職考えるかと頭の後ろで手を組んだ。
「星矢、悪い。バッティングセンターもだけど、ハローワークにも行っていい?」
「あ、はい。いいですよ。仕事探すんですか?」
星矢は、できあがったコーヒーメーカーからマグカップにコーヒーを注ぐ。
「ああ、ちょっと、目星つけておこうかなと思ってさ」
日常的に隣に翔太がいることで星矢は心身ともに健康的になった。
なんで前から一緒にいなかったんだろうと過去を振り返った。
充実した1日を過ごしたかと思われた。
外出して堪能して自宅に着く頃、星矢のスマホに電話鳴った。
ベランダの窓を開けて、外を見た。通話ボタンをスワイプする。
翔太は誰からだろうと不思議そうにリビングのソファに腰掛けた。