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第46話 存在しない者

 桔梗院有清、という人間は存在しない。

 そもそも彼自身、人間として存在していないと言ってもいい。



 



 彼が生まれたのは一二〇〇年のこと。陰陽師の名家である、桔梗院家の嫡子として生まれた。

 彼には陰陽師としての天賦の才能があった。

 彼が求めたものは何でも手に入った。地位も、名誉も、女さえも。

 けれど彼が一番欲しいと望んだものは手に入らなかった。


 有宗が唯一恋した人物――藤原家の姫である樂姫。彼女だけはどうやっても手に入れることは叶わなかった。


 どうしても手に入れたい。どうしても手に入れなければ。どうしてあんな男と結婚したのか。私といれば不自由などさせないのに。そう、有宗は強く願ってしまった。


 家宝である禁書、妖百絵巻。それを手にしたあの日から彼の体は狂った。

 妖怪との契約。一族の滅亡と引き換えに手に入れたその力は、彼を無意識に蝕み続けている。

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