桔梗院有清、という人間は存在しない。
そもそも彼自身、人間として存在していないと言ってもいい。
彼が生まれたのは一二〇〇年のこと。陰陽師の名家である、桔梗院家の嫡子として生まれた。
彼には陰陽師としての天賦の才能があった。
彼が求めたものは何でも手に入った。地位も、名誉も、女さえも。
けれど彼が一番欲しいと望んだものは手に入らなかった。
有宗が唯一恋した人物――藤原家の姫である樂姫。彼女だけはどうやっても手に入れることは叶わなかった。
どうしても手に入れたい。どうしても手に入れなければ。どうしてあんな男と結婚したのか。私といれば不自由などさせないのに。そう、有宗は強く願ってしまった。
家宝である禁書、妖百絵巻。それを手にしたあの日から彼の体は狂った。
妖怪との契約。一族の滅亡と引き換えに手に入れたその力は、彼を無意識に蝕み続けている。