目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
君の魂は金色に輝く
君の魂は金色に輝く
城間ようこ
BL現代BL
2025年03月12日
公開日
3,878字
連載中
【オリジナル契約連載作品です。月木土の午後5時更新となります】 ──唯一無二の純愛をあなたに。ハイスペ俺様御曹司と純情男子高校生の悶えてときめくBL── 勇人(はやと)はもの心ついたときから、人の魂の色を見る異能に目覚めていた。これは母親から受け継いだもので、母親の家では代々この異能で政治的な役割や司法が絡む場など、様々なシーンで嘘や真実や欺瞞を見抜き、あるいは能力で人を誘導して活躍してきた。 母親の血を引いた勇人は、将来を嘱望されてきた。勇人が中学校を卒業して間もなく母親が他界してからは、後継者として周りの期待も高まった。 その勇人の両親は、運命で結ばれた夫婦だった。魂の色には様々な意味があるが、金色に見える相手というのは己の「運命の人」しかいない。 母親は魂の色が見える異能により、魂が金色に輝く父親を一目見て運命の人だと確信したが、父親もまた初めて触れ合ったとき、母親が金色に輝いて見えて、これこそが彼女の言う運命の人なのかと思ったという。 勇人は両親の二人寄り添い仲睦まじかった姿に憧れていた。あまりにも幸せそうに見えていて、二人の世界は完璧な幸福だったからだ。そこで愛されて育った勇人もまた、両親のように誰かと人生を分かち合いたいと願っている。 勇人は高校生となったいま、政界や経済界に慣れるようパーティーなどに出て、多くの人の魂を見てクライアントに報告し、訓練を積んでいる。常に真っ直ぐだった誠実な母親のように、後ろ指さされず生きたいと。 そして、心の中では、このあふれるほどの混沌とした魂たちの色の中に、金色を見せてくれる人が現れるかもしれないと希望を抱く。 母親のように、いや両親に恥じないように成長して活躍し生き抜いて、そして自分も運命の人と出逢い生涯を共にしたい。愛し愛されて、唯一無二の人と結ばれたい。 そう願い、日々努力を続けていた勇人に夢にまで見たものを見せてきたのは、あろうことか女好きで知られる一人の青年──大人で「同性」の人──優和(ゆうわ)だった。 戸惑いながらも勇人は運命の金色を信じ、優和に歩み寄ろうとする。 勇人をはじめは「おかしな奴」とあしらっていた優和も、勇人の真っ直ぐな気持ちに触れてゆくうちに変化してゆき……。

第1話 MIND BOMB

 運命の人が本当にいるのなら、赤い糸よりも鮮明に見せてくれ。

 この目に、まるで昇る朝日のように輝かしく──。





 ……………………。


「──優和さん、この家ってCD聴けますか?」

「ああ、聴けるけど。なあ、勇人、今の高校生もCDで音楽を聴くのか?」

「父から借りて来たんです。『The The』っていうバンドのアルバムなんですけど、『マインド・ボム』ってアルバムが神曲揃いで、父が寝る前に聴いてるのに付き合ってたら僕まで好きになって」

 The Theはマット・ジョンソンによるロックバンドだ。ジャンルはロックだけれど語りかけるように歌う。

 彼は知る人ぞ知るアーティストで、イギリスで活動していたが、マインド・ボムの後はアメリカに拠点を移し、次作のネイキッドセルフを出すまでに七年以上かけた。それを手にした父親の喜びようは大層なものだったと、勇人は聞かされた記憶がある。

「タイトルだけ聞くとダンテの地獄篇みたいだな」

「ダンテ?あの三冊揃うと鈍器になる本ですか?」

 鈍器になる本と言うと、ジャンルによって様々な書籍が挙げられる。勇人は少しいたずら心を出して混ぜ返した。

 しかし勇人より大人の優和は、余裕をもって反撃する。

「三回も殴打するのか……勇人は案外殺意が激しいんだな。ベアトリーチェには到底なれそうにない」

「もう……そもそも僕は男ですから。ベアトリーチェは既婚女性じゃないですか」

「勇人の冗談に付き合っただけだろ?」

「分かってますよ、ありがとうございます」

 他愛ないやり取りをしながら、カバンからCDを取り出す。モノクロが基調の少し古めかしいジャケットを、優和が興味深そうに見てくれている。

 その二人の距離は、肩が触れそうで触れない、息が触れ合いそうな距離だ。

 ──今でこそ、普通に会話出来るようになったけど……優和さんは、あの事を今どう思ってるんだろう。

 勇人は、ケースから円盤を取り出して優和に手渡しながら、触れた指先の感触にぴくりと痺れるような反応をして──気づかれないように手を引っ込めた。

 ──この関係は、優和さんが、あの日見たものが知らせた事を本当に信じられるまで、後退も前進もない関係のままなんだろうな。

 居心地のいい距離感。緊張しない会話。二人きりで何も過ちの起きない──そんな関係。

 勇人にとって、それが嬉しかったのは──いつまでだっただろうか?

 いつしか、心はもどかしさをぶつぶつと沸かせてくるようになった。

 ──まだ、駄目だ。こんな気持ちを知られたら駄目だ。

「勇人、この一曲目の入り方悪くないな、お前の父親が夜に聴くのも分かる」

「……ですよね?静かなんですけど、力があって」

 二人きりで聴いている音楽は、爆弾になる事もなく落ち着いた雰囲気を作り出して、そうして勇人は言葉を選んでは飲み込んだのだった。

 ──あの夜、あの場所で出逢えてなかったら、今のこの時間もなかった。

 今がある事に感謝しようと、勇人はゆったり流れる好きな音楽に「せめて、この音で自分を彼と共有したい」と願いを込めて身も心も沈め、出逢いの夜を思い返した──。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?