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俺のミントが全てを駆逐する!
俺のミントが全てを駆逐する!
双葉鳴
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年03月12日
公開日
5.4万字
連載中
「え、追放?」 勇者召喚により呼び出された三人のうちの一人。 『ミント栽培』の宿命を背負った植野耕平は、国王より身に覚えのありまくる罪状を並べられて窮地に陥っていた。 あらゆる場所にミントを地植えすることができる『宿命』は、耕平の知らないところで勝手に育って勝手に増えた。 おかげでレベルは爆速で上がるが、これといって耕平に恩恵はない。 特に『勇者』と『聖女』の連れという立場で庇われていたが、積み上がった罪状がついに耕平を追い詰めた。 王国の誇るバラ園は見るも無惨にミントに侵食され、ポーションの原料となる薬草は薬効が激落ち! 畑のあちこちにもミントは現れ、ついには食糧庫にも忍び込んでしまう始末。 耕平は全ての責任をとって追放を受け入れ、一緒にやってきた親友たちと別れを告げた。 弱い上に害悪な『宿命』を歩むことになった耕平は冒険者ギルドも当然門前払い! なんとか仕事を斡旋してくれないかと泣きついた先、皿洗いのアルバイトでガラの悪い二人の先輩と出会う。 先輩から仕事の斡旋をしてもらう内「実は俺のミントってやばいものでは?」と気がついていく耕平。 気がつけば小銭稼ぎで始めたミントを利用した商売は瞬く間に火が付き、一躍有名人に! 「え、このスプレー吹きかけただけで防腐どころか防臭まで?」 「この洗剤、ひと掛けで油汚れがごっそり落ちたぞ!」 「ひゃぁあ! このミント水、飲むだけで疲れが癒えてしまったぞ!」 「このワックスで諦めていた毛根が再び! おお、神よ!」 ついには追放を命じられた王国側から名誉職人の勲章をいただくまでに上り詰める。 同時に世界はまだ知らなかった。 このミントこそが宿敵である魔族との戦いに終止符を打つことになる礎になることなど、誰も知らなかった。 火・木・土12:00更新予定。

01_俺のミントで『信頼』が失墜する!

「悪いな、耕平。これ以上はオレたちでも庇えないっていうか」

「ええ、ごめんなさい植野さん。私たちが不甲斐ないばかりに」


 朝一番で呼び出されたと思ったら王族と貴族が集まってる席での吊し上げだった。

 一番最初に口を開いたのは、ユウキ からで。

 続くシズクお姉ちゃん の言葉で俺 の目の前は真っ暗になった。


「おい、待ってくれよ。そんなセリフで納得できるわけないだろう!? 俺たち親友だろ。このままじゃ俺は右も左も分からない世界に捨てられるんだぞ! 助けてくれよー」

「すまない。オレも最善を尽くしたんだが」

「ええ、打てる手はすべて打った上で、このお話をしなくてはいけないことが無念でならないのよ」


 二人のどこか突き放すような言葉は、この世界に勇者として召喚されてから初めてのものだった。


 勇者召喚。

 異なる世界から次元を超えて超人を呼び出す儀式。

 俺たちはその勇者に抜擢されて、ここにきた。


 それに選ばれたというのは俺としても本望だったのだが、よりによって授かった宿命が厄介すぎた。

 俺はこれのせいでどれだけ頑張ってもレベルが上がるどころかステータスが上がらない体にされてしまったのだ!


 それに比べて二人の幼馴染は『勇者』と『聖女』の宿命を歩んでいる。

 羨ましいぞ、ちくしょう!


「話は済んだかね、勇者殿。即刻その粗忽者を国外追放に処す。王国で宣告すると色々波風が立つものでな。どうせなら内々で処していただきたいところだった」


 これ以上被害が出る前に。

 王様の瞳はそう物語っている。

 俺がただの無能であれば、ここまで厳しい処分はしなかった。

 これはそう、俺が問題児すぎて下される判決なのだ。

 実際身に覚えしかない。

 それでも、罪状を明るみにしなければいけなかった。


「俺が何をしたっていうんだよ!」

「耕平が何かをしたってわけじゃないんだ」

「ええ、問題は植野さんの『宿命』にあると言いますか」

「いや、俺にだって制御できないんだぞ、あれ!」


 一度手元から離れたら勝手に育ち、勝手に増える。

 そんなのどうしろっていうんだ。

 その上で俺に何ももたらしちゃくれない。

 泣きたいのはこっちだよ!


「大変です、陛下! 王宮の薬草保管庫にも大量のミントが!」

「恐れていたことがついに起きたか……」

「父上!ロゼリアの大切にしていたバラ園がミントでめちゃくちゃに!」

「うえーん、これじゃあウィリアム様をお茶会にご招待できないわー」


 出てくるわ、出てくるわ俺の宿命のやらかしの数々。

 声を荒らげる騎士、悲痛な声をあげる貴族や王族。

 幼馴染達は俺の使えなさに目を瞑りながらも、こんな穀潰しを一ヶ月も守り抜いてくれていた。


 これ以上庇いきれない。

 手は打ち尽くした。

 こんな言葉を幼馴染に吐かせてしまうほどに、俺の問題児っぷりは日毎に増していった。


 潮時なのかもな。

 そう思った時には観念して両手をあげていた。


「ごめん、悪かった。これ以上わがままで城に滞在はできなよな。俺、出てくよ。なるべくなら王国に近づかない。これでいいか?」

「ごめんなぁ、耕平。最後まで力になってやれなくて」

「植野さん、一人でもやっていけそうですか? 困ったことがあったらお姉ちゃんにいくらでも頼ってちょうだいね?」

「姉ちゃん……今助けてっていうのは?」

「ごめんなさいね」


 二人共、ここで別れるのは本望ではないと言ってくれている。

 その証明とばかりにシズクお姉ちゃんは便利な魔法グッズを俺に持たせてくれた。


 手切れ金かな? 笑顔を張り付けるばかりでそれ以外の返事はくれない。

 手渡す際の力も、振り解けないものだった。

 レベル差ぁ!


 しかし背負った宿命が国の将来を采配するものなので、俺と一緒に出ていくのも難しいのはわかっていた。

 と、いうよりここにいる貴族や王族が絶対にそれを阻止するのが気配からもわかる。

 妙に殺気立っているというか、空気がピリピリしてるっていうの?

 ここは俺が出て行く場面で、一人たりとも国家に必要な人材を道連れにさせるのは許さない。

 そういう空気な。

 人一倍周りの空気を読む俺でなきゃ見逃しがちな気配だ。


「よくぞ決心してくれた。本当ならずっとと言いたいところだが……特別に他国に行く権利を渡そう。ただし我が国の領土を出た後の責任までは負えぬから十分に気をつけるのだぞ?」

「今軽く脅しました?」


 返答の代わりにずしりと重い金貨が入った布袋を手渡された。

 手切れ金だよなぁ、これ。

 目が笑ってない王様からの忠告を胸に、俺は慣れ親しんだ城を出て世界に解き放たれた。

 大量のミントと共に。





「まーた目を離した隙に育ってやがるよ、こいつ」


 目の前には俺にしか見えないステータスボード。

 若干エメラルドグリーンなのはミント由来か?

 そこには俺をこんな窮地に追いやった『宿命』の成長記録が記されていた。



◉=====================◉

名称    :コウヘイ・ウエノ

宿命    :ミント栽培

称号    :ミントマスター

ミントLV :500

<繁殖地>   

ローズアリア王国

<特性>

繁殖力:極 / 防虫力:中 / 防臭力:中 

吸魔力:微

<機能>

メッセージ:OFF / オート地植え:OFF

◉======================◉



 メッセージっていうのはレベルが上がった、とかそういうのが流れてくる。

 俺の宿命はとにかくレベルが上がるのが早い。

 最初は数日ノイローゼになった。

 レベルが50になった頃かな? 機能の項目が出てきて。

 それでOFFにしてから安息の日々がやってきた。


 しかし俺は最初の一回、王国の薬草畑の地植え以来どこにもミントを植えてないというのにあちこちで目撃情報が上がった。


 その度に今回みたいな詰問、もとい圧迫面接が始まって。

 そこで胆力が養われたと言っても過言ではないだろう。


 そんで、レベル100になって明るみになったのがこの『オート地植え』とかいう害悪だ。

 見つけ次第速攻OFFにしたよな。

 それからシラを切り続けてるが罪状は増える一方だった。


 そんで今レベル500。

 何か厄介な見落としがないのか入念にチェックしてるが、いまだに何も見えてこない。


 俺の宿命はどうもレベルアップが爆速な代わり、成長が大器晩成型っぽいんだよな。

 いや、レベルは上がるに越したことないんだけどさ。

 上がるのはミントの繁殖力だけで、俺に一切の恩恵がないから困ってるわけで。


 金はもらったが、俺にはそれを活かすコネがない。

 冒険者になるのも手だが、問題はそれを活かすステータスも備わってないんだよな。

 でもワンチャン狙ってギルドに訪問した。


 場所は頭に入ってる。

 親友達と何度も訪問したしな。

 ただしお付きとして。

 向こうは俺が戦えるだなんて微塵も思っていないことだろう。


「たのもー」

「あらいらっしゃい。今日は王様のお使いかな?」

「あ、いや。冒険者になれないかなって」

「ボクが?」

「誰が豆粒ドチビか! それとこれでも成人してるから! 大人だから!」


 この世界の成人は、15歳から。

 ちびっこくても17歳の俺はもう大人!

 そこんとこよろしく!


「でもねぇ、あなたには特に注意が必要というお達しが来ていて」

「お達し?」


 なんだ? もうとっくに追放するのは決まっていて、俺にそんな選択肢はない、即刻でていけ! とかそういう系の?


「ええ。勇者様と親しい間柄というじゃない? そんな方に危ない仕事を任せられないわ。もし問題があった場合、私たちが罰せられちゃうもの」

「あー」


 違った。過保護案件の方だった。

 親友達は昔から俺に過保護だった。

 その有効期限が早まったのは確実に宿命のおかげ。

 あと10年は持つと思ったのが、ついさっき切れた。

 そんな感じだ。


「じゃあ、皿洗いで」

「それくらいなら案内できるわね、ついでにライセンスも作っておく?」

「お願い」


 俺はアルバイトを始める都合上、冒険者ライセンスを手に入れた。これをバイト先に提示するだけで会話がスムーズに済むのだそうだ。

 求人センターかな?

 まぁ似たようなもんか。


 ついでにお金も預けておく。

 バイトするのに大金持ち歩いててもカッコつかないじゃん。

 だから預けてもらえるか聞いたらオッケーくれた。

 本当はCランクになってからの特典だけど、勇者の友達だからって。

 持つべきものはやっぱり友達だよな。

 王国を出る前に寄って良かったぜ。

 これ、国外で勇者の友達特約つかなかったら涙目どころじゃ済まないやつだよな?


 それはそれとして。

 ギルドが銀行の真似事を始めたのは、あまりにも治安が悪くて、中堅冒険者が駆け出しから脅して奪うのが横行したから。

 だからギルドが矢面に立ち、そんな冒険者には一切仕事を回しませんとしたことで信用を勝ち取ったらしい。

 それなら俺も安心だよな、と全額投入。

 バイト代も全部そこに入るそうだ。

 いよいよライセンスが手放せなくなってきたな。


「たのもー」


 俺は新たな職場に躍り出た。

 大量のミントと共に!


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