「今日からお前がこの便利屋の社長じゃ!」
それは冒険者だった少年にとって思いもしない言葉だった。
なぜなら、つい先ほどまで居場所を失い、途方に暮れていたためである。
しかし、ツノが生えた赤髪の少女はそんなこと知ってか知らずか、便利屋のトップになった少年を祝福していた。
「え、えっと、ありがとうございます……」
「なんじゃ? 不服か? 仕方ない、これは奥の手として取っていたが我が丹精込めて作ったショートケーキをご馳走してやろう! 何、遠慮はするな。今が旬の赤く熟れたイチゴをたっぷりあしらってやった美味しいケーキじゃ!」
「いえ、その、なんというか……さっきまで感じてた絶望感がなんだか嘘のように思えちゃって」
「何を言っておる。お前は我に認められたのじゃ。もっと自信を持って胸を張らんか。そもそも、お前の力を見抜けぬ奴らはバカじゃから気にするな」
「ま、魔王様っっっ!」
少年は少女から嬉しい言葉を受け、ついつい目に涙を浮かべてしまった。
魔王と呼ばれた少女はというと、そんな涙もろい少年を見て満足そうにうんうんと頷く。
その姿は小さいながらも、少年を温かく見守る母親のようだった。
「キュピーッ」
少年が嬉しさのあまりに泣きそうになっていると一体のスライムが声を上げる。
プルプルと身体を震わせ、便利屋の社長となった少年を祝福するかのようにポヨンポヨンと飛び跳ねた。
少年はそんなスライムを見て「ありがとう」と嬉しそうに笑いながら感謝の気持ちを言葉にする。
そんな言葉をもらったスライムは少年の肩へ飛び乗り、その頬をひんやりとした身体でスリスリとこすりつけた。
「ハハハッ、すっかり懐いておるな。ジャックよ、あとでそやつに名を与えてみよ。きっと喜んで大いに力を貸してくれるぞ」
「そ、そうですか? じゃあ、いい名前を考えてみますねっ」
「キュピーッッッ」
少年、いやジャックは幸せそうに笑う。
そんな少年を見て、魔王と呼ばれた少女とスライムも笑った。
つい先ほどまで考えられなかった光景が、そこにある。
パーティー追放され、明日の生活すらも考えられなかったはずのジャックだったが今ではそんなことすっかり忘れてしまうほど幸せだった。
冒険者ジャック――かつて所属していたパーティーからは気味悪がられていた少年は新たな一歩を踏み出す。
だが、こうなるまでにはちょっとした時間が必要だった。
ジャックがこうして便利屋の社長になるには、今から一週間ほど前まで時間を遡ることになる。
落ちこぼれと呼ばれ、仲間から蔑まされていた少年。
だが、その運命は一人の少女――いや、魔王に出会ったことで変わる。
これはジャックが魔王に運命の出会いを果たし、新たな一歩を踏み出した記録だ――