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追放賢者のダンジョン再建記 ~妹を救うために最強のダンジョンマスターとなる~
追放賢者のダンジョン再建記 ~妹を救うために最強のダンジョンマスターとなる~
河東むく
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年03月13日
公開日
4,145字
連載中
若くして賢者の称号を手に入れ、王立魔法研究所で輝かしい未来を約束されていたアッシュ。しかし、彼が情熱を注いできた魔力増幅技術が「危険」とみなされ、研究所を追放されてしまう。アッシュを支えていたのは、魔力欠乏症に苦しむ妹の存在だった。妹を救うには、禁じられた研究を続けるしかない。 そんな時、森の奥にひっそりと佇む古びたダンジョンで、アッシュはダンジョンコアのクリスティと出会う。クリスティは、彼にダンジョンマスターとなることを提案する――それは、ダンジョンを築き、訪れる冒険者たちから魔力を奪う役割だった。アッシュは妹を救うため、その道を選び、魔力増幅技術の完成に全てを懸ける決意を固める。 ダンジョンに挑む人間や魔物を次々と打ち倒し、アッシュは冷酷なまでに強さを極めていく。やがてアッシュは、最強のダンジョンマスターとして名を馳せる存在となる。 それもすべては、妹を救うため。 アッシュは外道へと落ちていく。

001 王立魔法研究所を追放され、ダンジョンマスターとなる

「アッシュ君。きみの研究は素晴らしいな。いや……素晴らしすぎる」


 王立魔法研究所の所長室。

 所長は高級な椅子に座り、俺の研究レポートを見ていた。

 新発明した『魔力増幅技術』の試験成功を報告したレポートだ。


「……ありがとうございます」


 俺はコミュ障なので、そう返事をするのが精一杯だった。


「素晴らしすぎるんだよ」


 所長は、ぽん、とレポートを机の上に投げ捨てる。


「所長……どういうことですか」俺の声は震えていた。


「きみの研究は素晴らしすぎる。危険だ。悪用されれば、世界を滅ぼすような力にもなりかねない。残念だが、魔力増幅技術の研究は凍結することに決定した。そして、きみには研究所を辞めてもらう」



「そんな……。所長も知っていると思いますが、俺には魔力欠乏症の妹がいます。そのためにも、魔力増幅技術は完成させなければならないんです」


 妹のルゥナは生まれたときから病弱だった。

 診断は魔力欠乏症。

 定期的に魔力を補給しないと、生きていけない体なのだ。

 妹はほとんどの時間を寝たきりで過ごしている。


「マナ・クリスタルから得られる魔力ポーションがなければ、妹は長くは生きられません。どうか、研究をつづけさせてください」


 マナ・クリスタルは強力な魔力を持つ魔力結晶体だ。

 当然、一般家庭で揃えられるようなものではない。

 研究所にひとつしかないクリスタルを借りて、俺は研究をしていた。

 その副産物として得られるポーションで、妹の寿命を伸ばしていたのだ。


「……残念だが、もう決まったことだ。妹と一緒に、田舎に帰って静かに暮らせ。魔術の教師でもすると良い。それがきみの人生だ」


 王立魔法研究所を追放された。

 長年、心血を注いできた研究が、全て無駄になった瞬間だった。


 俺は、力なく所長室を後にした。

 廊下ですれ違う同僚たちが、俺を見て何か囁いている。


「おい、聞いたか? アッシュの研究、没収されたらしいぞ」

「当然だ。あんな危険なもの、世に出せるわけがない」

「才能があるからって、調子に乗ってるからだ」

「天才だから、ひとりでなんでもできると思ってたんだろうけどな」


 違う。俺はただ、ルゥナを救いたかっただけなのに。

 胸が締め付けられるような痛みを感じながら、俺は研究所を後にした。


 家には帰れない。

 ルゥナに合わせる顔がない。


 ふらふらと目的もなくさまよう。

 街を出て、森へ。


 ひとりになりたいときは、よく森へ来たものだった。


 ぼんやりと歩いていると、ふと、大きな洞窟を発見した。

 古いダンジョンの入口のようだ。


 吸い込まれるように、ダンジョンのなかへ足を踏み入れる。

 薄暗い通路を、どこへ進むでもなく歩いていった。


「アッシュ様。ようこそ、いらっしゃいました」


 声のする方へ進むと、部屋があった。

 部屋の中央には、淡く光る巨大な水晶。

 その水晶は、まるで意思を持っているかのように明滅を繰り返している。


「……誰だ? なぜ俺の名前を知っている?」


「私は、このダンジョンのコアです。あなたのことは、森でたまに見かけておりました。王立魔法研究所の魔術師様ですよね。強力な魔力の持ち主であることを感知しています」


「いまは無職だがな」ついさっきクビになったところだ。


「あなたにお願いがあるのです。このダンジョンのマスターとなっていただけませんか?」


 俺は驚いて何も言えなかった。


「私は、長い間、ここで一人ぼっちでした。朽ち果て、忘れ去られた古いダンジョンです。森でひとり散歩をしているあなたを見て、この人に、身を捧げたいと考えていました。どうか、マスターとなっていただけませんか?」


 ダンジョンコアの声は、優しく、どこか懇願するような響きを帯びていた。


 俺はダンジョンコアに手を触れた。


「ひゃんっ!」と艷やかな声を出す。「急に変なところに触らないでください! エッチ!」


「……変なところと言われてもな」


 ただのクリスタルだぞ。


 クリスタルは、ひんやりと冷たかった。

 いまは魔力を失っているようだが、大量の魔力を貯めることができるようだ。

 マナ・クリスタルと構造が似ている。

 もしかしたら、このコアの力を借りれば、魔力増幅技術の研究を進めることができるかもしれない。


 俺の胸の奥底で、希望の光が再び灯るのを感じた。


「……俺はコミュ障だ。うまく人と話せない」


「大丈夫ですよ。いま、私と話せてるじゃないですか。あなたの美しい心が、クリスタルを通じて、私に伝わってきています」


 クリスタルは、嬉しそうに点滅をする。


「わかった。俺で良ければ、やってみる」


「ありがとうございます! 本当に嬉しいです!」


 もっともっと嬉しそうに点滅をした。

 まるで尻尾を振っているかのようだ。


 こうして、コミュ障賢者と孤独なダンジョンコアの、奇妙な共同生活が始まった。

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