絶望のあまりサムエルは膝から崩れ落ちてしまう。
テレサも隣でサムエルに肩を貸せないほどショックを受けていた。
「お? もう帰って来たのかぁ?」
そのタイミングである男が現れる。
それは以前捕まえたはずの敵ビヨンドだった。
「な、お前……」
一同は更に絶望する。
特にサムエルは彼が逃がされたという事実を聞いていたためより絶望が深かった。
「おいシャギ、コイツら早くねぇか?」
炎で暖をとっていたビヨンドが逃がされた敵ビヨンドの事をシャギと呼ぶ。
そのシャギは頭を掻きながら少し不機嫌そうに答えた。
「知らねぇよ、レクスは下っ端には何も教えてくんねぇんだからよぉ。まさかこのタイミングで脱獄だなんて…….」
ビヨンドの男はシャギにある話を持ちかける。
マイク達は無視しているようだった。
「どうすんだよ、コイツら居ねぇって言うから侵略したんだぞ。報酬は片してからだ」
そう言ってマイク達を指差す。
シャギが何か報酬を得るために情報を流したらしい。
ビヨンドの男はそう言いながら燃え盛る炎で煙草に火を点けた。
「はぁぁ……じゃあ頼むぜ?」
シャギが目で何かの合図をする。
マイク達は置いてけぼりでどんどん話が進んで行く。
「わぁったよ……ほれ」
そしてビヨンドが動き出す。
次の瞬間、マイクは背後から羽交い締めにされてしまった。
「ぐっ……⁈」
「コイツがエレメント使えねぇのは知ってんだ、じゃあ……やれ」
そのままマイクを人質に取るような形でシャギともう一人のビヨンドがサムエルを攻撃して行く。
「ぐぁっ……」
シャギはエレメントをラッシュで繰り出して行きサムエルを追い詰める。
しかしサムエルは反撃できない。
「ひゃはっ! 反撃したらどうなるかなぁ⁈」
もう一人のビヨンドがマイクの首を強く絞めた。
「クソッ、マイク……!」
倒れてしまうサムエル。
するとシャギは近くにいたテレサに気づいた。
「お、コイツぁ特別な女じゃねぇか」
そう言ってテレサに手を伸ばす。
「俺がコイツを手に入れれば……!」
マイクは絶望して動けないテレサを見て悶える。
このままでは彼女も危ない。
「テレサっ……!」
一度冷静になりながら先程の事を思い出す。
自分はエレメントを出せた、その時の感覚をもう一度掴むのだ。
「ふぅ……」
翼のようなエレメントを展開し空を駆けていた。
ならばもう一度翼を。
「はぁっ!」
次の瞬間、マイクの背中から先程の翼のようなエレメントが勢いよく飛び出した。
その影響でマイクを羽交い締めしていたビヨンドは思い切り吹き飛ばされてしまう。
「ぐふっ……⁈」
何が起こっているのか理解できぬまま彼は倒れる。
シャギもその光景を見て衝撃を受けていた。
「なっ、何でお前が……⁈」
驚いているシャギを今度は逆に置いてけぼりにしてやりマイクはサムエルに向かって叫んだ。
「俺は大丈夫だっ、サムエル!」
そしてサムエルはマイクに引導を渡され力強く頷いた、そのまま細い触手を沢山集め束にした。
太い一本の触手を思い切り振り回しシャギを攻撃する。
「おぉらぁっ!」
「ぐぅっ⁈ またかよぉっ!」
再度この一行に敗れてしまう事にショックを受けるシャギ。
サムエルの触手がシャギのラッシュを掻い潜り凄まじい一撃を加えた。
「クソッ、クソがっ!」
そのまま敗走し逃げ出してしまうシャギ。
サムエルは追いかけようとするがシャギの逃げ足はとてつもなかった。
「クッ、逃したか……」
すると背後で物音が。
マイクの後ろで倒れていたもう1人のビヨンドが起き上がったのである。
「マイクっ!」
慌てて手を伸ばすがマイクに異変が。
「ぅがぁぁっ……」
なんとエレメントを制御できていないのか凄まじい力を放っていた。
その衝撃で敵のビヨンドも再度吹き飛ばされる。
「ぐっ……⁈」
「おらぁっ!」
その隙にサムエルは相手を貫き仕留めた。
慌ててマイクに駆け寄る。
その場には既にテレサもいた。
「マイクっ、大丈夫……⁈」
「ぐぅぅあっ……」
エレメントを制御できず苦しむマイク。
慌てたテレサは仕留めた敵ビヨンドの死体を弄った。
「あった!」
見つけたのは抑制剤。
急いでマイクに打ち込んだ。
「大丈夫っ⁈」
「あぁっ、何とか……」
一度に凄まじい威力のエレメントを出したマイク。
疲れ果てたのか彼はその場に倒れ込んでしまった。
「マイクっ?」
サムエルも駆け寄るがマイクは苦しそうにしているものの落ち着きを取り戻した。
「大丈夫だ、それより他のみんなは……⁈」
マイクの一言でハッとする一同。
確かにここにいるのはマイク、サムエル、テレサの三人。
他の三人が気がかりだ。
「探そう……!」
そのままマイクはサムエルの手を取り立ち上がり歩いて他の仲間を探しに行くのだった。
☆
『Purifine/ピュリファイン』
第4話 対立と救済
☆
マイク達は他の三人を探しエリア5内を走り回っていた。
するとすぐに同じ絶望を感じさせる息遣いが聞こえる。
「はぁっ、はぁ……」
ラミナ、ジーク、カイルは一緒にいた。
彼らの足下には他のビヨンドの死体が複数名分転がっている。
「無事かお前ら……?」
サムエルは恐る恐る問うが振り返る彼らの表情は明らかに絶望していた。
ラミナはマイクを見るや否や彼の胸ぐらに掴み掛かった。
「アンタが来てからめちゃくちゃっ……!」
「おいラミナっ!」
サムエルは静止しようとするが今ここでラミナを止める事は彼女に余計なストレスを与えてしまうと判断した。
「くっ、ごめん……ちょっとむしゃくしゃして……アンタのせいじゃないのは分かってる……」
すぐに冷静になったラミナは一度マイクに謝る。
しかしマイクは否定しなかった。
「いや、良いんだ……」
そんな中でジークが声を上げる。
彼も当然ながら絶望していた。
「本当にみんな死んだのかっ? エリア5はもうっ……?」
するとカイルも悔しそうに殺した死体の上に座りながら現実を呟いた。
「あぁ、もう無い」
「あぁぁそんなっ……!」
***
そのまま一同は集まり先程の炎へ向かう。
集落の家族であった者たちが燃える炎を眺めていた。
「っ……」
涙が出ても熱ですぐに乾いてしまう。
このまま自分たちにも炎が燃え移ってしまいそうであったが一同は全く動けなかった。
「覚えてる、エリア3の奴らだ」
ラミナが口を開く。
今ここを襲撃した奴らはエリア3のビヨンドらしい。
「前に襲撃してきた時に話してたの聞いた、向こうにも子供たちが居るから良い土地を得るんだって……」
どんどん声が震えて行くラミナ。
彼らも自分たちと同じ理由があるのだと悟ったのだ。
「でも……それなら何でここの子供たちまでっ」
ジークは奴らの行動の理由を考えてしまう。
するとカイルが口を開く。
「土地を手に入れるため先住者を殺す、死体は腐るから焼く。効率的だ」
確かに正論ではあるがあまりに残酷だ。
「それに復讐もあるんじゃないか……? 俺たちは返り討ちにした、今の奴らはその仲間だ……」
サムエルが核心を突くような言葉を述べる。
「俺たちはなるべく平和に過ごそうとこっちから攻める事は無かった、でも向こうから攻めて来た奴らは自衛のためにも殺した……」
そのサムエルの発言にラミナは嫌な予感がして尋ねてしまう。
「アンタ、何が言いたいの……?」
そして顔を上げたサムエルは恐ろしい事を口にした。
「こんなこと言いたくないけど……情けをかけてる余裕なんて無いのかもな、それでここの皆んな死んだしディランだって……っ!」
マイクもその言葉を聞いて牢獄でのカオス・レクスの発言を思い出す。
彼は主張を押し通す戦いだと言っていた。
「じゃあどうするの、敵を皆殺しにする訳? そんなのレクスと変わんないじゃない……!」
ラミナは苦しそうに言うが誰もその発言を否定できない、それほどまでに追い詰められてしまっていた。
「っ……」
自分たちが憎しみを覚えていたからこそ被害者側の苦しみが分かる、しかしそれも仕方のない事だとしたら。
これまで憎んでいた対象のように自分たちもなろうとしていると言うのか。
「いや違う……」
そこでマイクが口を開く。
自分なりに気付いた事があるのだ。
「何かあるの……?」
絶望した表情を浮かべながらラミナが何の期待もせずにマイクに問う。
マイクはその時、ある人物を思い浮かべていた。
「この惨状を伝えるんだ、外に訴えて俺たちの生きづらさを知ってもらうんだよ……!」
その発言に一同は驚愕してしまう。
ラミナは呆れながら歯を食いしばる。
「この後に及んでまだそんなこと言うの⁈ それに俺たちって……!」
発言と提案を否定するラミナ。
しかしマイクも反発した。
「だってもう他に無いだろ? カオス・レクスと違って平和にするならそれしか無い……!」
確かにマイクの言う事は最もだった。
平和的解決を望むエリア5の在り方として今出来る事はそれしか無かった。
「〜っ」
必死に考える一同。
本当にそれが正しい行動なのか。
特にサムエルは苦しんでいる、リーダーである自分の不甲斐なさに苦しめられているのだ。
「ラミナ、もうそれしか無い……」
「サムエルまで……!」
サムエルの他にもカイルやジークも頷き始める。
その事実にラミナも頷くしか無かった。
「もう、仕方ないな……」
しかしジークは疑問に思う事がある。
方針に納得はしているもののそこだけが引っ掛かっていた。
「ねぇマイク、伝えるって言ってもさ。人間たちが話に応じてくれるとは思えないんだ、そこはどうするつもりなの?」
それは最もな疑問だろう。
しかしマイクには秘策があった。
「実はさ、さっき見つけたんだ」
そう言って取り出したのは自前の古い型のスマホ。
エリア5に戻ってきた後に建物の中に置いてあったのを回収したのだ。
「連絡手段か?」
「そう、ここに俺の友達の連絡先が入ってる……!」
スマホを操作していくマイク。
少ない連絡先フォルダの中で目に止まったある人物の名前。
「コイツなら、頼れるかもしれない……!」
そこに映された名前、それはアレックスのものだった。
つい先ほど、ピュリファイン本部から脱出した瞬間にアレックスと一瞬だけ会った時を思い出す。
彼は憐れむような表情を浮かべていた、だからこそ賭けるのだ。
TO BE CONTINUED……