議事堂前には人集りが。
記者やその他の野次馬たちで溢れかえっていた。
「ビヨンド反対、難民反対! 苦しむ市民に目を向けろ!」
そして上空を通過するある存在に人々は気付く。
ピュリファインが利用する護送用のヘリが飛んでいるのだ。
それに乗っている存在、人々はすぐに察した。
「き、来たぞ……!」
そのまま議事堂の屋上にあるヘリポートに着陸する。
扉が開き降りて来たのは予想通りの人物たちだった。
「ビヨンド……!」
警備員の一人がその姿を見て呟く。
彼の言葉の通り、話を持ちかけて来たビヨンド達が本当にここにやって来たのだった。
全員がガスマスクを身につけ黒に赤のラインが入ったローブのようなものを羽織っている。
「消えろ! 出ていけ!」
議事堂前から放たれる罵詈雑言はここまで届いていた。
サムエルは歯を食いしばるがマイクが静止した。
「っ……!」
「今は我慢だ、ここを乗り越えなきゃ……!」
そのまま彼らは政府の案内人に挨拶をされた。
「どうもビヨンドの皆さん、くれぐれも怪しい動きはしないように。疑いがかかった瞬間に発砲する許可は出ています」
「もちろん、覚悟の上です……っ」
マイクは少し強がりながらも言う。
そんな目的を強く持ち一同を引っ張る彼の背中をテレサ達は見ていた。
「抑制剤を打たせて頂きます。ピュリファインの方々にも武装をして頂く事をご了承ください」
こうして彼らは全員体を差し出し抑制剤を打たれる。
「うっ……」
その際、テイルゲートの力を失ったテレサが以前のマイクと同様に苦しみ始めた。
しかし自らの経験で体調を崩すだけと理解していたマイクは彼女を励ます。
「少しの間、我慢してくれ。今後のためなんだ……」
テレサは憐れむマイクの表情を見て少し微笑んだ。
「ふふ、見違えたね」
「言ってそんな時間経ってないだろ」
そして彼らは銃口を突きつけられ報道陣のカメラを向けられながら話し相手の待つ部屋へ向かう。
「人を殺した感覚は⁈」
「許されるとお思いですか⁈」
マスコミの心無い質問にはなるべく答えず開く扉の先を見る。
そこは広い会議室で中央に市長、端の方にアレックス達ピュリファインの姿があった。
「マイク……っ」
アレックスはビヨンド達の扱いに歯を食いしばりながらも必死に堪えた。
☆
ピュリファイン陣営、ビヨンド陣営は互いに向かい合いながら座った。
その間を取り持つかのように市長を始めとした政府の一同が座っている。
「っ……」
緊張感が一帯に走る。
マイクの手は少し震えていた。
「マイク……」
テレサはそれに気付くと彼の肩に手を置く。
その温もりを感じたマイクは少し震えが収まっていた。
「ありがとな」
テレサにそれだけ告げてからマイクは前を向き、敵である者たちに向かい言葉を紡ぐ。
「本日はこのような機会を設けていただきありがとうございます……っ」
必死に考えた慣れない言葉遣いで話す。
彼を知る者たちはこの時点でどれだけ想っているかを確認できた。
「我々ビヨンドが陥っている状況、それらを共有し今後の在り方について共に話し合えたらと思っておりますっ」
アレックスはマイクが"我々ビヨンド"と発言した事に少し悲壮感を覚えていた。
どこか寂しげな表情にその気持ちが表れている。
しかしそんなマイクの言葉に表情一つ変えない市長はその場を仕切り始める。
「はいどうも。わざわざこちらまで出向いて頂き、覚悟は伝わってますよ」
ビヨンド達を酷く警戒している様子が伝わって来る。
「それで、そちらの状況とやらを教えて頂きたい」
「はいっ……」
マイクは必死に思考を巡らせる。
しっかり言う事は考えて来たが心のままの言葉である事を伝えるためあえて台本は用意しなかった。
少ない時間の中で纏めた内容を自身の言葉として口から放つ。
「我々に戦う意志はありません、侵略の意図なんてもってのほかです。自らの意志とは無関係に異世界から連れて来られたんです……!」
それは分かりきった事かも知れない。
しかし改めて基本から再確認する必要があると判断したのだ。
「しかしそちらは攻撃を開始した、ダスト・ショックという悲劇まで起こして。この世界にいる以上こちらのルールに合わせてもらわなければ平等に裁く事となる」
市長は反論を述べた。
それでもマイクは更に反論を行う。
「それは一部に過ぎません。争いを望まない平和的思想のビヨンドも大勢います……!」
そう言いながらマイクの脳裏にはエリア5のビヨンド達が燃え盛る姿が浮かぶ。
そんな彼らの姿を想いながらマイクは歯を食いしばった。
「その者たちが過激派に一方的に蹂躙される、それでも何の助けも得られない。それがビヨンドの現状です……!」
ケビン少年の苦しんだ果ての死に顔まで浮かんだ。
「我々が捕まっている間に無抵抗のビヨンドが女子供関係なく虐殺されたんですっ、こんな事があってはならない……!」
魂から訴えかけるマイクの様子にビヨンドの一同は関心していた。
しかし人間たちは表情を変えない。
まるで何とも思っていないかのように。
「マイクっ……」
その中でアレックスとリチャードだけがマイクに対し憐れむような様子を見せていた。
「ふーむ……」
そしてしばらくの沈黙の後、市長が口を開く。
「平和的思想と仰いましたがサテライトエリアの某事務所を潰した件はどう説明するのです?」
ここで市長は話題を変えて来た。
確かに疑問に思うのは当然であるが。
「向こうから攻撃を仕掛けて来て……っ、仲間が攫われそうになったから理由を調べようと……!」
考えていた文言にない言葉を必死に紡ぐ。
しかし人間側にはそれが図星を突かれて焦っているように見えたらしい。
「それであの惨状ですか、やってる事は変わらないと思いますが」
「くっ……」
話を逸らし何としてもビヨンドを悪者にしようと企む市長の姿勢が窺える。
「結局あなた方はどうして欲しいんです? 現状を伝えられた所でその意図が読めなければ対話の意味がありません」
「俺っ、我々はビヨンドと人間の関係を……!」
「支援を増長して欲しいという話ならば聞き入れられませんよ」
キッパリと市長はマイクの意思を否定する。
「元より人間からビヨンドに変化したという貴方の真相を確かめ適切な対処を行うために開かれた対話です、それ以外の話をするつもりはありませんよ」
マイクは焦りを覚えて助けを求めるようにアレックスの方を見る。
しかし当のアレックスは驚いたような表情を浮かべるばかり。
「その通り、俺は人間からビヨンドになった……だからこそ色々分かった事があるんですっ! それを伝えなきゃ……」
「それが本当かどうかも怪しく見えます。一度ピュリファイン本部で精密検査を行う必要がありそうですね」
マイクの言葉を遮るように市長はピュリファインであるアレックス達とそこにいる研究者たちに視線を向けた。
「了解です市長」
市長の護衛をしているピュリファイン下っ端の兵士たちが動き出しマイクを始めとしたビヨンド達を囲う。
その手には機関銃が握られており銃口をしっかりと向けていた。
「なっ、何を……⁈」
突然銃口を向けられたマイクたちは驚愕した以上にショックだった。
マイクは慌ててアレックスの方を見るが当のアレックスも焦っているような様子だった。
「え……⁈」
しかしマイクにとってその反応は感じられない。
アレックスへの信頼がここで揺らいでしまった。
「アレックス、どういう事だ⁈」
追い詰められた表情でアレックスを見るマイクだったがすぐに兵士に押さえ付けられてしまう。
「話は終わりです」
そんなマイク達に市長が語り出す。
「確かに手を取り合えればそれが最もでしょう、しかし今の我々にはそのような余裕がありません。それはあなた方も同じはず」
少しずつマイク達に迫りまるで見下すような姿勢で説明をして行った。
「リスクは冒せないんですよ。何よりも大切なアストラル市民のため我々は彼らに誠意を見せる事を選びます」
両手を大きく広げ見物に来ているメディア達に宣言する。
「市民の不安を煽り暴動を起こすきっかけを作ったビヨンドの一味を逮捕し然るべき罰を与えましょう! これだけで解決するとは思えませんがせめてもの誠意の現れと受け取って頂きたい!」
そう言った市長の合図によりマイクたち全員が兵士たちに捕らえられる。
マイクは連行される最中アレックスに大声を浴びせた。
「こんな騙すような仕打ちっ! 何でだよ!」
「お、俺は何も……!」
実際のところアレックスもかなり焦ってはいるが市長と目が合ってしまう。
その時、市長はアレックスに向かい威圧的に微笑んだ。
「くっ……」
その結果マイクを擁護するような事が何も言えなくなってしまう。
それが更にマイクとの溝を深めてしまった。
「クソッ、クソッ!」
そのままマイクたち一行はピュリファインに捕らわれ廊下を歩かされるのだった。
☆
廊下を歩いている間、先程の記者たちはマイク達に寄ってくる。
ボイスレコーダーを向けて今回の結果について質問を行っていく。
「今回の結果に不満は⁈」
「こうなる事は明白でしたが⁈」
マイク達の心境も考えずに心無い質問を繰り返す。
連行されながらもマイク達はビヨンドのこの世での扱いについて絶望していた。
「〜っ」
マイクの脳裏にはかつて牢屋で行われたカオス・レクスとの会話が浮かんでいた。
『これは戦いだ。どちらかの主張を押し通す、な』
まさに今、それが体現されようとしている。
一方に対話の意思があろうとももう一方に無ければ攻撃が行われてしまう。
そこから守るために手を下せばそれはもう立派な戦いなのだ。
「こんな事、あって良い訳……っ」
そのように歯を食いしばっていると記者の中に紛れるようにとある一人の人物がマイクに声を掛ける。
その声には非常に聞き覚えがあった。
「ふふ、やはりこうなった」
その人物をよく見るとピュリファインの研究者であるアルフだった。
マイクは彼の顔に気付くなり血相を変える。
「え……?」
「レクスが言っていただろう、この世界は彼らのものだって」
人混みの中でこの場だけ時が止まったようにマイクとアルフが顔を見合わせる。
そして次の瞬間、多くのガラスの音が割れるような音が鳴り館内警報が響いた。
「なっ⁈」
ガラスの割れる音が聞こえてからというもの、周囲で爆発音のようなものも聞こえ出す。
「何だ⁈」
「まさか……!」
マイクは慌ててアルフの顔を見る。
すると当のアルフはニヤニヤと笑みを浮かべながらパニックになる人混みの中へと消えて行った。
「何か近付いて来る……」
ラミナが発言した。
その通りで廊下の奥から人々の悲鳴や鈍い音、鋭い音が聞こえて来る。
「……来るぞ!」
そしてその音の主は現れた。
思い切りマイク達の隣の壁を突き破り周囲の人々を吹き飛ばすという派手な登場をしてみせる。
「ひへへっ、言わんこっちゃねぇな」
マイクの目の前で彼は瓦礫に潰された記者の動けない体を踏みつける。
「お、お前……」
「俺が正しいって認める気になったか?」
その男、カオス・レクスはニヤリと笑いながら人間を踏み付けにしマイクを嘲笑っていた。
☆
絶望したマイクたち一行の前に現れたカオス・レクス。
地獄から這い出てきた悪魔のようであったが背後から光が差し天使のようにも見えた。
まさしく堕天使と言えるだろうか。
「人間どもは共存なんて望みはしねぇ、生き残るためなら全力で奪い取るしかねぇのさ」
するとその背後からピュリファインの下っ端兵士たちが隊列を組んでやって来る。
「カオス・レクスっ……! 両手を挙げろ!」
一斉に機関銃を構えるがその手は震えていた。
誰もがレクスの威圧感に恐れ慄いているのである。
「はぁ、見てろよ」
マイクに向かってそう言うとレクスは両手に巨大な爪のようなエレメントを宿らせる。
その鋭利な爪を見せつけるようにピュリファイン兵の方へ向き直った。
「これが"戦い"を受け入れて長い男のやり方だ!」
そのまま一気に兵士たちの隊列へ突っ込む。
余裕の笑みを浮かべていた。
「う、撃てぇぇー!」
慌てて機関銃から弾丸を放つ兵士たちだったがレクスはその弾丸を全て爪の一振りで消し飛ばす。
「フンッ」
「なっ……⁈」
そしてそのままの勢いでその場にいた兵士たちを一気に切り裂いた。
真っ赤な鮮血が飛び散り壁や地面を染め上げる。
「っ……!」
マイクはその様子を見て言葉を失っていた。
辺りが一瞬にして血の海と化した、その中心に自分に対しフレンドリーに接して来る者が立っている。
「……ちゃんと見たか?」
返り血を浴びた顔でまた笑みを浮かべながら問う。
しかしマイクはあまりの残酷さに眉を顰めるだけで何も答えなかった。
するとその無惨な状態を晒した現場へある影が現れる。
「おい、何やってんだ……?」
マイクにとっては聞き馴染みのある声。
それが震えながらこちらに向けられている。
「あ、まさか……」
恐る恐る振り返るマイク。
そこに立っていた存在、それは予想通りだった。
「アレックス……!」
悲しみと失望に満ちた表情を浮かべるアレックスは歯軋りをし、拳を震わせている。
そして更に震えた声でマイクに向かって問う。
「お前、最初からこうするつもりだったのか……?」
そう言いながらスーツの上着を脱いでいくアレックス。
胸の所に装着された四角い近未来的な機械が顔を覗かせた。
「俺は本当にお前を助けたいと思って……!」
そして警棒を手に取り胸の機械の中心にある"キューブ"状のエネルギー体に当てた。
その瞬間に外走る蒼白い光、それは警棒に纏わりついて行き一本の刀を創り出して行く。
その場に凄まじい緊張感が走った。
「お前を斬りたくない、大人しく着いて来てくれ……っ」
そのピュリファイン戦士に与えられる特殊な武器。
"キューブ"を手にアレックスはマイク達に向け戦闘態勢に入るのだった。
TO BE CONTINUED……