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#3

 サテライトエリアから出た三人はアストラルシティの総合病院に向かった。

 門の前に救急車を呼びアレックスを運ばせたのだ。


「おい大丈夫か?」


「うん、まだ痛むけど……」


 病室のベッドの上でアレックスは包帯を巻かれながら答えた。

 ニーナも隣でパソコンを弄りながらアレックスの様子を確かめている。


「でも何も情報は得られなかった……」


 それだけではない。

 何よりもマイクの母であるサラが何かを隠しているという様子が伺えた。

 それがショックであり深い闇を覗いたような気分になったのだ。


「ん……?」


 するとニーナが病室の机に置いてあるアレックスのスマホを見て驚きの表情を見せる。


「うわ……確かにサテライトエリアでの収穫は見込めなかったけどたった今とんでもない収穫があったよ」


 そのリアクションに驚く一同。

 ニーナはアレックスにスマホの画面を見せた。


「え、マジかよ……」


 アレックスも驚く。

 そこに書かれてあった内容とは。



『話がしたい。ここに来れるか?』



 なんとマイクからのメッセージだった。

 位置情報まで送られて来ている。


「本当にマイクなのか……⁈」


 リチャードも衝撃を受けて信じられないようだったがすぐにアレックスは言った。


「あぁ、これはマイクのアカウントだよ……いてっ」


 アレックスは慌ててベッドから起き上がろうとして痛みを覚える。

 リチャードが静止するがマイクは止まれなかった。


「おいあんま動くなっ」


「いやダメだよ、俺が行かないと……っ!」


 指定された場所に自ら向かおうとするアレックス。

 友人を想う気持ちを感じていた。


「大した怪我じゃないんだ。戦うのは厳しいかもだけど、これは"対話"だ……!」


 体の動きは必要ない、そう信じて立ち上がる。

 この数時間で既に歩けるほどには回復していた。


「俺行くよ。二人は念のため背後で待機しててくれ」


 息子の目を見たリチャードは力強く頷いた。


「分かった。念のため"キューブ"は装備しておこう、お前のも持っておく」


「ありがとう父さん」


 こうして三人はマイクに指定されたサテライトエリアの寂れた端の方へ向かうのだった。





 指定されたサテライトエリアの端。

 またこの日のうちにここに戻って来るとは思わなかったがアレックスはまた違う古い服を着て指定された場所へ向かった。


「っ……」


 アレックスは背後の物陰にリチャードとニーナが待機している事を確認しマイクを待った。

 そして数分後、彼はそこに現れる。


「……アレックス」


「マイクっ……」


 二人は数秒ほどお互いを見つめ合う。

 マイクの口元にガスマスクが身についているのを見て本当にビヨンドとしてのマイクを相手にしているのだと実感した。


 ***


 二人は近くのベンチに腰掛ける。

 周囲に誰も居ない事を確認して込み入った話をする。


「マイク、聞きたい事は山ほどあるけど……」


「あぁ、何でこうなったかだよな……悪いけど俺もよく分かってない」


 それでもビヨンドと化してしまった時の状況などは詳しく説明していくマイク。


「バイトって言われて汚染区域に入って……ビヨンドに襲われてマスクが外れたんだ、そしたら……」


 そこまで話して思い出す。

 ここからはテレサが関係している、友人とはいえピュリファイン話して良いのだろうか。


「っ……」


「どうしたマイク……?」


 アレックスは心配そうな顔でマイクの顔を覗くがその真意を今は悟られる訳にはいかない。


「いや、俺も正直よく分かってないんだ……」


 少し沈黙が訪れる。

 マイクとアレックスの関係性でここまでの雰囲気になってしまうほど状況は過酷だった。

 アレックスはそこで心配していた事を口に出す。


「それでお前自身は大丈夫なのか? ビヨンドの世界にいてよく無事だった、無事とは言えないかもだけど……」


 その発言はまるでビヨンドを危険視しているようなものだった。

 仕方ないだろう、彼はまだ何も知らないのだか。

 そこでマイクは口を開きある提案をした。


「なぁアレックス、ピュリファインを通して世間と話がしたい」


「え……?」


「まだ数日だけど……ビヨンドとして生きてみて思った事が色々ある、それを伝えたいんだ」


 更なる沈黙が訪れ木枯らしの音がハッキリと聞こえた。

 アレックスもマイクの発言に少し納得した。


「……そうだな、世間に状況を訴えかける事で保護してもらえたりするかも知れない」


 そしてアレックスは立ち上がりマイクに伝える。


「じゃあ上に話してみるよ、総司令もお前のこと気になってたからね」


 そしてスマホを取り出して見せる。


「経過は連絡するから」


「あぁ」


 こうして二人は一度別れる。

 お互いに逆方向に歩き去って行った。





 そのままアレックス達ピュリファインの戦士は総司令に連絡を取った。

 本部はとても集まれる状態ではないので政府が使用する議事堂に集まり市長たちも含めて話し合いをする事に。


「罠でしょう。ビヨンドが今更話をしたいなど、ましてや人間からビヨンドに変わった者がいると?」


 会議室で席を囲みながら政府の者たちがマイクの言葉を完全に否定している。

 しかしアレックスは友人を信じていた。


「しかしっ……!」


 想いを吐露しようとしたタイミングでノーマン総司令が静止した。

 彼もマイクに興味を持っていると言っていた。


「アレックス・ガルシア一等の家を調べさせて頂きました。以前捕らえたビヨンドと顔が一致する者の写真が数点見つかり、彼の証言には信憑性があります」


 市長相手にも恐れを見せず果敢に説明する。


「今一度調べてみる必要はあるかと。その対象から接触を図っているのですからこの機会は活かしましょう」


「うーむ……」


 少し考えた後、市長は総司令のアイコンタクトを受ける。

 その意味を遅れて理解した。


「……分かった、ではこちらで話し合いの場を用意しよう」


 市長の言葉でアレックス達は一度安堵の表情を浮かべるが総司令は少し複雑そうな表情を浮かべていた。


 ***


 会議が終わりその場から去ろうとする一同。

 その中で総司令は市長の方に近付いた。


「うむ」


 そして市長は総司令に耳を傾け小声で先程のアイコンタクトの確認を行う。


「テイル・ゲートは例の彼にある」


「やはりか……」


 総司令と市長のやり取り。

 それを側から見ている人物がいた。


「…………」


 それはピュリファインの研究者であるアルフだった。

 カオス・レクスと繋がりのある彼が総司令と市長のやり取りを鋭い目で見ていたのだ。





 その後、世間では驚くべきニュースが報じられた。

 アストラルシティではテレビやスマホ、サテライトエリアではラジオや通信速度の遅い古いスマホで皆がそのニュースを知る。


『先日収容所から脱走したビヨンドがピュリファインへ接触を図った模様です。これに応じピュリファインは例のビヨンドと対談を行うと宣言しました』


 当然の如く世間は騒ついた。

 先日脱走したビヨンドといえばサテライトエリアの流通を担う要となっていた事務所を潰し暴動を起こすきっかけを生んだ人物。

 そのような者の申し出を受けたピュリファインは酷くバッシングを受けた。


「何考えてんだクソッ!」


 まだ修復作業中の本部にデモ隊が押し寄せゴミや卵を投げつけて来る始末。

 ニュース映像を議事堂で見ていたアレックス達は覚悟はしていたが少し恐れてしまっていた。


「覚悟はしてたけどここまで……っ」


 これから対談ではあるが万が一のために戦闘服を身に付けている。

 ビヨンド相手に立場を分からせるためらしい。


「それだけ無謀な事をやろうとしてるんだな俺たち」


 リチャードはあくまでマイクを信用しているためアレックスの味方であるがニーナはまだ葛藤していた。


「でも本当に人間がビヨンドに? 何度も聞いた私でもまだ信じられてないんだから世間の反応は当然ですよ……」


 溜息を吐きながら世間のこれまでにないバッシングを浴びて憂鬱な気分になっていた。


「はぁ、何でこんな事……」


 明らかに不本意な態度を見せるニーナにリチャードは彼女自身の戦う理由を問う。


「お前がピュリファインになったの、家族が関係してるんだっけか」


「そうです。兄弟が多くていつも優秀な方と比べられて来て……何とか家族に誇れるようにと思ってやっとの思いでピュリファインになったのに……」


「このままじゃ家族に誇れないか?」


「……っ」


 沈黙で答えるニーナに対しリチャードは隊長として言葉を連ねる。


「まぁ今は手探りの時間だ、そんな急いでも正しい答えは見つからない」


「はい……」


「でもまぁ、家族に誇れても自分に誇れてなきゃ意味がない。正直まだこの仕事にしっくり来てないんだろ」


「う、そうですね……」


 図星を突かれたニーナは少し苦笑いを浮かべた。

 一方でリチャードは優しく微笑んでいる。


「とりあえず今は世間のためを想って動いてるんだ、そうすりゃそのうち見つかるさ」


「ひゃぁっ⁈」


 ニーナの背中を強く叩いたリチャード。

 そのまま立ち上がり時間を確認する。


「よし、そろそろ対談の時間だな」


 そのまま彼らは歩みを進めて行く。

 前を行くアレックスとリチャードの背中をニーナは見つめていた。


 ***


 一方でアストラルシティのとある汚染された地区ではカオス・レクスとその一行が廃墟に潜んでいた。

 ラジオからニュースを聞いている。

 その際にレクスは誰かと電話をしているようだった。


「チッ、やっぱりな。ノーマンの野郎め堂々とやるつもりか」


 そしてレクスは電話相手と自身がどう動くかの話し合いをしていた。


「あぁ、そこは俺らに任せな。丁度市長を攻めるいい機会を伺ってたんだ」


 ニヤニヤと笑いながらレクスは電話を切る。

 そして背後にいる自身の手下たちに報告をした。


「よぉお前ら、久々に俺の下で大暴れだ!」


「おぉ!」


 部下の一同は嬉しそうに声を出し拳を突き上げた。

 その中で一人、まだ慣れないのかあまり元気の無さそうな者がいる。


「…………」


 その男はツンツンとした茶髪をしており一同から少し離れて部屋の隅を見ていた。


「お前元気ねぇな、確か俺の下で戦うのは初めてだったか」


 その男に向けてレクスは話しかける。

 そして士気を上げるためにある事を口にした。


「お前の兄貴にも教えてやろうぜ、甘ったれたようじゃ生きていけないってな」


 そして彼の名を静かに呟いた。


「なぁ、ディランよぉ?」


 ディランと呼ばれた男は髪色や髪質、そして瞳の色や顔立ちなどがサムエルとよく似ていた。






TO BE CONTINUED……

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