「アタッカーですよね?」
「はい。剣を」
「もしかして、タンクもできますか?」
「昔はしておりました」
「アタッカーでありタンクだなんて、恵まれた体とセンスですね。魔法などは?」
「植物系と、水と、風と、回復が」
「回復も! まさに戦う者として定められたかのような属性です」
「ひゃぁぁ」
そんなに褒めないで! 慣れてなくて恥ずかしいのぉ。
だが、このやりとりを見ていたアーベルはどこか不機嫌な顔をした。
「彼は後方です」
「ご冗談を、ご主人様。これだけ恵まれたアタッカーを前線に置かないというのは愚行です。敵を屠りながら壁も出来るなんて、最強の人材です」
「彼は俺の婚約者ですよ」
「ここに来た時点で配備に組み込まれるのはおわかりですよね?」
なんか、二人が睨み合ったままバチバチし始める。ハインツは焦ってオロオロしてしまった。仲間割れなんて、これから戦いに出るのに!
「あっ、あの……喧嘩はダメです!」
(私の取り合いで喧嘩なんてしないでぇ!)
※可愛い子にだけ許されるセリフだぞ、それ。
だがこの声に二人はハッとして、次には大人しくなった。
「そうですよね。ハインツ様のご意見も聞かなければいけませんよね。ブランクもありますし」
少し前にオーク吊し上げて肉を毟り取ったばかりです。
「すみません、ハインツさん。貴方を危険な場所におきたくなくて」
この人の目にはどんなフィルターがかかっているのでしょう?
何にしても二人はハインツの意見を聞いてくれるらしい。これにハインツはほっとして、ちゃんとアーベルに向き直った。
「アーベルさんに心配して頂けて、とても嬉しいです。ですが私はずっとアタッカーをしておりましたので、そちらの方が心得ております。安心してください」
「ハインツさん」
これにリベラートは嬉しそうな顔で頷いている。が、次にアーベルはまたとんでもない事を言い出した。
「では、俺が前線に出ます」
「貴方後衛(魔法職)でしょうが!」
流石にツッコまざるを得なかったリベラートであった。
◇◆◇
その後、リベラートによって明日の編成が発表された。明日から五人一チームの編成で任務を遂行する。
先頭は攻撃力の高い編成でアタッカーが二名、魔法職が一名、回復が一名、タンクが一名。回復役が兎の獣人族で索敵も強く、アタッカー二名は足の速いネコ科の獣人なので連絡係も兼ねる。
ハインツは二番目。メンバーはアタッカーとしてハインツ、魔法職はアーベル、索敵と連絡係は弓兵のベルタ、回復は兎獣人のリアという女性だ。背が高く、顔立ちは幼顔で可愛らしい人だ。そしてアタッカー兼シーフとしてリベラートが付く事となった。
「ある意味この部隊がやられたら終わりですから」
と、酷く苦労の滲む様子で言ったリベラートの顔が忘れられない。
前線四部隊まではアタッカーが多く攻撃的に。後方二部隊は遠距離の得意な弓兵と回復が多い。おそらく前線離脱した者をここに運び込み治療をする、救護部隊を兼ねているのだろう。
翌朝、出発前にローゼンハイムのそれなりに戦えそうな騎士が二名きて、急遽ハインツ達の部隊に一名、後方に一名入る事となった。アーベル曰く「討伐後の報告人員」だそうだ。当人達もそれは否定せず、でも力の限り戦ってくれる事を約束してくれた。
そうしてまずは森の中を行く。目的の洞窟はもう少し先になるという。
徒歩での行軍だが皆問題ない。獣人は獣種によって得意な事は違ってくるが、皆一様に身体能力が高くスタミナもある。
むしろ人間がしっかりしないと。
先頭の部隊から一定距離を取って進んでいると、不意にリアがスッと手を上げて足を止めた。見れば前の部隊も足を止めている。
「どうしたんですか?」
「敵です。おそらくゴブリンアーチャーです」
それにハインツはドキリとして辺りを見回す。でも、ハインツにはそれらが見えなかった。
「あの、どの辺り……」
言っている間に先頭と後方の部隊がパッと散っていく。それから少しであちこちから奇声が上がった。ゴブリンの断末魔だ。
「こちらにも来ています」
「凍らせましょうか?」
「ご主人様の魔法は広範囲なので、味方の損害もあります。ベルタ」
「はいにゃ!」
元気よく手を上げた彼女が辺りを見回す。そしてニッと口の端を上げ、何故かハインツから距離を取った。
「ハインツ様、上げてにゃ!」
「! よし!」
瞬時に何をしたいのか理解したハインツは大きく足を開き腰を落として地固めをし、両手をしっかりと組んで前に低くして出した。
そこにベルタは助走を付けて走り込み、そのままの勢いで片足をハインツの組んだ手の真ん中についた。
その瞬間、真っ直ぐ上へとハインツはベルタを飛ばした。全身のバネと両腕の力の全部で飛ばされたベルタはグングンと数メートルは上空へと打ち上がっていく。そして頂点へと達した所で一瞬辺りを見回し、目にも止まらぬ速さで矢を放った。
「凄い!」
一気に三本の矢を放ったかと思えば高速連射。不安定だろう落下時も変わらぬ様子で射ている。何がって、これが全てヒットしていることだ。矢筒が空になると付いている魔石に触れる。すると自動的に同数の矢が補填されていく。その仕組みで彼女は二十は矢を放った。
が、軽量な彼女を渾身の力で上げてしまったのだ。
「わぁ! 危ない!」
こんな高さから落ちたら死んでしまう! オロオロするハインツは受けとめようとしたが、リベラートとアーベルの手で止められた。
まさか仲間がここで無惨に!
なんて思って思わず顔を手で覆ったハインツだが、彼女は猫の獣人である。空中で数回宙返りをして速度を殺し、目の前で綺麗に着地してみせた。
「うにゃぁ! 凄かったにゃ! 流石に着地したら足がピリピリしたにゃ」
「よかったぁぁ、ぺしゃんこじゃないぃ」
「もぉ、心配しすぎだにゃ」
思わず泣いたハインツの肩をバシバシ叩くベルタは楽しかったのか目をキラキラ輝かせている。そんな様子をリアが笑って見て、アーベルとリベラートは苦笑した。