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ダンス・オブ・バトルオジョウサマ③




 ◇ ◇ ◇




 デカい。


 デカすぎる。


 何様式だか何建築だかわからないがとにかくデカい、家とおぼしきアートな建造物。これは「家」じゃなくて「城」と言うのではないだろうか。


 そのモンスター級のサイズをほこる建物が小さく見えるほど、これまたバカに広いアートな庭園。ここでもビッグスーツの模擬もぎ戦が出来そうだ。何考えてるんだサッカーグラウンドじゃあるまいし。


 モッツァてい招待しょうたいされたレトリバーの三人の傭兵ようへい艦長かんちょうは、そんなことやあんなことを考えながら、眩暈めまいを覚えるほどその豪邸ごうていのスケールに圧倒されていた。正門から玄関までの距離のまあ長いこと。




「しかしまさかCEOのご令嬢れいじょうがビッグスーツ乗りとは……」


 ニッケルがこの文言をつぶやくのは本日三回目である。モッツァ家の屋敷に入った四人は、レイラと執事しつじのバジルの後に続く形で、廊下ろうかを歩く。


「何回言ってんのそれ。いやまあびっくりなんだけどね……しかもカリオは負けちゃうし。世の中にはすごい人いるもんだねー」


 リンコは好奇の眼差まなざしをレイラの背中に向ける。


「それなんだけどよ」


 カリオが口を開いた。


「あの人全力出してないと思う。多分」

「は!? マジで!?」


 ニッケルとリンコは思わず大きな声を出してしまう。レイラとバジル、艦長のカソックが振り向いたが笑って誤魔化ごまかす。カリオは小さな声で続けた。


「あくまでかんだけど。斬り結んでみた感触というか、底も天井もわかんねえ。パネェ」

うそだろおい」

「ひぇー……」


 三人は揃って好奇の眼差しをレイラの背中に向ける。





「ふふふ、やはり見られてますねお嬢様じょうさま


 バジルは小さく笑う。


「そこまでおかしいのかしら、わたくし


 小さな声で答えながらレイラは溜息ためいきをついた。


「おかしいのではなくおどろいてらしてるのですよ。しかしお嬢様より強そうな方を雇ったつもりでしたが、わたくし、いつもおそばにいるにも関わらず、お嬢様の実力を甘く見ていたようです」

「それなのですが」


 レイラは小さな声のまま続けた。


「あの方、全力は出してなくてよ。恐らく」

「なんと」


 バジルは驚いて目を丸くした。


「お嬢様に勝ちをゆずったと?」

「いえ、そういう感じではなかったのですよね……なんというか、ああ見えてお人好しなところがある方なのだと思いますわ」

「お人好し……」

「依頼人であり、敵ではなく、悪人でもなく、女性である私相手に遠慮えんりょがあったんだと思います。彼も無意識の内に」

「模擬戦であっても、お嬢様を傷つけたくなかったと」

「あくまで勘ですが。斬り結んでみた感触というか……そういうこともあったから、あの方達にお仕事をお願いしたいと思いましたの」




 しばらく廊下を進み、シンプルなデザインだが立派な両開き扉の前で止まる。バジルが扉を開けるとレイラがまず入り、レトリバーの面々はその後に続いた。


 地球での歴史・地理で言うところの、近世ヨーロッパのものに近い雰囲気の室内。ただ、複雑で華美な柄が占める面積はそう多くはなく、その点がかえって洗練された印象を入室者に与える。


 その部屋の中央、巨大な丸テーブルの周囲に全員が立つと、テーブルの中央から立体ホログラム映像が浮かび上がってきた。このデザインの部屋にはあまりにも似合わない機能である。


「これか今回のモンスタンクってのは」


 傭兵三人組は立体映像をまじまじと見る。


「モンスタンク『ボルキュバイン』。全長・全高およそ二百メートル、主兵装は小型ミサイルと大口径実体弾砲。無限軌道むげんきどうを採用しており走破性に優れ、戦車をそのまま巨大化させたモノと見てもらっても構わないかと」


 バジルは説明しながら、手元のタブレットを操作し、テーブルの上にさらにホログラム映像を追加していく。


「このボルキュバインと傭兵メロ・ユーバリを撃破し、ヨグトル家当主、ホエイ・ヨグトルを捕縛ほばくもしくは殺害する作戦にあなた方に参加して頂きたいのです」


 傭兵三人組は追加された立体映像をまじまじと見る。


 それなりに財力を持っていそうな身なりの男性の映像、ビッグスーツと別の男性の映像、アオキシティや他の街の紋章もんしょうが入った図、などだ。


「目標の一人、ホエイ・ヨグトルはサカモトシティ医療福祉いりょうふくし省の医薬局長。今、映像で出していますがかなりの不祥事ふしょうじを起こしています。このたびスズカ連合の理事会で懲戒免職ちょうかいめんしょく処分が決まったのですが、何をトチ狂ったのか、先日私設の軍隊を出して加盟都市のムラカミシティに襲撃しゅうげきを仕掛けてきまして」


(うへぇ、ホントにトチ狂ってるな……)


 傭兵達は文字として映し出されたホエイの不祥事の数々を読んでいく。かなりの数の汚職おしょくがずらりと並んでいるが、その中でも目を引くのは、必要な審査しんさを飛ばして医薬品を承認しょうにんしたことで発生した薬害事件だ。死者も出ている。


「まさか自分が地位を取られたからって、武力で無理やりにでも奪い返すつもりか? いたずらに死人だけ大量に出て自滅するだけだろ」

「正直頭がいい人間とは思えませぬが、悲しいかなそのスキャンダル男の保有する戦力に連合が手こずっている状態でして」


 あきれるニッケルの向かい側でバジルは説明を続ける。


「ケーワコグ共和国が内戦で倒れ、解放された都市などの集団が各々のやり方で統治とうちを進めている今において、十の都市が手を組み、スズカ連合として少しですが大きな枠組みを生み出せたのは大きい。連合内で協力し合えばより一層の繁栄と、対外的な強さを得られます。大陸内の他コミュニティ・略奪者の類は勿論もちろんのこと、今はまだ様子見を決め込んでいますが、いずれ手を出してくるであろう大陸外の国家などの勢力の事を考えると、今見えている内側の爆弾は出来るだけ排除しておきたいところです」


バジルの話に続いて、レイラが口を開いた。


「この男のおかげで連合内の平和は乱され、多くの人が命をうばわれ、傷つけられています。スズカ連合の他にも、大陸内で新たな秩序ちつじょを生もうとする動きがある中で、このような者を生かしてはおく理由はありませんわ」


る気マンマン!? 捕縛も選択肢に入ってなかったっけ!?)


 カリオ達は、氷のように冷たい声で言い放つレイラから放たれる殺気に、少しふるえた。




「で、ボルキュバインと並んで問題になってくるのはメロ・ユーバリか」


 ニッケルはビッグスーツの立体映像に目を移す。カリオとリンコもそれに続いた。


「名前知ってるなこいつ。どんな奴だっけ」

「ビッグスーツが持ってる武器、気になるな~。ドラムマガジンみたいなの付いてるけど、マシンガン? こっちはハンマー?」


 腰を落としてしゃがみ、テーブルの上に顔を出して立体映像を観察する三人。バジルはまた説明を始める。


「メロ・ユーバリ。今回ホエイに雇われるまでは、スズカ連合より北の地域で活動していた傭兵です。依頼達成率が高い一方、とにかく報酬第一で仕事を選ぶ傾向があり、それが混乱の元になったこともあるようですね。平和な街を盗賊から守っていると思えば次の日にはその盗賊に交じっておそってくるといったこともあったそうでして……」

めずらしい話というわけじゃないが、そういう立ち回りをする傭兵は、実際にはかせぎにくいし死にやすい。信用を失くして敵を作りやすいからな。それでも長生きしてるってことは、相当な実力者だろう。名前も広まってるし」


 ニッケルはビッグスーツの映像のとなりにある、メロ・ユーバリの顔の映像を見ながら話した。映像の顔は特徴とくちょう的なおかっぱヘアでやや童顔どうがんに見える。




 それから他のスズカ連合側の部隊の内容確認、襲撃しゅうげきの段取りの確認などを行い、モッツァ邸でのミーティングは終わった。


「ではまた明日の朝」

「アオキシティの地上港ちじょうこうでな。何かあったら連絡をくれ」


 レイラとカソックはお互いに頭を下げた。


「ぐえ……」


 傭兵の三人組はまだ豪邸に圧倒されている様子で、胃に来たのか腹を抑えながらカソックと共に艦に帰っていった。




「……メロ・ユーバリとあの方達は同じ傭兵なのですよね」

「どうかされましたか」


 レイラは帰っていくレトリバーのクルー達の背中を見つめていた。


「……いえ、大したことではありません。さて、今は明日の戦いに備えなくては」


 振り返り、屋敷の中へ戻っていくレイラにバジルも続いた。




(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ④へ続く)


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