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ダンス・オブ・バトルオジョウサマ④




 ◇ ◇ ◇




 日が昇って少し経った頃。




 サカモトシティから数キロメートル離れた草原。緑の草の絨毯じゅうたんに似つかわしくない、地下へと続く巨大な鉄扉てっぴが存在する。ホエイ・ヨグトルが保有する地下基地ちかきちへと続く入り口の一つだ。




「クソがァっ!」


 その基地内部、調度品ちょうどひんからシャンデリア、寝具に至るまで贅沢ぜいたくの限りを尽くしたような部屋で、ブロンドのショートヘアにカイゼルひげの男が、部下の言葉を聞いて声を荒げた。ホエイ・ヨグトルその人である。


 この基地に向かって、アオキシティ方面から進軍してくる地上艦九隻きゅうせきとらえたとの報告を受けたのだ。


「我々が足止めしている間、ホエイ様は避難ひなんを……」

「避難!? どこへだ! サカモトシティにも連合の他の連中にもねらわれ、もはやこの基地以外に当てがないんだぞ!」


 ホエイの剣幕けんまくに、部下はだまるより他はなかった。ムラカミシティに攻撃を仕掛けた一件は、逆にホエイ自身を追い詰めていた。医療福祉いりょうふくし省の医薬局長などという肩書かたがきうばわれただけならまだしも、今やホエイは犯罪者、それも賞金首に近い扱いだ。


 殺されるかろうに入れられるか。そんな立ち位置で出来ることなどほとんどない。敵対するものを殺して、うばう他には。悪あがきにしかならぬかもしれないと知ってても、それしかない。


「大人しく懲戒免職ちょうかいめんしょく処分を食らっておけば……いや、そうしてもいずれはブタ箱行きになっていたか……」




 苛立いらだちながら部屋をウロウロしているところへ別の部下がやってくる。


「ボルキュバイン、ビッグスーツ部隊出撃準備は出来てます。ホエイ様は避難……」

「私もボルキュバインへ乗るぞ!」


 ホエイは二人の部下に、怒りとあせりの色を帯びた声色で告げた。


「無礼な追手どもを殺し、その後で街でも盗賊のねぐらでもいい! どこか奪い取って立てこもる! いや、コネのあるマフィアか盗賊の下に入った方がいいか……とにかく! まずは奴らを殺す!」


 そこにはもう少し前まで栄華えいが謳歌おうかしていた権力者の姿はない。考えていることは追い詰められた自暴自棄じぼうじきの犯罪者のそれであった。




 その基地の格納庫、部下がホエイに報告した通り、ビッグスーツの部隊はいつでも動き出せる状態にあった。


「うーん、前金をもっともらっとけばよかったなぁ」


 ホエイの私設軍のビッグスーツをコックピットの中から眺めながら、おかっぱヘアーの少し童顔の男――メロ・ユーバリはあごを触る。


 格納庫内にサイレンが鳴りひびく。重ねて、出撃を告げる音声がひびき渡った。


「まあ元々、一戦キリがついたら抜ける契約けいやくではあるが……ヤバくなったらトンズラすることも考えとかなきゃな」


 メロ・ユーバリは脳波コントロールをオンにする。黄色いビッグスーツが反応し、上半身がほんの少しだけねるように動いた。




 ◇ ◇ ◇




 レーダーに巨大な影をとらえ、レトリバーのブリッジがざわつき始める。しらせはすぐに艦内、そして味方の地上艦へと伝わり、ビッグスーツ乗り達は次々と出撃準備を済ませる。


「レトリバーよりニッケル、リンコ、カリオ、発進準備よし」

「マルチーズよりレイラ、発進準備よし」


 ニッケルの通信にレイラが続く。




「見えたぞ!」


 ブリッジからの音声を受けて、ビッグスーツが次々と格納庫から飛び出す。各々、地上艦の甲板かんぱんや側面に取り付き、前方を注視する。


 地平線の向こうから「それ」が姿を現す。ボルキュバインだ。


 まだ対象まではかなりの距離があるはずだが、はっきりと視認できる。流石の巨体である。そして前日のミーティングで聞いた内容が本当であれば――


「レイラ嬢! もう相手の射程圏内しゃていけんないなんだな?」


 ニッケルが通信機に話しかけると同時に、リンコはビームスナイパーライフルを構える。


「ええ、間違いありません。お気をつけて」

「この距離からふところに入れってか、中々ハードだぜ!」


 苦笑するニッケル。並走する別の地上艦の上でスズカ連合兵のビッグスーツも銃を構える。




 遠方に見えるまだ小さなボルキュバインの影から、白い線状の煙が何本も伸びていく。ミサイル攻撃だ!




「対空機銃、フレア発射! 速度そのまま!」


 カソックが声を上げてブリッジクルーに指示を出す。


 ダダダダダ! シュシュシュ!


 上空から降り注ぐミサイルの雨に向けて、レトリバーを含むスズカ連合側の地上艦から防空射撃が行われる。同時に沢山の光の玉――フレアが上空に向かってかれる。


 ガァン!


 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 リンコがビームスナイパーライフル、ニッケルが浮遊砲台「チョーク」とビームライフルを使って防空射撃を行う。


 ボン! ボン! ボン!


 着弾することなく爆散していくミサイル。ニッケルとリンコはレトリバーの防空射撃と合わせて、順調にミサイルを迎撃していく。




 その隣、別の地上艦のクルー達に緊張が走る。落としきれなかった二発のミサイルが接近してきていた。


「マズいマズいマズいマズい!」


 その地上艦の上にいたビッグスーツ乗りが思わず身構えた時である。


 ブォン! ブォン!


 宙を舞う黒い影がミサイルを斬る。カリオだ。ミサイルはそのまま爆散する。


 レトリバーから隣の地上艦へ飛び移る形になったカリオは、着地を少し失敗し、ビッグスーツ乗りと軽くぶつかる。


「おっと、済まねえ」

「い、いや、ありがとう……!」




 地上艦「マルチーズ」の甲板。レイラが上空を見上げる。


 レイラは赤い弓状の大型武器を構える。彼女が乗る「アカトビ」の背丈と同じ程の長さの弓。それに彼女は、やや大きな矢じりを持つ矢をつがえる。


 ミサイルが飛ぶ上空をするど見据みすえ、弓のげんを引く。


 バシュゥ!


 矢が放たれる。一瞬の内にミサイルに接近したその時、大きな矢じりが突如とつじょ破裂はれつし、何かが飛び出す。


 パァン!


 飛び出したのは粒子をまとったいくつもの小さな弾丸! 多数の光る弾丸はそれぞれ近くのミサイルを捉え、それらに向かって軌道を変えて飛んでいく!


 ビビビビビビビビ!


 ボボボボボボボン!


 幾つもの光の線が空中を走り、その直後に爆音が鳴り響く!


 またたく間にマルチーズ上空のミサイルは全て爆散した。続く攻撃に備え、レイラは再び矢をつがえる。


(何アレすんごぉい! 私も欲しいっ!)


 一連の光景を横目で見ていたリンコは、目を丸くして心の中でそう叫んだ。




 ――ボルキュバインの射程圏内に入って二、三分程した頃。


「こちらのビッグスーツ全機、戦闘継続不能! 申し訳ありません、離脱します!」


 激しいミサイル攻撃にさらされ、ダメージを受けたスズカ連合の地上艦が一隻、また一隻と戦線を離脱していく。


 残った戦力はレトリバーとレイラの地上艦・マルチーズ、そしてスズカ連合の艦三隻の合計五隻。ビッグスーツは十六機。




じいや、マルチーズはここで一旦離脱を。ここからはビッグスーツで一気に距離を詰めます」

「お気をつけて、お嬢様」


 レイラはマルチーズの甲板から飛び出す。


「俺達も一気に飛び込むぞ。オヤジ、レトリバーを出来るだけボルキュバインから離してくれ」


 ニッケルの掛け声と共に、カリオ・ニッケル・リンコもレトリバーの甲板から飛び出した。


 さっきまで遠方に小さく見えていたボルキュバインは既に目の前。山と見紛みまごう程の巨大戦車がすぐそこにそびえ立っている。


 ビッグスーツ乗り達はその懐を目指して飛んで行った。




(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ⑤へ続く)

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