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ダンス・オブ・バトルオジョウサマ⑤





 デカい。


 デカすぎる。


 身の丈十メートル程のビッグスーツに対して二百メートル級のモンスタンク。その場にいれば理屈抜きで足がすくみかねない威容いようだ。


 ただ、一見して無謀むぼうにしか思えないこの戦いにおいて勝機がないわけではない。事実、先日レイラを含むスズカ連合の討伐隊はこれを一機撃破している。




「もうこんなに接近してきているのか!?」


 本体の大きさに比例して広い、ボルキュバインのブリッジでホエイはカメラ映像に食いつく。


撤退てったいしていく艦があります! 攻撃しますか?」

「そっちはいい! 近づいてくるやからからとにかく殺せ!」


 指示を仰ぐ部下に、ホエイは保身最優先で叫ぶ。




 大砲の射程圏内に入った。ミサイルに加えて砲弾も雨のように降り注ぐ。


 ボンボンボボンボンボボン!


 十六機のビッグスーツはボルキュバインの左右の無限軌道むげんきどうの間、本体下の空間を目指す。ある者はミサイルを射撃兵装で撃ち落とし、ある者はシールドでダメージを軽減させつつ蛇行し、ある者はフレアを巻いて攪乱かくらんし――各々の装備と技術を駆使して回避、迎撃しながら、進んでいく。




 一見して無謀むぼうにしか思えないこの戦いにおいて勝機がないわけではない。




 人が搭乗とうじょうする兵器において、装甲をむやみに厚く、硬くすればそれだけ重量とコストが増し、機動力はがれる。対策として被弾の可能性が低い箇所かしょの装甲は薄くする、削るなどしているのはよくあることだ。


 ボルキュバインのような巨大兵器であれば、製造・ランニングコスト、重量の問題は並の兵器よりはるかに大きい。「敵に狙われにくい・被弾しにくい」箇所の装甲は薄くなっているとみて間違いない。


 先の戦いでスズカ連合の討伐隊はそう読んだ。ボルキュバインであれば恐らくはその巨体の「上」と「下」。大量のミサイルと砲弾をくぐり抜け、接近しなければ攻撃できない箇所。


 読みは当たった。レイラのアカトビを含む数機のビッグスーツが、ボルキュバインの機体底面から攻撃。そこからのダメージはボルキュバインの他の部位に伝播でんぱしていき、やがて撃破に至った。


 今回もそこを狙っていく。しかし、先の戦いでスズカ連合は大量に戦力を削がれ、今回の任務に回せた戦力は地上艦わずか九隻。そこから更に減り、今はビッグスーツ十六機。決して楽な戦いではない。追加できた戦力――「レトリバー」の三人の傭兵ようへいが何人分の働きができるかで成功の確率は大きく変動する。




「ぐあああ!!」


 ボルキュバインの大砲を受けて、一機のビッグスーツが激しく損傷しながら吹き飛び、転がる。二百メートル級の巨体をフルに生かして大量に搭載された火器、そこから遠慮なく繰り出される砲撃をかわすのは容易ではない。一機、また一機と激しい攻撃の餌食えじきとなっていく。




 ボルキュバインの足元と言える距離まで進攻した時には、スズカ連合側のビッグスーツはさらに減り、十二機となっていた。


 目標の機体底面にはかなり近づいている。ここまで来ると射角や、自身への誤射の問題などが出てくるため、ミサイルや大砲の攻撃はほとんど来なくなる。自衛用の別の銃火器が攻撃してくるくらいである。



 ここから先はビッグスーツの白兵戦が中心だ。



 前方から複数の人型の影が接近してくる。ホエイ側のビッグスーツだ。その数は二十機弱。ホエイ側も戦力も削られ厳しいのか、前回の戦いより数を減らしている。それでもモンスタンクと並べて出されると厄介やっかいだ。


 その先頭、ホエイ側のビッグスーツ三機が立ちふさがる。彼らの背中には翼のようにも甲羅こうらのようにも見える一対の装備を背負われている。


 その装備が縦にパカッと割れ、中からいくつもの小さな球体が飛び出し、浮遊する。


「一セット一億テリもするアルバトロス社製の最新自律浮遊砲台だ! 軍事レベルの高性能AI制御による複数の死角からのビーム砲撃を食らえ!」


 バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!


 その数七十二基。大量の浮遊砲台が連合のビッグスーツ達を囲むように飛び、攻撃し始めた!


「うわっ!?」


 連合の兵士は慌てて後ろに飛び退く。元いた場所に浮遊砲台から発射されたビームが着弾する。着地で体勢が崩れている兵士を、間を置かず別の移動砲台が横から狙う!


「うわああ!」


 兵士が思わず叫び、身構える――。




 その時、兵士のビッグスーツの上を影が飛び越えていく。


「しゃらくせえ!」


 ボン!


 影は浮遊砲台をビームソードで一刀両断する。先程ビームを発射した砲台がその影を狙う。が、影――カリオのビームソードの方が早い!


 ボン!


 砲台は爆散。


「よし、今回はしがみついてくるのがいねえから楽だ」




 五機の浮遊砲台がカリオを狙って移動し、囲んでくる。


 バシュゥ! バシュゥ!


 ビームが二本、砲台二機を貫いていく。残った三機の砲台が攻撃の来た方向へ向き直る。アルバトロスの球形の砲台とは別の、くさび形の二機の浮遊砲台が接近してくる。ニッケルのチョークだ!


 シュン! シュン! シュン!


 一機のチョークに対し、二機の球形砲台が左右から挟み撃ちにしようと動く。残ったチョークには球形砲台一機が張り付く形に。ニッケルはこれを逆手に取って、二機に狙われているチョークを距離を取って下がるように動かし、もう一方のチョークの前に釣り出す。


 バシュゥ! バシュゥ!


 釣り出された二機の内、一機をチョークで、一機をビームライフルで撃ち落とす。


 バシュゥ!


 残った一機の球形砲台がチョークを追い回している所を、先程二機の砲台に狙われていたチョークが撃ち落とした。




 ニッケルとカリオを狙って七機の浮遊砲台が接近してくる。


 バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!


 ボボボボボン!


 正確無比なビームピストルの速射で、瞬く間に五機の砲台が落とされた。 リンコの射撃だ!


 ブォン! バシュゥ!


 残った二機をカリオとニッケルが撃破する。




 ブォンブォンブォンブォンブォン!


 バシュゥバシュゥバシュゥバシュゥバシュゥ!


 バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!




 カリオ・ニッケル・リンコの三人はアルバトロスの高級浮遊砲台を次々と撃破していく! 一分と経たぬ内に七十二機あった砲台は半分近くまで数を減らしていた。




「な、こいつら……!」


 予想外の展開に砲台を展開していたホエイ側の三人の兵士達はひるむ。


 その横から機影が兵士達に接近する。カリオ達に気を取られていた兵士達はあわてて向き直る。赤の差し色を入れた白い機体――レイラだ!


 バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!


 付近の浮遊砲台があるじであるビッグスーツを守ろうと一斉にレイラ目掛けてビームを斉射せいしゃする!


 ドン!


 強い踏み込みで地面がえぐれたかと思った次の瞬間、ホエイの兵士の目の前までレイラが、瞬間移動のごとく急接近する。その手には白銀に輝く、美しいロングソード型の実体剣。


 後方でレイラを狙ったはずの浮遊砲台のビームが、何もない地面に着弾する。それとほぼ同時に、レイラは両手で剣をにぎると、右から左へぐ。


 逆水平!


 不可視の一閃がホエイ兵士のビッグスーツを上下に一刀両断した!




 「クソッ!」


 残された二機がビームライフルをレイラに向ける。


 バシュゥ! バシュッバシュッ!


 次の瞬間、複数のビームがその二機を貫いた。ニッケルとリンコの攻撃だ。


 浮遊砲台を展開していた三機は全滅、主を失った砲台は機能を停止して、地面に落下した。




「助かりますわ、このまま一気呵成いっきかせいに――」


 レイラが残りの敵ビッグスーツ隊へ視線を移したその時。


 ガシュガシュガシュガシュガシュッ!


 死角からの射撃! 通常の弾丸より大きい物体が高速で飛来する!


 ブォンブォンブォンブォンブォン!


 その射撃を青白い剣閃けんせんが防ぎ、叩き落した。レイラと射撃の間に割って入ったのはカリオだ。 


「む、もしかしてお節介だったか?」

「いえ、助かりましたわ」


 二人は攻撃の飛んできた方向を見る。右手に大きな釘撃ち銃ネイルガン、左手にハンマーを携えた黄色い機体がそこにいた。


「おいおい……すごい攻め込まれてるし、強いのいっぱいいるし。どうしようかねこれ」


 黄色いビッグスーツのコックピットでメロ・ユーバリは溜息ためいきをついた。




(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ⑥へ続く)



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