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ダンス・オブ・バトルオジョウサマ⑥

 メロ・ユーバリは敵の数を確認する。


(十二機。どれも同じ機体・兵装というわけじゃない。〝要注意〟はさっき浮遊砲台持ちの高級機を難なく倒した、白い機体と黒い三機か)


 ドタタタタタ!


 ボルキュバインの自衛用機銃が連合の機体に向けて発射される。各々が回避行動を取る中、メロも敵が死角に入らないよう動き、間合いを保つ。


(こっちのビッグスーツの数は……十六機か。ここまで攻め込まれるとボルキュバインの攻撃は当てに出来ねえし、厳しいな。やっぱ残りの報酬ほうしゅうは諦めてトンズラすっか。……いや、待てよ)


 メロは敵機を見る目を細くする。


(そうか、どっかで見たことあると思ったら……〝鋼鉄令嬢スティール・フロイライン〟と〝ブラックトリオ〟か! 最近になってマフィア連中が賞金をけ始めた……額は悪くなかったはず)


 メロはネイルガンのトリガーに指をかけ、ハンマーを握る手に力を込める。


(一機か、二機……全員じゃなくても首をれりゃいいもうけになるな。……うし、やるか!)




 ラタタタタタ! ドタタタタ!


 ホエイ側のビッグスーツ隊が、ボルキュバインの下に敵を潜り込ませまいと、連合のビッグスーツを狙って一斉に射撃してくる。


 カリオはそれを左右に跳び回り回避しながら、メロの機体を見据える。


(メロ・ユーバリ……あの機体にちげぇねえはずなんだが、動かねえな。何か考えて……いや、来た!)


 ガシュガシュガシュガシュガシュッ!


 ネイルガンからビッグスーツのてのひら程ある釘を連射しながら、連合のビッグスーツ隊に向かってメロが接近してくる!


 ブォンブォンブォンブォンブォン!


 カリオは釘をビームソードで打ち払いながら、メロに向かって突撃する。ニッケルとリンコは味方を守るように、ビームライフルとビームピストルで釘を撃ち落としていく。


「カリオ!」

「いつも通りだろ! 俺はコイツを抑える! おまえらはボルキュバインを頼む!」




 ドン!


 カリオは地面を強くり、前方へと加速する。一気にメロに詰め寄ると左斜め下から斬り上げる。


 逆袈裟ぎゃくけさ


 メロは大きく身体を左へ動かし回避する。同時に腰を落とし、左手のハンマーを思いっきり横に振るう。


 ゴオォッ!


 ハンマーの外周部に配置された四基のブースターから、青い炎の柱が噴き出す。ハンマーは一気に加速してカリオを狙う!


「あぶ……!」


 カリオは体をひねりながら、ハンマーを振る左手と反対方向へ跳ねる。くうを切るハンマー。


 ズザザザ!


 互いに横へ大きく動いた両者は、共に腰を落とし足をらせながら、姿勢を整え、向き直る。


 ガシュッ!


「ッ!!」


 カリオの右足に強い痛みが走る。見ると釘が右足の甲を貫通している。メロがネイルガンの銃口をこちらに向けていた。恐るべき早撃ち!


 ガシュガシュガシュガシュガシュッ!


 メロはネイルガンを連射しながらカリオに向かって突撃してくる! カリオは足を釘で地面に打ち付けられた状態で剣を振り、釘を打ち落とす!


 メロが再びハンマーを構える。四基のブースターから炎が噴き出す。一方、カリオはビームソードをエネルギー充填じゅうてん部に納刀する――。




 ◇ ◇ ◇




「よし、張り付いた!」


 ニッケルとリンコ、連合兵はボルキュバインの真下の空間へ到着した!


「迷うな撃て撃て撃て撃て!」


 バシュシュシュシュシュシュ!


 各々ビームライフル、ビームピストル、ビームサブマシンガンetc.を上を向いてとにかく撃ちまくる!


 ガラガララガラ!


 底面外装が破壊され落下する。き出しになった駆動部に次々と攻撃が命中し、それらを破壊していく。


 ゴゴゴゴゴ……


 ボルキュバインの動きがにぶり、やがて停止する。




「右第一、第二、左第一駆動くどう部破損! 第一から第四モーター停止!」

「クソクソクソクソクソ! 何をやっているんだ!」


 大量の警報が鳴りひびき、混乱するブリッジでホエイが怒声を上げる。




「イケてる? これ、動き止まったよね?」

「まだこのデカブツの攻撃能力は生きているはずだ、攻め続けねえと! ……つってもこのままじゃ時間かかるな……」


 リンコとニッケルが再び銃を上に構えたその時、横に一機の大柄おおがらなビッグスーツが並び立つ。


「俺にぃいいい!!」 


 突如並んできたその連合のビッグスーツは、巨大な大砲状の武器を両腕で持ち、上に向ける。


「任せろぉおおお!!」


 ゴボォオオーン!!


「な、お、おおおおお!?」


 巨大な大砲の正体は大型ビームバズーカ。取り回しと継戦けいせん能力を捨てた設計から生み出される超破壊力のビームが天を目指してのぼっていく! ニッケルとリンコは目を丸くしてそれを追いかけるように上を向く。


 ゴゴゴゴゴォン!!


 上から響いてくる轟音ごうおん。ビームバズーカはひとしきりビームを出した後、プシューと排熱口から高温の排気をき出して、動作を停止した。持ち主のビッグスーツのパイロットはふぅっと息を吐く。


 バズーカのビームが通った跡はまるでトンネルのようになっていた。金属が溶けて出来た赤い縁取り輪が、いくつも、はるか上方へと連なっていた。




「すっご……やったんじゃない? アレ? っていうか敵さん邪魔しに来ないね?」


 ミシ、ミシ、ギギ、ゴゴゴゴ……


 ボルキュバインからきしむような音が発せられる。やがて音が大きくなると同時に上から次々と金属の塊が降ってきた。


「ヤバい! 崩れる! 離れろ離れろ!」


 ボルキュバインの下の空間からニッケル達はあわてて脱出する。


 山と見紛う二百メートルの怪物が、内側からズタズタにされて崩れ落ちていく。砲塔が地面に突き刺さり、巨大な鉄塊が地面をえぐり、激しい砂埃すなぼこりを上げていく。




 ◇ ◇ ◇




 自身にせまるメロのハンマーにカリオは意識を集中する。〇・〇一秒の刹那に全ての感覚を預ける。


「これでまず一人!」


 メロは勢いよくハンマーを振り下ろした。




 キキィン!




 青白い閃光が走る。


 次の瞬間、メロのハンマーは突然、四つに割れて砕けた。




(……!? 何だ? 斬られた!?)


 突然の出来事に集中が途切れたメロは、反射的に右腕のネイルガンを前に突き出す。 




 ガキィイン!


「なっ!?」

「む!?」


 ネイルガンの銃身が斬られ、宙を舞う。この斬撃は、相対するカリオの攻撃ではない。


「――ウキヨエ流の居合術、一瞬二斬・バッテン。やはり模擬もぎ戦の時は本気ではなかったようですわね」


 白いビッグスーツ、レイラが二人の間に割って入る! 




 両手の武器を破壊されたメロはすぐに距離を取る。


鋼鉄令嬢スティール・フロイライン……! クソ、黒いのに集中しすぎた……待て、まさか!?)


「もう少し周りに気をつかうべきでしたわね。お仲間のビッグスーツは既に皆さん戦闘不能でしてよ」


(え?)


 カリオは周囲を見渡す。そこら中に手足がもげたり、腰から真っ二つになって、動作を停止したビッグスーツが何機も転がっている。十六機いたホエイ側のビッグスーツは、カリオとメロが戦っている間にレイラによって全滅させられていた。


(いや、そんな時間経ってなかっただろ!? すげえな!?)




「くそったれが!」


 ガシャン!


 メロのビッグスーツの前腕部が開き、隠しナイフが飛び出す! メロはそれをにぎるとヤケクソでレイラに突撃する!


 タン!


「金に目がくらんで私達を甘く見たようですわね」


 繰り出されたナイフの刺突を、レイラは跳躍ちょうやくしてかわす。そのままクルクルと華麗に回転して、メロを飛び越えて着地した。




 その瞬間、メロの機体に幾つもの線が走る。


「来世ではお金以外のモノも大切にした方がよろしくてよ。例えばそう――愛とか」




 ズパァン!




 その線に沿って、メロの機体はバラバラに吹き飛んだ。


 一回の跳躍の中で放たれた無数の斬撃。神業ともいえる剣技は名うての傭兵がるビッグスーツををいとも簡単に細切れにした。





「ぐぬぬぬ……! ぐっ、ああーっ! くそっ、痛ってぇー!」


 カリオは右足に刺さった釘を抜くと、痛みに悶絶もんぜつし叫んだ。


「……素晴らしい居合でしたわね。もしかしてわたくし、お節介だったかしら」

「いや、すんげえ助かった。ほら足、こんなだし。あーいてえ……てか、知ってんだ、ウキヨエ流」

「ロマン流の鍛錬たんれんの旅の最中、ウキヨエ流の方と交流したことがありましたの」




 ゴゴゴゴゴゴゴォ!


 カリオとレイラの二人が話していると、突然轟音が辺り一帯に鳴り響く。ニッケル達の攻撃が成功し、ボルキュバインが崩壊を始めたのだ。


「……勝負あったな」

「……ええ」




(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ⑦へ続く)

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