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ダンス・オブ・バトルオジョウサマ⑦




 ◇ ◇ ◇




 崩壊していくボルキュバインから飛び出す物体があった。


 それは飛行機であろうか、一対の翼を持つ小さな乗り物はフラフラと頼りなく飛んだあと、ボルキュバインから少し離れた地面に不時着した。


 乗り物はどうやら脱出ポッドのようだ。ハッチが開くと、カイゼルひげがすっかり乱れてしまった、ホエイ・ヨグトルがい出てきた。


「クソッ、クソッ……クソォーッ!!」


 悔しさのあまり叫ぶホエイ。しかし、この期に及んでまだ諦めていないようである。携帯通信機を取り出して指を震わせながら、操作し始める。


「まだだ……地下基地から残った金を持って……この中の誰か、逃亡の手配をしてくれる者に……ん?……ヒッ!?」


 突如、自分の上から大きな影が被さってきたことに気づいたホエイは、顔を上げて目に入ってきたものに大いに恐怖した。




 白いビッグスーツが、マスケット銃のようなデザインの火器をホエイに向けて、見下ろしている。無生物であるはずの巨人から感じる鋭い殺気が、ホエイの身を震わせる。


「レ、レイラ・モッツァ……!」

「まだ悪あがきしますの? 本当に欠片かけら程の誇りも持ち合わせていない方ですのね」


 ホエイは持っていた通信機を放り出して両手を地面につく。震えながらレイラのアカトビを見上げ、しゃべり始めた。


「ま、まだ金なら残っている! どうだ、いくらでも払う! 連合の連中には私が死んだと伝えて、ここは見逃してくれな――」




わたくしを舐めるな」


 淡々とした、しかし低いレイラの声がホエイの耳にずしりとひびく。




「人の上に立ち、大きな富を得る者には責務がともなう。人々の働きによる恩恵を享受きょうじゅするのであれば、彼らが傷つき、苦しむ時には命をして脅威きょういに立ち向かうが我らのつとめ――それを果たさぬどころか、あまつさえ奪い取る側に回る貴様に、貸す手などない」


 言い放つレイラにホエイは言葉を失う。




 銃口が光る。


 緑色の光が男を包み込んでいく。


 何かを叫んだか、しかしその声は誰にも届くことはなく、光が消えた時、男の姿はもうそこにはなかった。


 こうして、騒動の元凶は遂に地上から消え失せた。




「〝ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)〟って奴だっけか?」

「ひえ~怒らせると怖いねあの人」


 離れた場所で待機しながら、ニッケルとリンコはレイラの会話を盗み聞きしていた。


「動けるか? カリオ」

「ああ、大丈夫」


 カリオは負傷した右足をかばいながら立ち上がる。遠くからは離脱していた地上艦達が、戦った者達をむかえに近づいてきている。


「さて、帰ろう」




 ◇ ◇ ◇




 ――翌日。アオキシティ地上艦停泊所。




 ヨトオカ・バンババン。


 その名の通りバンタイプの自動車で荷室が広い。高い品質と低い故障率の割に価格が安く、多くの街で商用・自家用問わず活躍している。


 レトリバーの格納庫にて、そのヨトオカのベストセラー車は今、朝早くからマヨ・ポテトによる立てこもり事件の現場になっていた。




「おい、返せよ俺の財布」

「イヤですます!」


 マヨはカリオの財布を人質に取り、バンババンの車中に鍵をかけて立てこもっていた。


「何ねてんだ」

「今回私、だいぶほったらかしにされてた気がしまする!」

「いや、仕方ねえだろ!? あんな任務で構ってられるかっての!」


 マヨと松葉杖をつくカリオがバンババンの窓越しににらみあう。


「ちょっとタック! なんで子供が入らないように鍵かけとかなかったの! 危ないしこんなことになってるし!」

「今俺が怒られるタイミングじゃねえだろ!?」

「んでそのかぎはどこにやったんだおまえ、まさかマヨが持ったまま入ってるのか?」


 一方、タックはニッケルとリンコに詰められていた。




「なんでい、じゃあおまえ、お土産みやげはいらねえのか」

「お土産!?」


 カリオの「お土産」というワードにマヨは物凄くわかりやすく反応する。


「今回の依頼人がすんごい金持ちだったんだよ。んでご親切に報酬とは別に超高級チョコレートの詰め合わせをくれてな……一箱一万テリとか言ってたか」

「チョ、チョチョチョチョチョ、チョコ」

「いらねえなら俺らで食っちまうか」


 バァン!


 勢いよく車のドアが開く。


「仕方ありませぬね、財布は返してや……ぐにににに!」


 頬を思いっきりつねられるマヨから財布と車の鍵が没収される。


「オラ、食堂行くぞ」


 松葉杖を持ち直して歩き出すカリオに、マヨがついていく。


「今痛かったので多めにチョコください! カリオより多く!」




 ◇ ◇ ◇




 アオキシティ、モッツァ邸。




「今日の会議は中止?」


 レイラは少し驚いた様子で、そう報告したバジルを見る。


「あれだけの戦闘に参加されたすぐ後ですから。先方もお嬢様のお体を気遣ってくださり、日程を再調整してくださるとのことです」

「でも、私一人の都合で――いえ、ごめんなさい」


 バジルはレイラに優しく微笑ほほえむ。


「今回の件に関して、近隣の住民の方々や協力企業の皆様など、多くの方からお礼の言葉を頂いております。先方のご厚意に甘えて、今は少しお休みしましょう。お嬢様は十分じゅうぶん、モッツァ家の誇りと呼べる程のご活躍をされてますよ」

「それは……少し恥ずかしいわ」


 ソファに座るレイラは、光の差し込む窓の外を見やる。




「……爺やは他に傭兵ようへいの方と仕事をしたことはあるの?」

「他に三回程。色々な方がいらっしゃいますよ」

「そのようね……」


 レイラは昨日の戦いを思い出す。カリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴ、メロ・ユーバリ。


「……昨日は勉強になりましたわ」


 バジルが紅茶の入ったティーカップを差し出す。レイラはそれを一口飲むとふぅっと小さく息を吐く。


「……傭兵を雇うときは毎回模擬もぎ戦が必要ですわね」




(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ おわり)

(バギー・バギー・ディザスターへ続く)









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