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バギー・バギー・ディザスター①

 とある夜。


 昼に草原を南東に走り続けていた地上艦「レトリバー」は、赤土の荒野へと進入していた。




「よし、これで最後か」


 その食堂にて。綺麗きれいに書類がじられた何冊ものファイルがテーブルの上に並べられている。ニッケル・ムデンカイは最後のファイルに書類を綴じると、それをテーブルに並べ、ふうっと大きく息を吐いた。


「……何してんの?」

「終わってから聞くかそれ」


 ニッケルの向かい側の席で、リンコ・リンゴが両手で頬杖ほおづえをつきながらそれを眺めていた。


艦長オヤジが持ってる書類がかなり溜まってたんでな、昔の簿記ぼきとか。事務方の連中も忙しそうにしてたし、整理手伝ってたんだよ」

「ふぇー……」

「興味あるのかないのかどっちなんだよ!?」


 ニッケルがファイルをいくつか手に取って運ぼうとすると、ファイルの中から何かがぴょん、と跳ね出てきた。一センチメートルより少し大きいぐらいの蜘蛛だ。


「ウォオアアア!!」


 ニッケルは大声を上げて跳ね、転んで尻もちをついた。手から離れたファイルが床に散らばる。


「あー……虫、苦手だったっけ?」


 リンコはティッシュペーパーを取ってくると、それを被せる形で蜘蛛を捕獲して、丸めてゴミ箱に捨てた。


「ニッケル、体大きいのに面白いところあるよねー……っておーい、大丈夫?」


 リンコは仰向あおむけに倒れているニッケルの顔を覗く。過呼吸を起こして白目を向いていた。




 ◇ ◇ ◇




「――なーんてことがあったんだよね、昨日の晩。」


 翌朝、レトリバーの食堂でリンコがフォークで目玉焼きをつつきながら話していた。


「そういや虫無理とか言ってたなぁ。それで医務室行きか」


 向かいの席ではカリオ・ボーズがおにぎりを、その隣ではマヨ・ポテトがトーストを頬張ほおばっていた。


「ニッケルみたいなのがさ、小さい虫一匹でノックアウトされるの見るとびっくりするよね~」


 リンコは目玉焼きを口に運ぶ。


「私達より年上っていうのもあるけどさ、結構人を引っ張る方のタイプじゃん? あと、落ち着いていて、たまに雑なトコもあるけれど普段は几帳面きちょうめんだったり。それだけシャキッとしてるのが、もうオバケでも見たかのようにひっくり返っちゃってさ」

「意外っちゃ意外だよな。にしても、他人の書類仕事手伝ってて、そんな目に合うなんてツイてねえな……大丈夫かよニッケルの奴、明日の仕事とか無理じゃねえのか」

「ああ、それは大丈夫そうってヤムさんが言ってた。でもあまり無茶はさせない方がいいよね」


 プ~ン


 マヨの目の前をコバエ似の小さい虫が飛んでいく。


 パァン!


 神速の達人芸。マヨは小さい虫を両手のひらで挟んで叩き、やっつけた!


「そっか、この辺り蜘蛛が出るのか。珍しいな……っておい、食事中にそんなもん見せるな」


 マヨはやっつけたペチャンコの虫をなんとも言えないドヤ顔でカリオに見せつけていた。




 ◇ ◇ ◇




 翌日。


 ネモトシティから十キロメートル程離れた地点――盗賊団「ピクシー・ナイブズ」のアジト。


「死ねオラァアア!!」

「ぶっ殺したらァアアア!!」

「×××の△△△の■■■ー!!」


 響く銃声、立ち上る煙、頭の悪そうな怒声。




 ズバァン!




 カリオの駆るクロジがビームソードで大型のビッグスーツを斬り伏せた。




 カリオ・ニッケル・リンコの三人はビッグスーツを駆り、盗賊団のアジトへと乗り込んでいた。シンプルな盗賊の殲滅せんめつ任務だ。


 外の見張りを素早く倒し、防壁から侵入した三人は盗賊団のビッグスーツを次々に倒していく。敵の数は多いが、練度は圧倒的にレトリバーの三人組の方が上だ。


 バシュバシュバシュ!


 リンコのビームピストルの射撃が盗賊のビッグスーツの頭に直撃する。三機のビッグスーツの頭がリズミカルに胴から離れて吹き飛ぶ。




 一方、ニッケルは複数の敵機に囲まれていた。


「キシャアー!!」

「キシャア!!」

「キシャアァー!!」


 奇声を上げるパイロット達が駆る複数のビッグスーツが、アジト内の建造物や岩壁に飛び移りながら、猿のように跳び回る。


 そのうちの二機が、超振動ナイフ片手にニッケルを目掛けて跳んでくる。一機は正面、もう一機は背後から。挟み撃ちだ!


 バシュゥ! バシュゥ!


「キシャア!?」


 正面から飛びかかってきた一機はビームライフルで胸部を撃ち抜かれる。一方、背後から狙ったもう一機は頭部を撃ち抜かれた。手動操縦式のくさび形浮遊砲台「チョーク」を使った攻撃だ。


「キシャアァアア!!」


 次々と飛び掛かってくるナイフを構えたビッグスーツ。ニッケルは二基の「チョーク」と右手のビームライフルを駆使して撃ち落としにかかる。


 バシュゥ! バシュゥ!


 右手の高所から飛び掛かってきた二機をライフルとチョークで撃ち落とす。その隙を狙って左背後から一機が襲い掛かる。


 バシュゥ!


 その一機の左側から、もう一基のチョークが頭部を撃ち抜く。撃たれた機体は転倒して地面を転がる。


 残りの敵は一機。左手の高所からニッケルを狙う。


 バシュゥ!


「キシャア!」


 一基のチョークが敵機に向かってビームを撃つ。だが敵機は射線を読んで地面に向かって跳び、ビームを回避する。


 バシュゥ! バシュゥ!


 着地した敵機をもう一基のチョークとライフルから放たれたビームが襲い掛かる。十字砲火に対してパイロットの回避の判断に迷いが生じる。


「キシャアア!?」


 それが命取りだった。二本のビームが敵機の胸部を貫通する。パイロットが最後の奇声を上げ、敵ビッグスーツは煙を吹いて倒れた。




「よし、もういねえか」


 ニッケルは額に汗を滲ませながら、油断することなく周囲を見回す。


「ぐあああ!」


 離れた場所でカリオが、ビームソードで盗賊ビッグスーツのコックピットを貫いた。カリオは横目でニッケルの様子をうかがう。


(調子よさそうだな……心配する程でもなかったか)


「そっちは終わったー? こっちは大丈夫だよー!」

「多分大丈夫だ! もう一度周囲を確認して問題なかったら艦へ戻ろう!」


 リンコの呼ぶ声にニッケルが返す。盗賊団「ピクシー・ナイブズ」の殲滅任務は無事、終了した。




 ◇ ◇ ◇




 その夜。


 ネモトシティ、「ハマグリン化学工業」研究棟。


 カサ……カサ……


 体長二メートルを超える大きな昆虫が、ケージの中でうごめいている。ネモトシティから南へ大きく離れた地域に生息する「ギンヨロイオオケントウシムシ」だ。


 カサ……カサ……ジジジ……


 窓から差し込む月明りがケージを照らす。感情の読めぬ青い複眼が、その光に照らされていた。




(バギー・バギー・ディザスター②へ続く)










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