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君と歩くいつか一つになる旅路で①

 赤土の荒野を抜けた先、象牙色の荒野を進んでいく地上艦「レトリバー」。


 その食堂の四人席で、カリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴの三人の傭兵ようへいがテーブルに突っ伏してしおれていた。


「……まあ無理もないかぁ」


 テーブルのそばにやってきたレトリバーのメカニッククルーの一人、ミントン・バットが紙パックジュースを飲みながら、三人をあわれむ。




 充実した戦力に高額の報酬ほうしゅう、手強い賞金首が相手だが、油断せずに頑張ればなんとか倒せそう、なかなかオイシイ仕事では?……とか思っていた時期も三人にはありました。


 突然現れたユデン・イオールの一味。


 突然現れたなんか赤いヤバいのに乗ったヤバい女。


 一応当初の目的であったフロガー・タマジャクの討伐とうばつは成功という扱いになり、依頼主と協議の結果、懸賞金けんしょうきん・報酬共に満額受領。


 ――したものの、億単位の賞金首のチームであるユデン一味と、イルタと名乗る素性不明の女性との交戦があったおかげで、レトリバーの三人の傭兵達は方々《ほうぼう》から質問攻めにあっていた。何せ、どちらも都市・企業・その他諸々もろもろのコミュニティからしたら特級の危険因子だ。


 レトリバーに帰還するや否や、まずは三人とも医務室へ直行して怪我けがの治療をし、その後クロキシティに寄港。重傷のカリオを治療続行のため医務室に残し、軽傷、といっても疲労困憊ひろうこんぱいのニッケルとリンコは、艦長のカソック・ピストンと共に、今回の任務に関連する各所と詳細の報告・共有。それが深夜までかかり、二時間半ほど睡眠をとると、今度は早朝に別の都市からも、オンラインでの対話を要請ようせいされてそれに対応。昼前に終了して、その日最初の食事を取っている途中でまた別のコミュニティからの対話要請。その後も数件、矢継やつぎ早に対応して、カリオが怪我から回復すると彼も巻き込んで――。


 といった感じで、あの激戦以降、戦闘はしていないにも関わらず、この一週間で彼らの心身が休まる事は無かった。




 カリオは、突っ伏したまま頭の後ろの傷をさする。死なずには済んだものの、船医のヤム・トロロが必死で手当てして、目が覚めたのは戦いが終わってから二日後。それからさらに五日経っているが、まだ少し痛む。


「私の新しいピストルも買えたねえ」

「俺の新しいチョークも買えたなあ」


 突っ伏したまま力の抜けた声を発するリンコとニッケル。クロキシティからの報酬で破壊された装備は補充していた。それだけの買い物をしてもまだ余裕があるほどの報酬額だったが、こんな戦いが今後も続いて、体と財布にどんどんダメージを与えられたらたまったもんじゃない。


「敵さんについていけなかったねえ。なんとかできないのかな、人工筋肉アクチュエータえたりとか」

「言い出すと機体丸ごと買い替えることになりそうというか、アレについていける部品も機体も存在するのかっていうのがなあ」


 二人はブツブツと微妙な空気で会話を続けている。




「暇です。暇」


 頭に光る触覚のおもちゃを付けたマヨ・ポテトがニッケルのTシャツのすそを引っ張る。


「あー、ダメだマヨ……悪い、そこのミントンと遊んでくれ……」

「おいコラ」


 ミントンがニッケルに文句を言おうとしたその隣に、カソックがやってきた。


「やっと落ち着いたな。付き合わせちまって悪かった」

「いやーオヤジは悪くねえしなぁ」


 カリオが力の抜けた声で返事をする。


「まだふところに余裕はあるし、一旦ゆっくり休養しよう。半年ぶりにシノハラシティにでも寄らないか? ここからそう遠くはない」




 その言葉を聞くと、ぐったりしていたリンコがガバッと跳ね起き、目を丸くしてカソックの顔を見る。


「……いいの!?」

「大変な仕事が続いた中、皆頑張ってくれたしな。正直俺もゆっくりしたいし」

「やったぁ!」


 リンコが両手を上げて喜ぶのを見て、おぉ、とカリオとニッケルは小さく声に出す。その様子を不思議そうな顔でミントンは見ている。


「ん? 休暇うれしいのはわかるけど……リンコ、いきなり元気になりすぎじゃない?」

「あぁ、ミントンは知らないっけか」


 ニッケルは体をゆっくり起こして伸びをしながら、ジュースを口に含むミントンに答えた。




「コイツの彼氏いるんだよ。シノハラシティに」




 ミントンは口からジュースを思いっきりき出した。黄色い液体でテーブルと傭兵三人がビショビショになる。


「ちょっ、このっ、何すんのよミントン!」

「うっさいわクソ赤モヒカン! 彼氏ってどういうことだよテメエ!」


 聞いてないわよどういことなのとか、なんでコイツにいて私には彼氏ができないのよとか、私だって毎日整備の仕事頑張って苦労してるのにとか、そもそもこんな仕事しながらどうやって作ったのとか、ミントンが次々と恨み節をリンコに浴びせる様子を、ジュースまみれのカリオとニッケルは無の表情で眺めている。


「半年ぶりかぁ、ナシタ、元気にしてるかな」

「カリオはシノハラシティ三回目だったか、四回目?」

「リンコの旦那さんです?」


 いやぁ、結婚はまだなんだけど照れるなぁ、と恥ずかしがるジュースまみれのリンコと、体を起こして話を弾ませ始めたクルー達を見て、カソックは言った。


「シノハラシティ、決定だな。あ、テーブルはいといてくれよ」




(君と歩くいつか一つになる旅路で② へ続く)




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